序論
2025年に金価格が史上最高値を更新し、1オンス当たり4,000ドルを超える場面も見られました。米国の景気減速や関税・政府閉鎖への懸念、地政学リスクなどを背景に安全資産としての需要が高まり、金現物価格は年初来で50%以上上昇しました。金を産出したり保有したりする新興国には追い風となり、南アフリカやガーナといった国では株式市場や通貨が大幅に上昇し、ガーナの信用格付けも改善しました。しかし、この高騰は課題やリスクも内包しており、単純な楽観は禁物です。以下では弁証法の枠組み(正・反・合)を用いてこのテーマを考察します。
正(肯定的側面):金価格高騰がもたらす恩恵
- 輸出収入と投資家信頼の増大
金価格の歴史的高騰は新興国に大きな財政的恩恵をもたらしました。金を産出・保有する国々では株式市場が急伸し、投資家の信頼が高まっています。南アフリカではシバニェ・スティルウォーターやアングロゴールド・アシャンティ、ゴールド・フィールズといった主要鉱山株が年初来で3倍に上昇し、FTSE/JSEアフリカ・オールシェア指数は30%以上上昇しています。金価格上昇により債券利回りも低下し、ランドは対ドルで1年ぶりの高値圏へ上昇しています。 - 信用力改善と通貨の強化
ガーナは2022年のデフォルト後、金価格上昇の恩恵を受けて経済再建を進めており、ムーディーズは同国の信用格付けを引き上げました。同国の通貨セディは2025年に約38%上昇し、世界で最も値上がりした通貨になっています。金価格高騰が外貨収入を増やし、信用リスクの改善につながった結果です。 - オルタナティブ投資への資金流入
ウィリアム・ブレア投資顧問のポートフォリオ・マネジャー、ダニエル・ウッドは、金の上昇がウズベキスタンやガーナ、南アフリカといった限られた新興国に有利であり、投資家が米ドルなど先進国通貨から他の資産に資金を移していると指摘しています。ゴールドマン・サックスは南アフリカの鉱業の強さを同国株式や債券上昇の主要因と捉えており、安全資産としての金保有が新興国ファンドに強気の材料を提供しています。
反(否定的側面):金価格高騰がもたらす課題
- 資源依存のリスクと価格変動
高い金価格に支えられた好況は一時的な資源ブームに過ぎず、価格が下落すれば収入が急減し経済が脆弱になる恐れがあります。アシュモア・グループのアレクシス・デ・モネスは、金価格の上昇による資産効果を過度に信用すべきではなく、信用力の源泉と見なすべきではないと警告しています。実際、金相場は米ドルの弱含みや金融環境の緩和など外的要因に依存しており、これらが反転すればリスク資産を圧迫しかねません。 - 環境破壊と違法採掘
ガーナやマリ、ブルキナファソなど多くの産金国では、金価格高騰により小規模な違法採掘「ガラムシー」が拡大し、環境破壊や治安悪化が深刻です。ガラムシーはガーナ国内の水域の約60%を汚染し、鉱山コードの改正や武装勢力の脅威が投資コストを押し上げています。南スーダンでは金の密輸が生産量の20%を逸失させ、南アフリカの深部鉱山では高い運営コストと環境規制が課題となっています。 - 「資源の呪い」と産業競争力
コモディティ価格急騰による通貨高は製造業や農業の競争力を奪い、いわゆる「オランダ病」を誘発する可能性があります。ガーナのセディが急上昇すれば輸出商品の価格競争力が低下し、他の輸出産業が停滞するリスクも指摘されています。また、金価格に頼るあまり財政改革や産業多角化が遅れると、長期的な経済安定を損ねかねません。
合(総合的視点):持続的発展への道筋
金相場の歴史的高騰は新興国に短期的な恩恵をもたらしています。南アフリカでは株式市場と通貨が好調で、ガーナでは通貨高と信用格付けの引き上げが確認されました。この追い風を利用して財政を立て直し、インフラ整備や教育投資を進めることは重要です。しかし、資源価格は循環的であり、環境破壊や違法採掘など負の側面も顕著です。投資家も単に金価格上昇に楽観するのではなく、米ドルや金利動向などマクロ環境を注視しながら分散投資を行う必要があります。
新興国政府はこの好機を一過性のブームで終わらせず、資源収入を外貨準備やソブリン・ウェルス・ファンドとして蓄積し、製造業やサービス業への投資に振り向けるべきです。違法採掘の取り締まりや環境規制を強化し、地域社会との利益共有を進めることも不可欠です。こうした政策が実行されれば、金価格の追い風は持続的な経済発展と社会的安定につながるでしょう。
まとめ
- 2025年の金価格は安全資産需要に支えられ史上最高値を更新し、南アフリカやガーナなどの新興国で株価や通貨が大幅に上昇した。
- 南アフリカの主要金鉱株は年初来で3倍に達し、同国株価指数と債券市場も好調。ガーナは債務再編を進める中で通貨が38%高騰し、ムーディーズによる格上げを獲得した。
- 一方、金価格上昇は違法採掘や環境破壊を助長し、価格下落時の急速な逆風をはらむ。金に依存した経済は「資源の呪い」に陥る可能性がある。
- 投資家や政策当局はこのブームを活用しつつ、財政健全化・産業多角化・環境対策を進めることで、金価格高騰を持続的な成長につなげるべきだ。
コメント