売買目的有価証券の定義と会計処理

売買目的有価証券とは、価格変動による利益獲得を主たる目的として短期的に保有する株式・債券などの金融商品です。企業会計基準(ASBJ基準第10号)では、売買目的有価証券は「価格変動による利益を得る目的で保有する有価証券」と定義され、期末に時価で評価し、評価差額(時価と簿価の差額)は当期の損益に計上するとされていますasb-j.jp。これは、日本基準において上場株式や社債などの証券を市場価格(時価)で評価し、評価益・損を損益計算書に反映する処理です。一方、IFRS(国際財務報告基準)でも、売買目的(または取引目的)で保有する金融資産は「公正価値を通じて損益に振替」(FVTPL)され、時価評価差額を損益計算書に含めます。つまり、日米ともに、売買目的有価証券は「時価評価(マーケット・トゥ・マーケット)」が基本で、評価益損をその期の損益として扱う点で共通していますasb-j.jpaimc.co.jp

時価(公正価値)評価の意味

「時価評価」とは、公正価値(Fair Value)による評価を指します。IFRS13では、公正価値を「測定日時点において、市場参加者間の秩序ある取引により資産を売却する際に受け取る価格」と定義していますpwc.com。日本基準でも時価算定基準第5項で同様の定義が示されており、両者に表現上の差異はあるものの、いずれも「市場で自由に交換・決済される価格」を意味しますpwc.com。つまり、売買目的有価証券は常に現在の市場価格で評価され、その結果生じた評価差額が損益計算書に反映されます。例えば上場株式であれば、期末日時点の証券取引所の株価がその「時価」となります。

レベル1入力(活発な市場価格)の意味

IFRS13の公正価値ヒエラルキーでは、インプット(評価に用いる価格情報)の信頼性に応じて「レベル1~レベル3」に分類されます。レベル1とは「活発な市場における無調整の公開価格(相場価格)」を指し、同一資産の流通価格が直接利用できる場合に該当しますpwc.com。たとえば、上場株式や上場社債は多くの場合レベル1に分類されますpwc.com。このため「主に市場価格に基づく(レベル1)算定」と注記される場合、当該有価証券は活発な取引市場にあり、売買可能な最新価格で評価していることを意味します。レベル1入力は最も信頼性が高く優先度が高いとされるためpwc.compwc.com、通常は最優先で使用します。日本基準においても、時価算定基準(企業会計基準第30号)を適用する際には、IFRS13に倣いレベル別開示を行う方針が示されており、レベル1~3ごとに時価情報を注記することが求められていますasb-j.jppwc.com

関連する開示要件(注記)

売買目的有価証券のような時価評価対象の金融資産・負債については、決算短信や有価証券報告書の注記で詳細を開示する必要があります。日本基準では「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」により、公正価値で貸借対照表計上する金融資産・負債について、貸借対照表日におけるレベル1~3の時価合計額を注記しなければなりませんasb-j.jp。さらに、その中でレベル2またはレベル3に分類されるものについては、評価に用いた評価技法や仮定(使用インプット)を注記する必要がありますasb-j.jp。特にレベル3(市場価格がないか観察不能なインプットで評価)に分類される場合は、重要な非観察インプットの数量的情報や期首・期末の残高推移(調整表)も開示が求められますasb-j.jpasb-j.jp。IFRSでもIFRS7・IFRS13により、同様に資産・負債を公正価値ヒエラルキー別に開示し、レベルごとに使った手法や感応度分析などを記載することが要求されます。要するに、売買目的有価証券については、公正価値をどのように算定したか(市場価格レベルかモデル算定か)を投資家に示すことが求められますasb-j.jpasb-j.jp

要点まとめ

  • 売買目的有価証券:価格変動益を狙う短期保有の有価証券で、期末時価で評価し、評価差額を当期の損益とするasb-j.jp。日本基準もIFRSも、これらを公正価値(時価)で処理する。
  • 時価評価(公正価値):測定日時点の市場参加者間の取引価格(市場価格)で評価すること。IFRS13および日本の時価算定基準で定義されており、原則として市場価格を用いるpwc.com
  • レベル1算定:公正価値ヒエラルキーにおける最高ランクで、活発な市場における無調整の相場価格で評価する場合を指すpwc.com。売買目的有価証券は多くの場合上場株式等であり、このレベル1入力を基に評価される。
  • 注記開示:公正価値評価を行う金融資産・負債は、貸借対照表日におけるレベル1~3別の時価合計を開示しasb-j.jp、レベル2・3の場合は用いた評価技法や入力情報も注記するasb-j.jp。IFRSでも同様にレベル別の開示が義務付けられている。

以上により、当該注記例は「期末における売買目的商品(有価証券)の時価は○○円で、市場価格ベースの評価(レベル1)で算定している」という意味であり、投資家に対して時価評価の手法と信頼性(市場価格ベースであること)を示す役割を果たしていますasb-j.jppwc.com

引用

金融商品に関する会計基準

https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/rev_f_instr2.pdfIFRSにおける金融商品の考え方~金融資産の分類と会計処理~ | 現場コンサルタントによる「あるある」コラム|エイアイエムコンサルティング株式会社https://www.aimc.co.jp/blog/p-4141/IFRSを開示で読み解く(第37回)「公正価値測定」①概要 | PwC Japanグループhttps://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/ifrs/disclosure/ifrs-disclosure037.htmlIFRSを開示で読み解く(第38回)「公正価値測定」②レベル区分 | PwC Japanグループhttps://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/ifrs/disclosure/ifrs-disclosure038.htmlIFRSを開示で読み解く(第37回)「公正価値測定」①概要 | PwC Japanグループhttps://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/ifrs/disclosure/ifrs-disclosure037.htmlhttps://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_44.pdfhttps://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_44.pdfhttps://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_44.pdfhttps://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/ikan_20240701_44.pdf

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