シカゴ・オプション取引所(CBOE)が公開するVIXとSKEWは、米国株式市場のリスクを異なる角度から測る指標です。VIX(恐怖指数)はS&P500指数に基づくオプション価格を用いて30日先までの予想変動率を算出するもので、CBOEは「米国株式市場の30日間の期待ボラティリティを測る指標」と説明しています。VIXはS&P500のコール・プット・オプションの重み付き平均価格から計算され、オプションプレミアムが高いほど市場が急変動を警戒していることを示します。
これに対してSKEW指数は「希少で極端な値動き(テールリスク)の認識」を測る指標です。SKEWはS&P500に対する30日以内のアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)オプションのボラティリティを基に、確率分布の傾きを推定して算出されます。値は通常100〜150の範囲で推移し、100は標準的な分布と見なされ、150近くはブラックスワンのような大きな下落への懸念が高いことを意味します。一方VIXはアット・ザ・マネー(ATM)オプションの暗示的ボラティリティを用いるため、SKEWはより“遠い”価格の保険料(テールリスク)を反映します。
SKEW/VIX比率とは
SKEW/VIX比率は、テールリスクの指標であるSKEWを全体的なボラティリティ指標であるVIXで割った値です。カリフォルニア大学デービス校の学者らは、この比率を「テールリスクをボラティリティに対して調整した指標」と捉えています。比率が高いときは、投資家がブラックスワンのような極端な下落へのヘッジに多くのプレミアムを支払っており、全体的な変動性がそれほど高くないことを示します。TheStreetの解説では、SKEW指数が140以上(テールリスク約14%)の時期に、S&P500とVIX・SKEW・SKEW/VIX比率を並べた図が紹介され、「SKEW/VIX比率が11を超える状態が長く続くと、その後1〜2か月のうちにVIXが平均20%以上急騰することが多い」と報告しています。つまり高い比率は、表面上は平穏でも市場が潜在的な大波への保険に積極的になっている状態と解釈でき、VIXの急騰(短期的な恐怖の高まり)に先行することがあると言えます。
一方、比率が急低下する場合は何が起きているのでしょうか。市場参加者がアウト・オブ・ザ・マネーのテールリスクヘッジから、アット・ザ・マネーの短期的な保護へと資金を移すことを意味します。2025年10月の記事では「アウト・オブ・ザ・マネーでのテールリスクヘッジから直近のアット・ザ・マネー保護へと回転していることが、SKEW/VIX比率の急落に反映されている」と指摘しています。こうした動きは短期的な下落を警戒する投資家が増えていることを示し、市場の調整を先取りしている可能性があると言われます。
ただし、SKEW/VIX比率は万能な予測指標ではありません。SKEW指数自体についても「大規模な市場下落を信頼性高く予測した実績はない」ことが投資サイトで指摘されており、比率が高いからといって必ずしも暴落が起きるわけではありません。高いSKEW/VIX比率は、投資家がブラックスワンに備えている状態を示すにすぎず、実際にそのような事象が起こるかどうかは別問題です。また、比率が低い場合には近い将来のボラティリティを警戒する投資家が多いことを示すものの、市場が必ず下落するわけではない点にも留意する必要があります。
まとめ
- VIX指数は、S&P500オプションを基にした30日先の期待ボラティリティであり、投資家が支払うオプションプレミアムから市場の不確実性を読み取る指標。
- SKEW指数は、アウト・オブ・ザ・マネーオプションの暗示ボラティリティを使ってS&P500のテールリスク(希少だが大きな値動き)を測る指標で、100~150の範囲で推移し、高い値ほどブラックスワン懸念が強い。
- SKEW/VIX比率は、テールリスクへの警戒度を全体のボラティリティに対して調整したものである。比率が高いときはテールリスクへの保険料が高く相対的なボラティリティが低い状態を示し、比率が長く11以上にとどまるとその後VIXが急騰する傾向がある。反対に比率の急低下は、投資家が長期のブラックスワンヘッジから短期的な下落への備えに資金を移していることを示す。
- ただしSKEWやSKEW/VIX比率は市場のセンチメントを表す参考指標に過ぎず、必ずしも株価の大幅な変動を正確に予測できるわけではないことに注意が必要。
このように、SKEW/VIX比率はテールリスクと一般的なボラティリティのバランスを示す指標であり、市場参加者の保険需要の変化を読み解く手がかりとなります。ただし、単独で相場の大局を判断するのではなく、他のリスク指標や経済状況と組み合わせて総合的に考えることが大切です。

コメント