序論
日本の不動産を評価する際には、地方税の固定資産税や都市計画税の課税の基準となる固定資産税評価額と、相続税や贈与税の計算の基礎となる相続税評価額という二つの評価制度が存在します。どちらも不動産の価値を算定しますが、その目的・制度・計算方法には違いがあります。ここでは両者の関係を弁証法的に検討し、最後に固定資産税評価額が1 500 万円の場合の相続税評価額の計算過程を示します。引用元の明示は求められていないため省略します。
弁証法による考察
正(テーゼ):固定資産税評価額の立場
固定資産税評価額は、市区町村が固定資産税・都市計画税・不動産取得税を課税するために定める評価額です。主な特徴は次のとおりです。
- 評価主体:市町村長が「固定資産評価基準」に基づいて評価し、課税明細書や固定資産課税台帳に記載されます。土地と家屋ごとに評価され、3年ごとに見直されます。
- 評価基準:土地の場合は公示価格のおよそ70%程度を目安にし、近隣の公示価格や地価を基準に市町村が個別評価します。家屋は建築価値を基に算定され、建物の老朽度などが加味されます。
- 用途:固定資産税や都市計画税など地方税の課税根拠となるため、納税額を決定するための内部的な評価額です。
このように固定資産税評価額は地方税の公平な課税のための行政評価であり、税負担の根拠としての意義を持ちます。
反(アンチテーゼ):相続税評価額の立場
相続税評価額は、相続税や贈与税を計算する際に用いられる評価額です。主な特徴は次のとおりです。
- 評価主体:財産評価基本通達に基づき国税庁が定めた方法に従って納税者自身が評価します。土地の場合は国税庁が公表する相続税路線価や評価倍率表を用います。家屋の場合は固定資産税評価額に1.0を乗じた額が基準となります。
- 評価基準:土地の評価は原則として公示価格の約80%程度とされ、路線価方式や倍率方式で評価します。路線価方式では道路に面した土地の単価(路線価)に補正率や面積を掛け、倍率方式では固定資産税評価額に国税庁が定める倍率を乗じて算定します。家屋の相続税評価額は固定資産税評価額と同額ですが、貸家等は借家権割合や賃貸割合による減額調整が必要となります。
- 用途:国税である相続税・贈与税の課税ベースを決めるための評価であり、相続財産の時価を代替的に示すものです。納税者が正確に計算し、税務署に申告・納税する義務があります。
このように相続税評価額は被相続人の財産の時価を把握するために国税庁が作った指標であり、その評価方法は固定資産税評価額とは異なる基準と手続を取ります。
合(ジンテーゼ):両評価額の関係と調整
両者は目的も評価主体も異なりますが、同じ不動産の価値を基準にするため相関関係があります。特に土地の評価は公示価格を基にするため、以下のような関係が指摘できます。
- 価格水準の差:公示価格に対し、固定資産税評価額は概ね70%、相続税路線価は概ね80%程度を目安に設定されます。理論的には固定資産税評価額に対して約1.14(0.8 ÷ 0.7)の倍率を掛けると相続税評価額に近づきます。
- 計算方法の連動:路線価方式が適用できない地域では、相続税評価額は固定資産税評価額×評価倍率で算定します。評価倍率表は国税庁が公表しているため、自治体の固定資産税評価額が相続税評価額の基礎となります。
- 建物評価の一致:家屋の相続税評価額は原則として固定資産税評価額×1.0で求めます。したがって、自用の家屋であれば両評価額は同額になります。
- 調整要素:相続税評価では借地権割合や借家権割合、各種補正率、小規模宅地等の特例など減額要素が用意されており、同じ固定資産税評価額でも相続税の計算では減額後の評価額が採用されることがあります。土地形状が不整形である、道路に面していないなどの理由で評価額が下がる場合もあります。
このように、固定資産税評価額と相続税評価額は完全に一致するわけではありませんが、基準となる時価の概念が共通であるため、正(固定資産税評価額)と反(相続税評価額)が対立しつつも互いに補完し合う関係と言えます。相続税の申告では固定資産税評価額を手掛かりに概算を求めた上で、路線価や倍率を調べて最終的な評価額を決定することが多いです。
固定資産税評価額が1 500 万円の場合の相続税評価額の計算例
固定資産税評価額が1 500 万円と記載されている場合、相続税評価額はどのように計算されるのでしょうか。ここでは土地と建物それぞれについて代表的な方法を示します。
1. 土地の場合(倍率方式を利用する場合)
公示価格との差による概算
公示価格に対し固定資産税評価額は約70%、相続税路線価は約80%が目安となります。固定資産税評価額から相続税評価額を概算するには、次の式で割戻します。
- 固定資産税評価額1 500 万円を用いると、
1,500 万円 ÷ 0.7=21,428,571円(公示価格の概算)
21,428,571円 × 0.8= 17,142,857円
よって、概算の相続税評価額は約1,714万3円となります。これは路線価や補正率を考慮しない単純な概算です。
倍率方式
国税庁が定める評価倍率表に基づき、固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて相続税評価額を求めます。例えば倍率が1.1の場合は1 500 万円×1.1=1 650 万円となり、倍率が1.3ならば1 500 万円×1.3=1 950 万円と計算されます。倍率は地域や用途により異なるため、国税庁の評価倍率表で確認が必要です。実際の申告では、この評価額から道路条件や不整形地などの減額要素を考慮してさらに調整します.
2. 家屋(建物)の場合
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額に1.0を乗じた金額で求めます。固定資産税評価額が1 500 万円の場合、相続税評価額は1 500 万円×1.0=1 500 万円となります。ただし、家屋が賃貸されている場合には借家権割合や賃貸割合に応じて評価額を減額する必要があります。例えば借家権割合が30%で賃貸割合が100%の場合、相続税評価額は1 500 万円×(1−0.30)=1 050 万円となります。建物を自用している場合は固定資産税評価額と一致しますが、賃貸に供している場合はこのような調整が必要です。
まとめ
- 固定資産税評価額は地方税の課税基準として市町村が3年ごとに評価する指標で、公示価格のおよそ70%を基準にします。相続税評価額は国税である相続税・贈与税の課税基準として国税庁が定める方法に従って納税者が算定します。
- 土地の相続税評価額は路線価方式または倍率方式で求め、固定資産税評価額を割り戻して概算する場合は0.7で割って0.8を掛ける(約1.14倍)。建物の相続税評価額は原則として固定資産税評価額と同額です。賃貸している場合は借家権割合や賃貸割合を反映して減額します。
- 固定資産税評価額が1 500 万円であった場合、土地の相続税評価額は概算で約1 714万円、倍率方式なら倍率次第で1 650万〜1 950万円程度となります。建物の場合は原則として1 500 万円ですが、賃貸していれば借家権割合分の減額が行われます。
このように、固定資産税評価額と相続税評価額は計算の目的や基準が異なるものの、時価を反映するという共通性に基づき相関関係があります。相続税の申告では固定資産税評価額を手掛かりにしつつ、路線価や倍率表、減額要素を確認して適正な相続税評価額を算定することが重要です。

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