基本的な考え方
土地や建物を売却した際の譲渡所得は、売却額から取得費と譲渡費用を差し引いて求めます。建物は時間の経過や使用によって価値が減少するため、取得費は購入時の代金等から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。建物の減価償却費の計算方法は、建物の用途(事業用かそれ以外か)や取得時期によって異なります。
なぜ旧定額法なのか
平成19(2007)年度の税制改正により、平成19年4月1日以後に取得した資産には新しい定額法が適用され、残存価額(取得価額の10%)と償却可能限度額(取得価額の95%)が廃止されました。しかし平成19年3月31日以前に取得した建物については旧規定(旧定額法)が適用されます。旧定額法では、取得価額の10%を残存価額として毎年同額を償却し、累計額が取得価額の95%に達した後は残りの額を5年間で均等償却します。
減価償却費の計算方法
非事業用(マイホーム等)
建物が事業に使われていない場合の減価償却費相当額は次のように計算します。
- 取得価額 × 0.9
旧定額法では残存価額を10%とするため、償却の基礎となる額は取得価額の90%です。 - 償却率
建物の構造ごとに定められた旧定額法の償却率を使用します。非事業用の償却率は事業用の耐用年数の1.5倍で求めた耐用年数に対応する率を用います。 - 経過年数
取得日から売却日までの期間を求め、6か月以上の端数は1年に切り上げ、6か月未満の端数は切り捨てます。 - 減価償却費相当額は購入価格の95%が上限で、少なくとも購入価格の5%を残します。
事業用(賃貸物件など)
平成19年3月31日以前に取得した建物を事業に使用している場合は、旧定額法によって毎年の償却費を計算し、その合計額を減価償却費とします。計算は非事業用と同様に取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数で累積額を求め、累積償却額が95%に達したら残額を5年間で均等償却します。事業用の償却率は非事業用より大きくなります。
旧定額法の耐用年数と償却率(代表例)
建物の構造 | 非事業用の耐用年数 | 非事業用の償却率 | 事業用の耐用年数 | 事業用の償却率 |
---|---|---|---|---|
木造 | 33年 | 0.031 | 22年 | 0.046 |
木造モルタル | 30年 | 0.034 | 20年 | 0.050 |
軽量鉄骨(骨格材3mm以下) | 28年 | 0.036 | 19年 | 0.037* |
軽量鉄骨(3mm超4mm以下) | 40年 | 0.025 | 27年 | 0.052 |
軽量鉄骨(4mm超) | 51年 | 0.020 | 34年 | 0.030 |
鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 | 47年 | 0.022 |
*軽量鉄骨(骨格材3mm以下)の事業用については、平成19年3月31日以前に取得した場合は償却率0.037を用いると注記されています。
取得費の計算手順
- 取得価額の確認 – 建物の購入代金や建築費、仲介手数料、登録免許税等を合計した金額が取得価額になります。土地と建物を一括で購入した場合は合理的な方法で按分します。
- 経過年数の算定 – 取得日から売却日までの年数を求め、6か月以上の端数は切り上げ、6か月未満の端数は切り捨てます。
- 減価償却費の計算 – 上記の式に従い、取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数で減価償却費を求めます。事業用の場合は各年の償却費を合計しますが、旧定額法では毎年同額となるため同式で求められます。
- 取得費の算定 – 建物の取得費 = 取得価額 − 減価償却費。減価償却費の累計が取得価額の95%に達した場合は、残額を5年間で均等償却し、最終的に1円が残るようにします。
- 土地部分の取得費 – 土地は減価償却しないため、購入価格や取得時の諸費用をそのまま取得費とします。
計算例
例1 – 非事業用の木造住宅
- 購入時期: 2007年3月1日(旧定額法の適用)
- 売却時期: 2025年5月31日
- 建物購入価額: 2,000万円(土地購入価額は1,000万円)
- 建物の構造: 木造(非事業用耐用年数33年、償却率0.031)
- 経過年数: 2007年3月1日から2025年5月31日まで18年3か月なので、端数6か月未満を切り捨て、18年。
計算:
- 減価償却費相当額: 2,000万円 × 0.9 × 0.031 × 18年 = 1,004万4,000円。
- 建物の取得費: 2,000万円 − 1,004万4,000円 = 995万6,000円(95%の上限1,900万円を下回るのでそのまま採用)。
- 土地の取得費: 減価償却しないため1,000万円。
- 総取得費: 995万6,000円(建物) + 1,000万円(土地) = 約1,995万6,000円。
例2 – 事業用の鉄筋コンクリート造賃貸マンション
- 購入時期: 2006年6月1日
- 売却時期: 2025年10月1日
- 建物購入価額: 4,000万円(土地部分は2,000万円)
- 建物の構造: 鉄筋コンクリート造(事業用耐用年数47年、償却率0.022)
- 経過年数: 2006年6月1日から2025年10月1日まで19年4か月。6か月未満なので切り捨て、19年。
計算:
- 減価償却費: 4,000万円 × 0.9 × 0.022 × 19年 = 1,501万6,000円(95%の上限3,800万円を下回るためそのまま採用)。
- 建物の取得費: 4,000万円 − 1,501万6,000円 = 2,498万4,000円。
- 土地の取得費: 2,000万円。
- 総取得費: 2,498万4,000円(建物) + 2,000万円(土地) = 約4,498万4,000円。
まとめ
平成19年3月31日以前に購入した建物を令和7年に売却する場合、減価償却費は旧定額法で計算します。非事業用・事業用ともに「取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」で求める点は共通ですが、償却率や耐用年数が異なり、経過年数は6か月以上を切り上げることに注意します。累積償却額が購入価格の95%を超えないようにし、超えた場合は残額を5年で均等償却します。計算後、建物の取得費に土地部分の取得費や取得時の諸経費を加えると、不動産の譲渡所得計算に使用する総取得費が求められます。
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