純金上場信託(1540)の基準価額と取引所価格の乖離

背景

2025年秋、東京証券取引所に上場する「純金上場信託(現物国内保管型)」(銘柄コード1540)が基準価額(1口当たり純資産額)に対して10%を超えるプレミアムで取引される事態が続き、東証は10月16日時点で基準価額19,604.9円に対し市場価格22,395円と公表しました。管理会社の三菱UFJ信託銀行も9月30日終値ベースで取引所価格19,000円に対し基準価額17,342.19円(乖離率9.56%)と発表し、1口当たり保有地金が0.9371117gまで減少している点や消費税の扱いに留意するよう注意喚起しました。

これを踏まえ、本稿ではこの乖離現象を弁証法(正・反・合の三段階的考察)により分析し、価格乖離の意味と対処方法を検討します。

正(テーゼ) – 乖離は「不当なプレミアム」であり是正が必要

  • 理論的には収斂すべき
     ETFの市場価格は基準価額を指標にマーケットメイカーが裁定取引を行うことで一致する仕組みです。買いが極めて優勢となっても、追加設定による供給が進めば価格は基準価額へ収斂するはずであり、乖離率9~14%超は制度的な歪みと見る向きがあります。
  • 投資家保護の観点
     多くの個人投資家は流動性の高い1540を選好しますが、取引価格が基準価額より高いまま続くと過大なコストを負担することになります。投資情報サイトでも「乖離が大きすぎて買えない」「1ヶ月近く乖離が続いている」との声が挙がり、投資家保護の観点からも改善が求められます。
  • 追加設定の柔軟性
     ETFは基本的に随時追加設定が行えるにもかかわらず、実際には物理的な地金調達や手続きの制約で即時には供給が増やせない場合があります。運用会社が迅速に追加設定し、裁定取引が機能する環境を整えることが重要という主張です。

反(アンチテーゼ) – 乖離は市場需給の反映であり必ずしも異常ではない

  • 安全資産需要と供給制約
     金はインフレや地政学リスクへのヘッジとして注目され、金ETFが一気に買われると市場価格が上昇します。三菱UFJ信託銀行の開示でも「買いが極めて優勢」で取引所価格が高く推移していると説明しており、需給ギャップがプレミアムの主因と捉えられます。特に現物国内保管型は国内投資家が安心して購入できるため需要が集中し、現物地金の調達や保管に時間がかかるため追加設定にタイムラグが生じます。
  • 長期的には収斂する
     投資家ブログでは「9月中旬以降大きく乖離しているが、一時的な動きはやがて収まり時価相当へ収斂する」との見解が示され、乖離は短期的な現象と捉える意見があります。こうした視点では、プレミアムが大きい局面で利益確定し、基準価額に戻った段階で買い直すなど柔軟な運用が推奨されます。
  • 税制と利便性の価値
     現物の金には消費税がかかるのに対し金ETFの売買には課税されないため、実物より割高に見えても税制メリットや流動性を考慮すると合理的という見方もあります。日々の価格公開や重量減少の説明があり、投資家が情報を理解したうえで選択しているのであれば市場価格の形成を尊重すべきだとする立場です。

合(ジンテーゼ) – 構造要因と市場心理の双方を考慮した対策

  • 乖離の発生要因
     価格乖離は①金価格急騰による安全資産需要、②現物保管型ETFの追加設定に時間がかかる物理的制約、③信託報酬等で1口あたり保有地金が減少すること、④消費税の有無など会計処理の差異、⑤投資家の短期投機心理が重なって生じていると考えられます。
  • 機関と投資家の役割
     運用会社はNAVと市場価格の差が一定率を超えた際に迅速に追加設定手続きを行うなど裁定機能を強化し、東証や管理会社は乖離状況をタイムリーに公表することで情報の透明性を高めるべきです。東証は10月16日時点の乖離状況を提示し注意喚起を行いました。
  • 投資家への提言
     投資家は基準価額と市場価格の差に注意し、乖離率が高い時は投資を慎重に判断することが望ましいです。乖離を利用した裁定取引を検証する投資家もおり、リスクを理解したうえで相対的に低リスクのリターンを狙う手法も存在します。ただし乖離がさらに拡大した場合や長期化した場合のリスクも指摘されています。長期的な金投資を目的とする場合には、乖離に一喜一憂せず積立や他のETFとの比較検討を行うなど総合的な資産運用が必要です。

まとめ

純金上場信託(1540)で観測された価格乖離は、短期的には需給の偏りや追加設定のタイムラグによって生じる一方、裁定取引や情報開示によって次第に収斂する可能性があります。乖離が大きいほど投資家は割高に購入するリスクを負うため、運用会社・取引所は基準価額の迅速な反映と追加設定の柔軟性を確保し、投資家はNAVと市場価格を常に確認しながら投資判断を下すことが望まれます。

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