弁証法的考察
テーゼ(命題)
IMFの「世界経済見通し」(WEO)は各国の政府や中央銀行、市場関係者への綿密な聞き取りとデータ分析に基づくため、同レポートから算出される予測には一定の信頼性があるとされる。そのWEOによれば、2026年~2030年にかけて株式市場を保有する国の中ではバングラデシュのGDPが最も急速に伸びると予測される。さらに同国の株式時価総額はGDPの7%程度しかなく、外国人保有比率も1%前後と低い。こうした数字は「市場の割安さ」を示し、今後の成長率を踏まえればバングラデシュ株式に割安な投資機会が存在するという見方につながる。日本の個人投資家の口座開設者はまだ数百人規模であり、市場参加者が少ない現状は先行者利益も期待できる。
アンチテーゼ(反命題)
ただし、楽観的な予測だけに依拠するのは危険である。世界銀行の最新報告によれば、バングラデシュのGDP成長率はFY24に4.2%に低下し、FY25には投資の落ち込みや高インフレにより3.3%程度まで減速するとみられている。政治的不透明感や政府債務拡大を背景に公共投資も抑制されており、金融セクターの脆弱性が経済全体の足かせとなっている。バングラデシュ銀行(中央銀行)もFY25の成長率を4~5%と予測しており、企業の不良債権比率が30%超に達するとの警告を発している。インフレ率は10%台と高止まりしており、金融引き締めが続く中で企業資金繰りは厳しく、株価の上昇には時間がかかるおそれがある。また、証券市場の規模が小さく流動性が低いため、外資系投資家にとっては取引コストや情報の非対称性が大きい。不透明なコーポレートガバナンスや政治リスクも考慮すべきであり、単に「予測成長率が高い=投資先として魅力的」とは言い切れない。
ジンテーゼ(総合)
バングラデシュは人口規模が大きく、繊維産業などの輸出産業も堅調で、長期的には中所得国の仲間入りを目指す経済だ。予測の通り中長期的に高成長を実現すれば、現在の割安な株式市場は大きなリターンをもたらす可能性がある。一方で、短中期的には投資環境を左右するリスク要因が多く、金融セクター改革や税収強化などの政策が遅れれば、WEOの予測を下回る成長にとどまる恐れもある。つまり、将来性とリスクが混在しているのが実情であり、投資を検討する際には「高成長の期待」と「金融・政治リスク」双方を慎重に秤にかける必要がある。個別株の選択についても、財務健全性やガバナンス体制を詳細に調べる姿勢が欠かせない。バングラデシュ経済のポテンシャルを活かすためには、国内外の投資家が安心して参加できるような制度改革と市場拡大が不可欠であり、投資家自身も長期目線でのリスク管理が求められる。
要約
- IMFのWEOは各国への実地調査を踏まえており、2026~2030年の予測ではバングラデシュが最も高いGDP成長率を示すとされている。株式市場規模はGDP比7%、外国人持株比率も約1%と低く、割安感が指摘される。
- しかし、現状のバングラデシュ経済は投資減少や高インフレ、不良債権の増加などで成長が鈍化しており、FY25には3~5%程度まで落ち込むと国内外の分析機関は予測している。
- 株式市場の規模と流動性が小さいこと、政治や金融セクターのリスクが大きいことを踏まえると、高成長予測をもとにした投資には慎重なリスク管理が必要である。
コメント