序論:テーマの背景
2024年以降、暦年贈与に関する税制は大きく変わりました。従来は「相続開始前3年以内の贈与」が相続財産に加算される仕組みでしたが、2024年からは持ち戻し期間が7年に延長され、相続開始前7年以内の贈与が相続税の課税対象に含まれます。他方、暦年贈与の非課税枠である年間110万円の基礎控除は存続し、相続時精算課税制度にも同額の基礎控除枠が新設されました。
テーゼ:非課税枠と7年ルールの利点
- コツコツ贈与による相続税対策の継続可能性
暦年贈与では、1年の贈与額が110万円以下であれば贈与税が課されません。非課税で資産を移せるため、毎年コツコツと贈与を続ければ、相続財産を圧縮しつつ親族に資産を移転できます。また相続時精算課税制度でも同額の基礎控除枠が新設され、贈与税がかからない範囲が広がりました。 - 7年ルールによる公平性の確保
相続税の回避を目的とした「駆け込み贈与」を防ぐため、亡くなる直前にまとめて贈与された財産は相続財産に加算されます。持ち戻し期間を7年に延長することで、長期的な計画にもとづく贈与か、直前の節税目的かを明確に区別し、相続税の課税の公平性を保てます。 - 早期に贈与を開始すれば課税対象外
7年ルールは2024年1月1日以降の贈与に適用され、延長された4年分の贈与のうち100万円までが加算免除となります。早めに贈与を開始して7年より前に行った贈与は持ち戻し対象にならないため、長期的な相続対策を促進します。
アンチテーゼ:制度の限界とリスク
- 非課税枠内贈与も持ち戻し対象になる
110万円以内の贈与であっても、贈与税の申告有無にかかわらず相続開始前7年以内の贈与なら持ち戻しの対象となります。したがって、「110万円以下なら無条件に安心」という思い込みは危険です。 - 名義預金や形式的な贈与は否認される可能性
親の口座から子の口座へ振り込んでも、子が自由に使えない場合は名義預金とみなされ、相続財産に含まれる可能性があります。毎年同額・同時期の贈与も、税務署から「一括贈与」と疑われ、贈与税の対象になり得ます。 - 7年ルールの延長で効果が薄れる場合もある
相続開始前3年以内に行われた贈与に加え、4~7年前の贈与についても100万円を超える分は相続財産に加算されます。非課税枠を活用していても、長く続けなければ期待した節税効果が得られないことがあります。 - 対象者の限定と例外の複雑さ
7年ルールは原則として将来の相続人への贈与に適用されますが、孫や子の配偶者に対する贈与は対象外となる場合があります。ただし、遺言や生命保険で財産を取得した場合には適用されるケースもあり、ルールを正しく理解しないと逆効果となります。
ジンテーゼ:バランスのとれた活用策
- 早期かつ計画的な贈与
7年ルールの導入により、贈与を早く始めればそれだけ多くの贈与を持ち戻し対象外にできます。子や孫など複数の受贈者に分散して贈与し、毎年110万円の非課税枠を使い切る戦略が効果的です。 - 適切な記録と契約書の作成
名義預金や形式的な贈与とみなされないよう、贈与契約書を毎年作成し、贈与の事実を明確にしておく必要があります。子どもが実際に使える口座へ振込み、使用履歴を残すことも大切です。 - 制度の併用と特例活用
相続時精算課税制度の活用により、2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除を組み合わせて一度に大きな資産移転を行うことも検討できます。教育資金贈与や住宅取得資金の特例などを組み合わせると、さらなる節税が期待できます。 - 対象者の選択と家族全体での検討
7年ルールの適用対象外となる孫や子の配偶者への贈与も選択肢として考えられます。ただし、贈与後の親族関係や将来の相続人変更リスクも踏まえ、家族全体で相談しながら進めることが必要です。 - 専門家への相談
税制改正は複雑であり、長期的な計画を立てるには税理士や司法書士など専門家の助言が不可欠です。制度の最新情報を把握し、適切な申告と記録を行うことで、トラブルや追徴課税を回避できます。
要約
暦年贈与の非課税枠は年間110万円とされ、相続税の節税対策として広く利用されていますが、2024年以降は生前贈与の持ち戻し期間が7年に延長されました。従来の3年ルールに比べ、贈与を始めるタイミングがより重要になり、110万円以内の贈与も7年ルールの対象となる点に注意が必要です。早期から計画的に贈与を行い、記録や契約書を整備することで、非課税枠を活かした節税が可能です。一方で、名義預金や毎年同額の贈与が否認されるリスクや、対象者の限定など複雑なポイントも多く、相続時精算課税制度や各種特例の併用、専門家の助言を得ながら、家族の状況に応じて最適な戦略を選ぶことが求められます。

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