アンダーパフォームの警鐘:S&P500が示す資本主義の転換点

序論

最近ゴールドマン・サックスが発表したレポートでは、今後10年間の米国株(S&P500)の年率平均リターンを約6.5%と予測し、欧州・日本・新興国がこれを上回るとしました。実際、2025年に入ってからS&P500は欧州や新興国市場のETFより低いパフォーマンスにとどまっており、企業利益成長も来年には世界的に収斂すると予想されています。こうした状況を踏まえ、米国株のバリュエーションはシラーPERで40倍前後と歴史的に高い水準にあり、名目GDP成長が高い新興国への分散投資が支持されています。

正(命題)

**「米国株は高すぎる。新興国株は構造改革と高成長によって上昇余地が大きい」**というものです。

  • 割高な米国株: S&P500のシラーPER(CAPE)は40倍前後で、長期平均やドットコムバブル期に匹敵する水準です。利益率の上昇、減税、低金利といった追い風は今後見込みにくく、インフレを抑えるための高金利が逆風になります。
  • 高い成長余地を持つ新興国: 新興国は人口増加・都市化・中間所得層の拡大によって潜在成長率が高い。中国ではスマート製造・グリーン投資、インドではITサービスや製造業が企業収益を押し上げており、名目GDPの上昇が株価の追い風となります。また、米国株の一極集中を避けるための分散投資が推奨され、為替や原材料価格の影響を受けやすいがリターン予想は10%超と高いとされています。
  • 足元の相対パフォーマンス: 2025年の年初来パフォーマンスを見ると、米国株より欧州株や新興国株の方が大幅に上昇しており、多くの投資家が米国外へ資金をシフトしている。

反(反命題)

これに対し、**「米国株は今後も堅調で、株価の割高さは正当化できる。新興国投資にはリスクが多い」**との反論もあります。

  • イノベーションと収益力: 米国はAI・半導体・バイオテクノロジーなど世界をリードする企業群を擁し、研究開発投資や効率的な資本市場によって長期的に高い利益成長が期待できます。高いシラーPERも将来の利益拡大を織り込んでおり、バリュエーションを単純比較するだけでは投資判断を誤ります。
  • マクロ環境の変化: 高金利は企業にとって逆風ですが、インフレが落ち着けば米連邦準備制度が利下げに転じる可能性があり、その場合は米国株が再び相対的に優位になる余地があります。強いドルは米企業の海外収益を目減りさせますが、逆に新興国通貨の下落は現地投資家に打撃を与えます。
  • 新興国のリスク: 政策リスク・規制の不確実性・地政学的対立・通貨危機など新興国特有のリスクは大きく、成長が株主利益に結びつきにくいこともあります。人口減や不動産不況に直面している中国、汚職やガバナンス問題を抱える国々もあり、楽観的な前提は危険です。
  • パフォーマンスの持続性: 2025年の新興国ETFパフォーマンスが好調でも、各国市場はボラティリティが高く、外部ショックで大きな調整が起こりやすい。逆に米国株は不況時でも企業買収や自社株買いによって下値が支えられる場合が多い。

合(統合)

両者の主張を統合すると、以下のようなバランスの取れた見解が導かれます。

  1. リターンの分散効果を認識する
     米国株のバリュエーションは高いものの、イノベーションや収益力の高さは今後も魅力的です。一方で、新興国株はバリュエーションが低く、長期的成長が期待できるものの、リスク要因も多い。したがって、ポートフォリオを米国株だけに集中させるのではなく、欧州や日本、新興国を含めた国際分散投資が望ましいという点では双方の主張が一致します。
  2. 長期的視点での検討
     10年スパンで見れば、個々の地域の成長率や政策環境は大きく変動します。金利サイクルや為替の変動、テクノロジーの進化などは予測が難しいため、短期的なパフォーマンス差に過度に反応するのではなく、長期投資の視点で地域配分を検討すべきです。
  3. リスク管理の重視
     新興国株式の高リターンは高リスクの裏返しであり、政治・通貨・流動性リスクを考慮する必要があります。米国株でもセクター集中(AI関連の大型株など)に依存しすぎればボラティリティが高まる。資産クラスや地域だけでなく、銘柄や通貨の分散、ヘッジ手段の活用といったリスク管理が重要です。

要約

  • ゴールドマン・サックスは、今後10年間の米国株の年率平均リターンを6.5%と予測し、欧州や新興国が米国を上回るリターンを示すとした。実際、2025年にはS&P500が他地域の市場に後れをとっている。
  • S&P500のシラーPERは40倍前後で、割高感が意識されている。名目GDP成長や構造改革の進展により、新興国のリターン期待は高い。
  • しかし米国はテクノロジー企業の競争力が高く、イノベーションによる利益成長が期待できる。高バリュエーションは低金利や強い企業収益によって支えられており、一概に割高とは言えない。
  • 新興国には政治・規制リスクや通貨変動リスクがあり、成長が投資家リターンに結びつきにくいこともある。
  • したがって、米国株と新興国株のどちらか一方に偏るのではなく、複数地域に分散し長期的な視点で投資することが合理的である。

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