資産運用立国の光と影

正(テーゼ):資産運用立国の目的と意義

  • 政府は家計金融資産の半分以上を占める現預金を投資へ振り向け、企業価値向上の成果が家計に還元されることによって投資と消費の好循環を実現しようとしている。新しいNISAの抜本拡充や金融経済教育などにより、個人の資産形成を促す取り組みが進んでいる。
  • 政策の柱には、資産運用業の改革・アセットオーナーシップ改革・成長資金供給の多様化・スチュワードシップ活動の実質化・対外発信の強化が掲げられ、金融インフラをトータルで整備することで国民の資産所得向上をめざす。
  • NISAの恒久化や18歳未満向けのジュニアNISA復活案、祖父母から孫への非課税贈与の活用などは、若年層や子育て世代の資産形成を支援する施策である。これにより資産の世代間移転が円滑になり、長期投資の裾野が広がる。
  • 政府は投資家保護を重視し、金融機関に顧客本位の業務運営を義務付けるなど規制を強化した。プリンシプルベースのアプローチによって金融機関が創意工夫を発揮し、質の高い金融サービスを提供する競争を促そうとしている。

反(アンチテーゼ):懸念と批判

  • 日本では貯蓄ゼロの世帯が約3割とされ、投資に回せる資金がない層が多い。資産運用立国は資産を持つ者に恩恵が集中し、格差を拡大する恐れがある。
  • 米英のような金融大国と競うのは現実的ではないとの意見もある。国内の企業が外国資本に飲み込まれ、労働者の待遇が悪化する懸念も指摘されている。
  • 金融庁が投資家保護のために整備してきたルールが形式的な対応を助長し、金融事業者の創意工夫や差別化を妨げているとの反省もある。顧客本位の業務運営の原則が抽象的で、採択していない事業者も多いことが問題視されている。
  • 多くの国民は投資に対してリスクへの不安から動こうとせず、投資教育よりも消費を活性化させる施策の方が即効性が高いとする声もある。文化・教育・寄付などモノを超えた消費への支出が新たな産業と雇用を生むと強調されている。
  • 一部の評論家は、資産運用立国が米英の金融ビジネス拡大に利用され、日本の強みを売り渡す危険性があると批判する。国債の安定消化構造が揺らぎ金利が上昇するなど、マクロ経済への影響を懸念する声もある。

合(シンセーゼ):バランスある展望

  • 資産運用立国は経済成長の一手段にすぎず、実体経済の成長や賃上げ・消費促進など他の政策と両輪で進める必要がある。投資に回せる資産を持たない層への支援として、税制面の再分配や社会保険料負担の軽減、最低賃金引き上げなどが求められる。
  • 投資教育は重要だが、単にリスクとリターンを教えるだけでなく、家計管理・消費行動・ライフプランの知識を包括的に提供することが不可欠である。全国的に金融教育の機会を増やし、幅広い世代が理解しやすい教材と相談体制を整えるべきである。
  • 金融機関への規制は、プリンシプルベースの枠組みを維持しつつ、実効性を高めるためにモニタリングを強化し、問題商品の販売を抑止する仕組みが必要である。投資家が金融事業者の取り組みを比較・評価できる情報開示も拡充すべきだ。
  • 海外資本との協調と国内産業保護のバランスを取り、国内企業への長期資本提供を促す。国内スタートアップへの投資を増やし、産業革新や地域発展へ資金が向かう仕組みを整えることで、資産運用が経済の実体と結びつく。
  • 消費の高度化も並行して推進する。金融資産を持たない層でも文化・教育・寄付などにお金を使えば経済が活性化し所得が増えるという視点を採り入れ、投資と消費の両面から好循環を形成する。

要約

「資産運用立国」は、巨額の家計貯蓄を投資に振り向けて企業の成長投資を促し、賃上げと消費拡大につなげる政策である。新NISAの拡充や金融教育の充実、資産運用業の改革などはその具体策だ。一方、貯蓄ゼロ世帯が多く格差拡大への懸念や、日本が金融大国と競う現実性への疑問、投資家保護の形骸化、投資より消費を重視すべきとの意見など反論も多い。したがって、資産運用政策は賃上げ・消費促進・産業振興と組み合わせて初めて実効性を持ち、金融教育や規制整備、国内産業への長期資本提供など包摂的な対応が必要である。

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