老朽リゾートと選別的上昇:伊東市マンション相場の二極化構造

伊東市は伊豆半島東岸に位置する温泉・観光都市で、総人口は約6万1千人と1990年代後半の7万人超から減少しており、高齢化率は40%台と高い。市域には1970年代以降に開発された別荘・リゾートマンションが多く、老朽化した物件が大量に存在する一方で、観光資源や温暖な気候を活かした移住・二拠点生活の需要もある。こうした背景を踏まえ、伊東市のマンション相場を「テーゼ」「アンチテーゼ」「ジンテーゼ」に分けて考える。

テーゼ:相場全体は低水準で推移し続ける

  • 低い単価と高い築年数
    2025年時点の伊東市全体の中古マンション平均単価は約9~13万円/㎡(坪単価30~42万円台)と、静岡県平均を大きく下回る。取引事例に基づく平均築年数は30~40年台と古く、専有面積70㎡前後の大型住戸が中心である。1970~1980年代の観光ブーム期に建てられたリゾートマンションが多いため管理費や修繕積立金が高額になり、居住用としては割高感がある。
  • 人口減少と高齢化
    伊東市は人口のピーク後、30年近く減少が続いており、2020年時点から約1割近く減った。若年層の流出により購買層が縮小し、転入需要は高齢者の移住やセカンドハウスに偏りがちである。市内経済も観光業に依存し、コロナ禍で観光客が減った時期にはマンション価格が下落した。
  • 売却期間の長期化
    成約までの平均期間は7か月程度と都市部より長い。リゾート仕様の間取りや立地が日常生活向きではなく、流通量が少ないため買い手が付くまでに時間を要する。投資用としての利回りも高くないことから、価格は抑えられがちである。

アンチテーゼ:選別的な需要により一部エリアで値上がり

  • 最近の価格上昇傾向
    2024~2025年にかけて、伊東市の中古マンション価格は前年から約2~3万円/㎡上昇し、前年比25%以上の伸びを記録した。取引件数は少ないものの、2025年11月はここ数年で最も高い坪単価となり、3年で約13%の上昇となった。これは全国的な中古マンション高騰や低金利、インフレ心理が地方にも波及した結果と考えられる。
  • 立地や設備の優位性
    新築・築浅物件や駅徒歩圏、温泉大浴場・オーシャンビューといった魅力を備えた物件は、移住希望者やテレワーカー、インバウンド投資家からのニーズがあり、都心圏より割安な別荘地として注目されている。特に伊東駅周辺や伊豆高原の高台エリアでは価格が堅調で、2000年代以降の分譲マンションは1戸1,000万円台から3,000万円台で成約する事例が増えつつある。
  • 観光回復と再開発
    2023年以降、観光客がコロナ前の水準に戻り、伊東温泉やマリンタウンへの国内外観光が増えた。自治体は中心市街地の再整備や宿泊施設誘致を進め、城ヶ崎海岸周辺では観光施設を含む再開発構想がある。鉄道路線や高速道路の整備も進み、アクセス向上が地価を押し上げる要因となっている。

ジンテーゼ:二極化の深化と将来展望

  • 市場の二極化
    過剰供給のリゾート型中古マンションは、管理費・修繕費が割高で需要が限られており、今後も価格の低迷が続く可能性が高い。築40年以上の物件の成約価格は数百万円台が中心で、保有者が負担に耐えきれず投げ売りする事例もある。一方で、利便性や資産価値の高い物件は都市部との価格差に魅力を感じる移住者が増え、今後もゆるやかな上昇が見込まれる。
  • 地方移住の拡大と需要創出
    コロナ禍をきっかけとしたテレワーク普及により、温暖な伊東市への移住や二拠点居住を検討する層が増えた。また、海外の投資家が温泉付きマンションや民泊可能な物件を購入するケースもあり、観光と居住の融合による新たな需要が生まれている。人口減少の一方で移住者が地域コミュニティに参加し、空き家活用やリノベーションを通じて地域活性化を図る動きも見られる。
  • 長期的な課題と展望
    市全体の人口減少と高齢化は続く見通しで、住宅需要の底上げには都市圏との交通インフラ整備、若年層向けの雇用創出、子育て・医療環境の充実が欠かせない。老朽マンションの建替えやコンバージョンを促進し、管理組合の合意形成支援や補助金制度の整備が求められる。また、観光地としてのブランド強化やワーケーション需要取り込みにより、新たな価値を持つ住宅としての位置付けが進めば、市内マンション市場に持続的な需要が生まれる可能性がある。

まとめ

伊東市のマンション相場は、人口減少と高齢化による需要の低迷や老朽リゾートマンションの大量供給で全体的に低水準にある。しかし、直近数年で全国的な不動産高騰や観光回復を背景に、立地や施設に優れた物件では価格が上昇しており、相場は二極化が進んでいる。今後は老朽物件の再生や街の魅力向上策が重要であり、地域の課題解決と新しい需要創出が相場形成に大きく影響する。

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