FRBのTビル購入は再緩和か、それとも流動性防衛か

テーゼ(正):
現在、米国の金融政策は10月29日付のFOMC声明でQT(量的引き締め)を終了し、FRBが保有するMBS(住宅ローン担保証券)の償還元本を短期国債(Tビル)に再投資する方針を示している。12月から開始予定のこの再投資は、毎月約150億ドル規模と見込まれ、FRBのバランスシート縮小を停止させる一方で長期債への依存を減らして短期債を増やし、銀行システムに流動性を提供して短期金利の安定を図ることが目的とされる。QTがもたらした銀行準備預金の減少とリバースレポ残高の枯渇による資金逼迫を緩和し、2019年や2023年に見られたレポ市場の乱高下を防ぐ効果が期待される。また、準備預金が枯渇すれば銀行の貸し出し能力が低下し、金融システムが不安定化する恐れがあるため、適度な国債購入による流動性補給は景気安定に寄与するという見方がある。

アンチテーゼ(反):
一方で、FRBによる国債買い入れは表向き「準備預金の管理」であり、伝統的なQE(量的緩和)とは異なると説明されているが、投資家からは事実上の金融緩和と受け止められている。準備預金を維持するために資金供給を増やすことは、株式や不動産、AI関連銘柄といったリスク資産への投機熱を再燃させ、インフレを再び押し上げる可能性がある。すでに米国の債務残高は過去最高水準であり、金利も政策当局が「中立」とみなす水準より高めに設定されていることから、追加緩和によって長期的な財政規律が損なわれる懸念も強い。また、QT停止後も銀行準備預金が引き続き減少すれば短期金利が再び急騰し、流動性ショックや中小銀行の破綻リスクが増大する可能性が残る。

ジンテーゼ(合):
この矛盾を解消する鍵は、国債再投資の規模と期間を慎重に調整し、金融市場と実体経済に対する影響を注視することである。FRBはまず短期国債への再投資を毎月の償還額に限定し、バランスシート全体を拡大させない範囲で準備預金を補充する。短期金利を安定させる一方、長期的な資産購入は控え、インフレ率が目標水準に回帰するまで利下げや追加緩和を先送りすることで、過度なバブル形成を抑制できる。また、財務省や規制当局と協調し、レポ市場や銀行の流動性指標を定期的に発表して透明性を高め、市場の期待を管理することが重要である。最後に、将来のQT再開や政策金利の調整を視野に入れつつ、金融緩和の副作用が実体経済に波及しないようマクロプルーデンス政策を併用することで、バブルと資金逼迫の両方を防ぐ道筋が見えてくる。

まとめ:
FRBは2025年12月からQTを停止し、MBSの償還元本を短期国債に再投資する方針を示した。これは準備預金を安定させ、短期金利の乱高下を防ぐための技術的措置と説明される一方、実質的な金融緩和として市場に追い風を与える可能性がある。過剰な流動性供給はAI関連株などのバブルを刺激し、インフレ再燃や財政規律の緩みといった副作用をもたらす懸念があるため、再投資の規模・期間・対象を慎重に調整しつつ、透明なコミュニケーションとマクロプルーデンス政策を組み合わせることが求められる。

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