テーゼ(肯定的な視点)— 上昇継続を支える要因
2025年に入ってから金・銀・プラチナは歴史的な高値を更新し、貴金属全体に強い上昇圧力がかかっている。金は10月に初めてトロイオンス当たり4,000ドルを突破し、年初来50%以上の上昇を見せた。銀も50ドル台半ばまで急騰し、過去10年で最高値圏に達している。プラチナは6月以降に急上昇し、ニューヨーク現物相場は1,680ドル前後、国内先物は1グラム8,000円近辺と過去10年ぶりの水準を付けている。
こうした高騰の背景には、以下の構造的要因が存在する。
- 世界的な安全資産需要と金融緩和:米国では2025年に入って政府機関の長期閉鎖や貿易摩擦、地政学リスクが重なり、米連邦準備理事会(FRB)は利下げサイクルに復帰した。金利低下とドル安により、利息を生まない金属への投資魅力が高まっている。
- 中央銀行やETFによる買い:各国中銀が外貨準備の多様化を進め、金準備を増やしている。貴金属ETFへの資金流入も増加し、現物の市場流動性が逼迫している。
- 供給不足と新産業需要:銀は電気自動車用バッテリーや太陽光パネルに欠かせない素材であり、供給不足が続いている。プラチナは宝飾品需要や燃料電池触媒に対する需要が伸びる一方、南アフリカなど主要産出国での洪水や鉱山再編により3年連続の供給赤字が見込まれている。金との価格差も大きく、割安感から投資資金が流入している。
これらの要素から、2026年に金価格が5,000ドルに達するとの予測も出ており、貴金属相場の上昇基調はなお継続するとする見方がテーゼである。
アンチテーゼ(否定的な視点)— 調整・下落のリスク
一方で、急騰相場に対する警戒感も高まっている。実際、10月上旬にはガザ地区の停戦合意やドル高をきっかけに金相場が4,000ドルを割り込み、銀やプラチナも反落した。相場が過熱しすぎれば調整が入るのは必然であり、以下の要因が下落リスクとして挙げられる。
- 地政学リスクの緩和と投機資金の逆流:紛争の一時的な沈静化や米中貿易交渉の進展で安全資産需要が弱まると、利益確定の売りが出やすい。株式市場が反発すれば投機資金はリスク資産へ回帰し、貴金属から資金が流出する可能性がある。
- 金融政策の転換とドル高:インフレが落ち着き、FRBが利下げを停止または緩やかな利上げに転じると実質金利が上昇し、金属価格の上値を抑える。強いドルはドル建てで取引される貴金属の価格を押し下げる。
- 供給増加と産業需要の減速:プラチナは高値を受けてリサイクル供給が増えつつあり、銀やパラジウムと同様に自動車触媒のリサイクルが本格化すれば供給不足は緩和される。世界経済が減速すれば工業用需要も一時的に落ち込み、銀やプラチナの価格は下押しされる。
- 市場規模の小ささによるボラティリティ:特に銀やプラチナは市場規模が小さく、投機的な資金の影響を受けやすい。急騰後の急落もあり得る。
これらのアンチテーゼは、「まだ上がる」という楽観論に対して市場の変動性や逆風を示している。
ジンテーゼ(総合)— 長期的な実物価値と短期的な変動
テーゼとアンチテーゼを統合すると、金・銀・プラチナの価格は長期的には上昇圧力が続くものの、短期的には調整が避けられないという結論に至る。
通貨価値の希薄化、世界的な債務膨張、エネルギー転換による新たな需要など、貴金属が「価値の保存手段」として再評価される流れは中長期的に続くと考えられる。特に、銀はEVや再生可能エネルギーの成長に伴う工業需要が追い風であり、プラチナは中国での宝飾品需要と燃料電池触媒の需要、供給不足が支えとなる。
しかし、これらのメタルは景気循環や政策動向に敏感で、利下げが織り込まれた後には金利やドルの変動で大きく値動きする。また、供給不足が解消されれば相場は落ち着く。投資家にとって重要なのは、上昇・下落どちらのシナリオにも備え、分散投資やドルコスト平均法などでリスクを管理することである。
要約
- 2025年10月時点で金はトロイオンス当たり約4,000ドル超、銀は約53ドル、プラチナは約1,700ドルまで上昇し、歴史的高値を記録した。
- 上昇要因として、米利下げや地政学リスクによる安全資産需要、中央銀行とETFによる大量買い、銀の再生可能エネルギー需要やプラチナの宝飾品需要増、各金属の供給不足が挙げられる。
- 一方で、停戦やドル高による利益確定売り、FRBの金融政策転換、リサイクル供給の増加や世界経済の減速が下落要因となり、急騰後の調整局面も想定される。
- 長期的には実物資産としての価値が通貨価値を上回る可能性が高く、特に産業用途が増える銀や供給不足が続くプラチナは堅調だが、短期的には変動が大きいため慎重な投資判断が必要である。
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