中小企業会計指針と基本要領の比較と主な違い

適用対象の違い

  • 指針/要領とも対象企業は非上場の中小企業で、金融商品取引法適用会社(証券取引所上場会社など)や会計監査人設置会社(大会社など)は除かれますchusho.meti.go.jp。ただし、「会計参与設置会社(監査役型)」では指針への準拠が適当とされておりchusho.meti.go.jp、実務上、監査法人の監査を受けるような大規模企業や将来上場を目指す企業はより厳密な指針を選択する傾向がありますs-terada.com。一方、要領は規模の小さい中小企業向けに策定されたルールで、税理士・公認会計士等による確認チェックリストと組み合わせれば信用保証協会の保証料率割引対象にもなりますnichizeiren.or.jp

税効果会計

  • 指針には税効果会計の規定がある:企業会計基準(税効果会計)への整合を考慮し、前期純利益に実効税率をかけた金額と法人税額との差異を調整し、税引前・税引後利益を対応させます(指針各論「税効果会計」項目62–67参照)nichizeiren.or.jp。これにより財務諸表上の利益と課税所得の差異を反映し、企業の実態をより正確に示すことができますamericanexpress.com
  • 要領では税効果会計を採用しない:実務事例が少ないことから要領の14項目には「税効果会計」は盛り込まれておらずs-terada.com、税効果会計を適用できる選択肢もありませんs-terada.com。このため要領を使う中小企業では、当期純利益は法人税等を単純に差し引いた実際の当期利益となり、繰延税金資産・負債は計上されません。

引当金・貸倒引当金

  • 指針は詳細ルールあり:貸倒引当金については、債権の種類(一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権など)ごとに具体的な算定方法が指針で定められていますs-terada.com。賞与引当金や退職給付引当金も企業会計基準とほぼ同様の複雑な算定体系が前提で、計上範囲や方法が厳密に規定されています。
  • 要領は簡易・実務重視:要領では貸倒引当金の要件を一般的に示すにとどまり、債権分類ごとの詳細な計算規定は設けられていませんs-terada.com。企業の実情に応じて見積り計上し、重要性の乏しい(少額な)引当金は計上不要と明示していますs-terada.com。賞与引当金や退職給付引当金についても、要領では「賞与引当金は当期負担分」「退職給付引当金は退職一時金制度で自己都合退職分」等の基本概念の記載にとどまり、企業会計基準の複雑な計算は求めません。
  • 表示方法の選択肢:要領では貸倒引当金の貸借対照表表示方法として控除形式・注記形式等3通りを選択できると明示していますchusho.meti.go.jp。指針では特段の言及がないため、原則どおり企業会計基準に準じて表示されます。

減価償却

  • 指針では原則的に償却限度額まで償却:固定資産の減価償却について、指針は「毎期継続的・規則的に行い、税法上の償却限度額まで償却額を計上する」ことを前提としていますs-terada.com。すなわち、税務上の耐用年数および償却方法に従い、原則として最大限の償却を行う扱いです。
  • 要領は「相当の減価償却」を柔軟に許容:要領では「相当の減価償却を行う」(会社計算規則と同文)とし、解説で「一般的には耐用年数にわたって毎期継続的に規則的償却とみなされる」と示していますs-terada.com。ここに「一般的に」の文言を入れることで、要領では必ずしも償却限度額まで計上しなくてもよい余地を残しています。実際、繰越欠損金の消滅を避けるために、利益を確保するよう減価償却費を下限額で計上する等の節税的判断も、要領下では許容される場合がありますs-terada.com
  • 償却原価法(金融資産・負債):指針では満期保有目的債券等に償却原価法を適用する扱いが示されていますが、要領では償却原価法の採用について明示されていませんs-terada.coms-terada.com。要領は簡便性重視のため、金融商品に対しても原則取得原価ベースと考えられ、償却原価法には積極的ではないと解釈されますs-terada.com

金融商品・有価証券

  • 基本的な評価基準:要領では原則として取得原価主義を採用します。具体的には売買目的有価証券は時価評価し、その他の有価証券は取得原価で評価しますchusho.meti.go.jp。株式等(有価証券)の評価方法は総平均法など原価法が基本ですchusho.meti.go.jp
  • 大口保有株式の取扱い:指針では「その他有価証券」に該当する上場株式を多額に保有している場合、市場価格(時価)で評価し、その評価差額(税効果後)を純資産に計上することを定めていますnichizeiren.or.jp。一方、要領では大口株式の時価評価に関する規定はなく、原則的に取得原価を維持しますs-terada.comchusho.meti.go.jp。つまり、指針は有価証券の時価変動を認める場面があるのに対し、要領は要素的に時価変動を排除した安定的な処理を志向していますs-terada.com
  • 金銭債権・デリバティブ:指針は金銭債権・金銭債務の各論でデリバティブ会計にも触れていますが、要領ではデリバティブについては何も規定していませんs-terada.com。また、指針は償却原価法の採用を想定していますが要領には明示がなく、簡便な要領では一般的なコストベースが主とみられますs-terada.coms-terada.com

表示方法(財務諸表の様式・注記)

  • 貸借対照表・損益計算書の様式:要領では貸借対照表、損益計算書等の様式が定められ、主要科目が具体的に示されています。特に要領は一定の様式に則る形式主義的な記載を前提としており、貸借対照表欄に「受取手形割引額」「手形裏書譲渡額」「未経過リース料」などの注記を行うことが明記されていますchusho.meti.go.jp。指針では企業会計原則に準拠する形式となるため、要領ほど細かな指定はありません。
  • 引当金・減価償却累計額の表示方法:要領では貸倒引当金および減価償却累計額の表示方法について選択肢が列挙されていますchusho.meti.go.jpchusho.meti.go.jp。例えば、貸倒引当金は「資産から直接控除」か「個別控除形式」か「注記のみ」の3通りから選択可能ですchusho.meti.go.jp。有形固定資産の減価償却累計額も「直接控除」「控除形式で別建て」「備考欄注記」等3方式が認められていますchusho.meti.go.jp。指針では企業会計基準に従った表示となるため、要領ほど多様な選択肢は示されていません。

実務上の選択と金融・税務への影響

  • 実務的な使い分け:要領は「簡便・簡潔な処理」を目指しているため、会計知識が限られる小規模企業でも導入しやすいルールになっていますamericanexpress.com。一方、指針は内容が詳細で厳格なため、会計参与設置企業や将来上場を目指す企業、金融機関との信頼性を重視する企業は指針を選択する場合が多いですs-terada.comamericanexpress.com。例えば、税理士・会計士からのチェックリストの発行や信用保証協会の割引制度を利用するには要領に基づく計算書類が要件となり、要領の採用は保証料率割引(0.1%)を受けるメリットがありますnichizeiren.or.jp
  • 財務数値への影響:指針は税効果会計や時価評価などを取り入れるため、財務諸表上の利益や資産額は税務ベースと乖離する場合があります。逆に要領では税務処理に準じた結果となりやすいので、税負担の実態が分かりやすい反面、実質的な純資産や損益の評価は保守的になります。また、要領の柔軟な減価償却や引当金取扱い(例:未計上も可)によって利益操作が可能な余地が大きく、税務上の繰越欠損対策など利益調整を行いやすい点も特徴ですs-terada.coms-terada.com
  • 金融機関の見方:一般に、多額の証券時価や大きな変動がないため要領を適用すると安定した財務内容を示せます。実際、信用保証協会は要領を普及促進する目的で、要領準拠の企業に対し保証料率の引下げ制度を導入しましたnichizeiren.or.jp。一方で、取引先や金融機関に正確な信用評価を求められる場合、より正確性・信頼性の高い指針会計の方が評価されるケースもあります。

選択時の判断ポイント

  • 企業規模・将来計画:資金調達力や企業の将来性を重視し大規模化・上場を目指すなら厳格な指針が適しています。一方、小規模かつ簡便な会計を希望するなら要領が導入しやすいでしょう。
  • 会計能力とコスト:経理担当者の会計知識や税理士のサポート体制が十分でなければ、要領の簡易性が有利です。指針の詳細ルールを実装するにはより専門的な知識とチェックが必要となります。
  • 外部ステークホルダーの要望:取引金融機関や投資家が要求する会計基準、監査要件(会計参与設置など)を確認します。保証料割引など要領採用のインセンティブもあるため、銀行融資を重視する場合は要領を選ぶ利点がありますnichizeiren.or.jp
  • 税務効果:税効果会計の有無、減価償却・引当金の取り扱いによる税負担の変動を検討します。税務申告と会計結果のズレを避けたいなら要領、簿外調整を駆使して節税・内部利益操作の余地を重視するなら指針を選ぶ判断材料になりますs-terada.comamericanexpress.com
  • 表現の明確さ:要領はあらかじめ決められた様式・注記項目に沿って表示するため、「見せる会計」の面で統一的です。貸借対照表や損益計算書の書式変更が業種や慣行に合わない場合は、指針に従ってより自由に表記できます。

以上の観点を総合して、各社は自社の実態や目的、社外との関係性を踏まえ、指針か要領かを選択する必要があります。適用範囲と会計方針、税務・金融上の影響を十分に比較検討した上で、経営者の判断に適した会計ルールを採用してください。 

参考資料: 中小企業庁資料chusho.meti.go.jp、日本税理士会連合会資料nichizeiren.or.jp、会計専門家解説s-terada.coms-terada.coms-terada.comchusho.meti.go.jpなど。

引用

(2)各論

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/download/0528KaikeiYouryou-1.pdf中小企業会計要領の解説①…総論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%AD%E4%BC%9A%E8%A8%88/%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%9A%E8%A8%88%E8%A6%81%E9%A0%98-%E7%B7%8F%E8%AB%96/中小会計指針・中小会計要領 – 日本税理士会連合会https://www.nichizeiren.or.jp/taxaccount/sme_support/guide/https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/cpta/business/tyushoushien/indicator/chyushoshishin170317.pdf〖税理士監修〗中小会計要領と中小会計指針の違いとは?中小企業の会計ルールを解説|クレジットカードはアメリカン・エキスプレス(アメックス)https://www.americanexpress.com/ja-jp/benefits/good-news/work/small-businesses-accounting/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/(2)各論https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/download/0528KaikeiYouryou-1.pdf中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/(2)各論https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/download/0528KaikeiYouryou-1.pdfhttps://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/cpta/business/tyushoushien/indicator/chyushoshishin170317.pdf中小企業会計要領の解説②…各論 – 寺田誠一会計著作集https://www.s-terada.com/中小企業会計/中小会計要領-各論/(2)各論https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/download/0528KaikeiYouryou-1.pdf(2)各論https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/download/0528KaikeiYouryou-1.pdf〖税理士監修〗中小会計要領と中小会計指針の違いとは?中小企業の会計ルールを解説|クレジットカードはアメリカン・エキスプレス(アメックス)https://www.americanexpress.com/ja-jp/benefits/good-news/work/small-businesses-accounting/消費税https://www.chusho.meti.go.jp/miraikaigi/2012/download/0329WG-3.pdf(2)各論https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/download/0528KaikeiYouryou-1.pdf

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