アエロメヒコ再上場にみるメキシコ資本市場復活


主題

メキシコのフルサービス航空会社であるグルーポ・アエロメヒコ(Aeroméxico)は、2025年11月6日にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場予定です。これは2020年のコロナ禍での経営破綻と2022年のメキシコ証券取引所(BMV)からの上場廃止を経て再建した後の再上場です。再上場計画では1,173万米国預託株式(ADS)を1株18〜20ドルで売り出し、約2億2千万〜2億3千万ドルを調達する見込みで、企業価値は約29億ドルとされています。F‑1/Aの修正申請では同条件が再度確認され、2025年11月6日の上場が予定日として記載されています。

以下では、この上場計画をめぐる論点を弁証法に基づき分析し、競合企業の状況も踏まえて合意形成を試みます。

正(テーゼ): 上場による成長機会とメキシコ市場の復活

  • 再建後の財務改善と路線競争力
    アエロメヒコは2024年以降に経営基盤を大幅に改善し、2023年度には売上高49.2億ドル、営業利益7.16億ドルを記録しました。2025年6月期時点で国内外52都市に就航し、メキシコシティをハブとする広範な路線網を持ちます。特にメキシコ‑米国間の路線比率が高く、デルタ航空とのジョイントコーポレーション協定により米国からの需要を取り込んでいます。再上場により得られる資金は機材更新やサービス向上に充てられ、競争力の強化が期待されます。
  • 投資家需要とメキシコ資本市場の復調
    2025年10月に公表された修正届出書によれば、アエロメヒコは1,173万ADSを1株18〜20ドルで販売し、既存株主と合わせて最大2億3,450万ドルを調達する計画です。航空会社の破綻からの再上場というストーリーに加え、ラテンアメリカ航空需要の回復や米国路線の成長期待から投資家の関心は高いと報じられており、同社の再上場はメキシコ企業のニューヨーク上場復活を象徴するものと見なされています。エクイティ市場全体としても、メキシコでは他に約6社のIPO候補があると報じられており、本件が成功すればメキシコ資本市場への海外投資を呼び込む起爆剤となる可能性があります。
  • 業界全体の回復基調
    ラテンアメリカ航空市場では、チリ・ブラジル中心のLATAM航空が2024年にNY再上場を果たし、2024年の純利益は9.77億ドル、機体数347機と大手の地位を示しました。さらに2025年2Q決算でも純利益2.42億ドルと好調を維持し、売上高が前年同期比8.2%増の32.79億ドルとなっています。アビアンカも2024年のEBITDARが12.72億ドル、ネット利益1.17億ドルと、破綻後の再生を背景に堅調な業績を上げています。競合2社が業績改善を背景に再上場や再評価を受けている中で、アエロメヒコの再上場にも追い風が吹いています。

反(アンチテーゼ): リスクと課題

  • 規模の違いと競争環境
    アエロメヒコの機体数は2023年時点で約158機と、LATAMの347機やアビアンカの162機に比べて小さい。LATAMは2025年2Q時点で乗客20.6百万人を運び、調整後EBITDARが前年同期比37.4%増の8.5億ドルに達しています。規模の経済を活かし運航効率を高める競合に対し、アエロメヒコは高コストなフルサービスモデルの維持が課題となります。
  • 航空業界特有の不安定性
    航空業界は燃料価格の変動や景気後退、為替リスクの影響を受けやすい。アエロメヒコは破綻経験が示す通り、収益悪化時の耐性が十分ではない可能性があり、資金調達規模も2億ドル程度と限定的です。国内競合としてはVolarisやViva Aerobusといった超低コスト航空会社が存在し、価格競争が激化する恐れがあります。米国路線ではデルタとの協調が強みである一方、提携依存度の高さは経営の柔軟性を制約するかもしれません。
  • 外部要因と市場の不確実性
    IPOを含む資本市場は金利・為替・政治情勢に敏感であり、2024年からの米国金利上昇や世界経済の減速が投資家心理を冷やす懸念があります。上場後の株価パフォーマンスが市場全体の景況感や他IPOの成功可否に左右されるため、過度な期待は禁物です。

合(シンテーゼ): 均衡ある評価

アエロメヒコのNY再上場は、破綻からの復活とメキシコ資本市場の復調を象徴する意義があります。競合他社が好業績をあげ、ラテンアメリカ航空市場が回復局面にある今、同社の上場は投資家にとって魅力的な「成長ストーリー」を提供します。また、デルタ航空との協力や米国路線の強みは今後も収益の柱となるでしょう。

一方で、アエロメヒコは機体規模や資金調達額が競合に比べて小さく、業界全体のボラティリティや価格競争の激化、為替や燃料価格の変動といったリスクも抱えています。IPOによる調達資金は約2億ドルと限定的であり、運航機材の更新や負債削減など多くの投資ニーズに対して十分とは言い難い側面もあります。

したがって、投資家は同社のフルサービス・モデルの差別化、コスト管理、路線戦略の継続的な改善が上場後の成否を左右することを認識する必要があります。また、IPOの成功は他のメキシコ企業の海外上場の道を開く可能性があるため、今後の進展を注視する価値があります。

競合3社の主要指標

企業対象期間売上高/収入利益指標機体数注目点
アエロメヒコ2024年度(LTM 2025/6)約54.2億ドル営業利益7.16億ドル(2023年度)約158機NYSE上場予定、メキシコ唯一のフルサービス航空会社
LATAM航空2024年度売上高130億ドル;2025年第2四半期売上高32.79億ドル2024年純利益9.77億ドル;2025年第2四半期純利益2.42億ドル360機(2025年2Q時点)2024年NY再上場を達成し、北米・南米網を拡大中
アビアンカ2024年度売上高52.75億ドルEBITDAR12.72億ドル、純利益1.17億ドル162機破綻後に再生。路線数165・乗客3800万人

要約

アエロメヒコは、Chapter 11 再建を経て2025年11月6日にニューヨーク証券取引所へ再上場する予定であり、1,173万ADSを1株18〜20ドルで売り出して約2億3千万ドルを調達、企業価値は約29億ドルになると報じられています。上場で得た資金は機材更新やサービス向上に活用され、メキシコ資本市場全体の活性化にも寄与すると期待されています。

一方、同社の規模は競合であるLATAMやアビアンカに比べて小さく、燃料価格や為替など外部要因の影響を受けやすい点はリスクです。競合他社は既に黒字化を達成して規模と収益性で優位にあり、アエロメヒコはフルサービスモデルによる差別化とコスト管理が課題となります。

総じて、アエロメヒコの上場はラテンアメリカ航空市場の回復とメキシコのIPO市場復活の象徴であるものの、投資判断では競合比較や業界リスクを十分に踏まえた慎重な検討が求められます。

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