背景
- 金本位制の終焉と売り越し時代:1971年に米国がドルと金の交換を停止したことで金の貨幣的役割が失われ、主要中央銀行は1970年代から2000年頃まで金準備の売却を進めた。OMFIFはこの期間を「脱貨幣化期(1973–98年)と販売期(1998–2008年)」と呼び、中央銀行は数十年間にわたり金を売却していたと説明しているomfif.org。
- 買い越しへの転換:2008年の金融危機を機に、中央銀行は安全資産としての金を再評価し、2008年以降は毎年買い越しとなった。OMFIFは「2008年以降、中央銀行は毎年金を純増しており、この8年間の年間平均は約350トンである」と指摘しているomfif.org。
年次データ
近年の数値は世界金協議会(World Gold Council; WGC)のレポートで公表されており、2018年以降の純購入量は以下のとおり。
年 | 純購入量の概要 | 出典 |
---|---|---|
2018年 | 世界の中央銀行による金購入量は651.5トン(前年2017年比74%増)となり、1971年以来の最高水準。第4四半期だけで195トンを購入したforbes.com。 | Forbes記事forbes.com |
2019年 | 中央銀行は605トンの金を買い増した。ロイターは「2019年の購入量は605トンで、2021年の見通し(450トン超)や2020年の255トンを上回った」と報じているreuters.com。 | ロイターreuters.com |
2020年 | 新型コロナの影響で中央銀行の金需要は減速し、WGCの「2021年報告」によれば2021年の購入量463トンは2020年の約255トンから82%増加したとされるgold.org。このことから2020年の純購入量は約255トンと推定できる。 | WGC「Gold Demand Trends 2021」gold.org |
2021年 | 中央銀行は463トンの金を純増し、2020年比82%増となったgold.org。 | WGC「Gold Demand Trends 2021」gold.org |
2022年 | 中央銀行の純購入量は1,082トンで、2023年の報告によると「2022年の1,082トンという記録的な購入量に比べるとわずかに減少した」と述べられている。 | WGC「Gold Demand Trends 2023」 |
2023年 | 純購入量は1,037トンで、2022年の記録に次ぐ水準。WGCは「中央銀行の純購入量は1,037トンで、記録的な1,082トン(2022年)にはわずかに届かなかった」と説明している。 | WGC「Gold Demand Trends 2023」 |
2024年 | WGCの「2024年報告」によると、1,045トンの金が純増され、3年連続で1,000トンを上回った。2010〜2021年の平均購入量(473トン)の倍以上となり、買い越しは15年連続で続いているgold.org。 | WGC「Gold Demand Trends 2024」gold.org |
2025年(第1四半期) | 2025年第1四半期の純購入量は244トンで、過去5年平均を24%上回るとWGCは報じているgold.org。 | WGC「Gold Demand Trends Q1 2025」gold.org |
これらの最新データのほかに、WGCは「中央銀行の純購入量は2010~2021年平均で473トンであり、買い越しが15年続いている」と説明しているgold.org。また、1980〜2000年代初頭には欧州中央銀行による年間400トン以上の売却が続いたspdrgoldshares.comことから、この期間は売り越しが続いていたことがうかがえる。
グラフの作成方法
- データ構築:1971年から2009年までの数値は公開資料が少ないため、オフィシャル資料(OMFIFやWGC)の記述に基づき「売り越しが続いた時期はマイナス、買い越しに転じた時期はプラス」となるように概算した。特に1999年までの数値は中央銀行金協定(CBGA)下での大量売却を反映し、2008年以前はマイナス値とした。2010年以降はWGC報告等の具体的な数値を使用した。
- ハイライト区間:利用者が添付したグラフに倣い、2022年以降のデータを赤色で強調表示した。
- プロット:Pythonの
matplotlib
を用いて折れ線グラフを作成し、縦軸に金の純購入量(トン)、横軸に年を配置した。0ラインを示す横線も加え、売り越し(負の領域)と買い越し(正の領域)の違いを視覚的に分かりやすくした。
作成したグラフ
以下のグラフは、上述のデータを基に中央銀行の金購入量(1971–2025年)を示したものです。2022年以降は赤色でハイライトし、過去の売り越し時期から現在の大量購入期への変遷を視覚的に表現しています。
まとめ
- 長期的な変化:金本位制終了後の1970年代から2000年代初めにかけて、中央銀行は金を継続的に売却しており、1990年代後半には欧州諸国を中心に年間400トン超の売り越しが見られたspdrgoldshares.com。
- 転換点:2008年の金融危機を境に、安全資産として金の重要性が再認識され、中央銀行は金を積極的に購入するようになった。OMFIFによれば、2008年以降の8年間で平均350トン/年を購入し、過去70年で最長の買い越し期間となっているomfif.org。
- 最近の急増:2022年には過去最高の1,082トンを購入し、2023年1,037トン、2024年1,045トンと1,000トン台の買い越しが続いているgold.org。2025年第1四半期も244トンと高水準で推移しておりgold.org、世界的な金備蓄強化の流れが続いている。
- 平均値の比較:2010〜2021年の平均購入量は473トンであり、2022年以降の購入量はこの平均を大きく上回っているgold.org。これは米ドルや他の主要通貨に対する不安定さが続く中、金が再び安全資産として注目されていることを示している。
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