令和8年度税制改正大綱(所得税分野)の概要

基礎控除・給与所得控除の引き上げ

物価上昇への対応として、基礎控除と給与所得控除の額がそれぞれ4万円ずつ増額されます。基礎控除は58万円から62万円に、給与所得控除の最低保障額は65万円から69万円に引き上げられます。これにより所得税がかかり始める水準が約178万円まで上がり、低所得層の負担が軽減されると見込まれています。控除額は今後も物価状況に応じて調整されます。

ひとり親控除の拡充と扶養控除の緩和

ひとり親控除が現行の35万円から38万円に引き上げられ、住民税の控除額も上がります。また配偶者控除や扶養控除の所得要件が緩和され、控除対象となる家族の年間所得要件は約62万円以下に引き上げられます。勤労学生控除の所得要件も85万円以下から89万円以下に引き上げられ、パート収入のある世帯などの就業調整がしやすくなります。

住宅ローン控除の延長・拡充

住宅ローン控除が令和12年末まで延長され、省エネ性能の高い中古住宅や既存住宅に対する優遇措置が拡充されます。省エネ基準を満たす中古住宅の借入限度額が引き上げられ、控除期間は10年から13年に延長。子育て世帯や若年夫婦の住宅ローン控除の上乗せ措置も、中古住宅へ適用が広がります。一方、省エネ基準を満たさない新築住宅の控除は今後縮小される予定です。床面積要件も緩和され、中古住宅に対して40㎡要件特例が適用されます。

NISA制度の拡充

新しい恒久NISA制度に加え、未成年者(18歳未満)へのNISA適用が解禁され、年間60万円まで投資が可能となります。つみたて投資枠の生涯投資上限は600万円に設定され、12歳以上は本人同意のもと引き出しが可能です。また、債券を主な投資対象とする投資信託がつみたてNISAで購入できるようになり、商品選択の幅が広がります。

暗号資産取引への課税方式の変更

暗号資産(仮想通貨)の譲渡益に対して、一定条件を満たす場合に申告分離課税(税率20%)が導入されます。損失は3年間繰り越せるようになり、株式などと同様の扱いになります。一方で、対象外の暗号資産については従来の総合課税ルールが適用され、損益通算はできません。また、暗号資産交換業者に取引情報の報告義務が課され、適正な課税が確保されます。暗号資産デリバティブ取引も先物取引と同様に申告分離課税対象となります。

セルフメディケーション税制の恒久化と拡充

セルフメディケーション税制のうち、スイッチOTC医薬品に関わる部分が恒久化され、その他の一般用医薬品等に関わる部分も延長されます。対象医薬品の範囲が広がり、胃腸薬や生薬成分を含む咳止め、体外診断用医薬品などが加えられます。一方、美容やダイエット目的の医薬品は対象外になります。制度の利用手続きの簡素化や周知も予定されています。

青色申告特別控除の見直し

青色申告特別控除は、電子申告を条件に55万円から65万円へ引き上げられます。また電子帳簿保存を行う事業者はさらに10万円上乗せされ、合計75万円控除が受けられます。電子申告を行わない場合は控除額が大幅に減るため、電子申告・電子帳簿保存の利用が促進されます。

超高所得者への課税強化(ミニマムタックス)

富裕層の税負担公平化のため、ミニマムタックスの適用基準が引き下げられ、課税対象となる所得基準は約3億3千万円超から1億6千5百万円超へと下げられます。同時に税率が22.5%から30%へ引き上げられ、超高所得者に対する税負担が強化されます。

要点まとめ

  • 基礎控除・給与所得控除の増額: 低所得層の税負担を減らすため、控除額が引き上げられ、課税最低限が引き上がる。
  • 家族税制の拡充: ひとり親控除や配偶者控除などの所得要件を緩和し、家族を持つ世帯の控除を受けやすくする。
  • 住宅ローン控除の延長: 2030年末まで延長し、省エネ性能が高い中古住宅に重点を置く。
  • NISAの利便性向上: 未成年でも利用できるようにし、投資信託の対象を多様化。
  • 暗号資産課税の見直し: 分離課税制度を導入し、損失繰越や報告義務を整備。
  • セルフメディケーション税制の恒久化: 対象医薬品を拡大し、制度を恒久化・延長する。
  • 青色申告控除の電子化促進: 電子申告・電子帳簿で控除額を引き上げ、デジタル化を推進。
  • 富裕層への増税: ミニマムタックスを強化し、超高所得者に対する課税を強める。

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