報復関税は票を失う:農業州を直撃した米中対立の選挙的帰結

正:報復関税はトランプ支持地盤に打撃を与え、選挙に影響した

  • トランプ政権は2018年に鉄鋼やアルミニウム、洗濯機や太陽光パネルに高関税をかけ、さらに約2,500億ドル分の中国製品に追加関税を課しました。これに対し中国やカナダ、メキシコ、EUは大豆・豚肉などの農産物に報復関税をかけ、米国の農業輸出12億ドル相当を標的にしました。
  • 対中輸出の約64%を占める大豆を含む報復は、イリノイ州・アイオワ州・ミネソタ州などトランプ支持が厚い農業州に集中しました。研究者らは、報復関税が共和党の支持基盤を狙い撃ちにしたと指摘し、2018年の中間選挙で共和党が失った40議席のうち5議席ほどが貿易戦争に起因すると推定しています。
  • CEPRの分析では、反発を受けた農産品を多く生産する郡では共和党の得票率が下落し、標準偏差1つぶんの報復関税への曝露増加が共和党得票率を平均1.2ポイント低下させたと報告されました。貿易戦争と医療保険の二つの争点を除外した場合、共和党は2018年に失った議席のうち最大15議席を維持できたと推計されています。
  • このような政治的ダメージを受け、政権は2018年夏に市場円滑化プログラムとして120億ドルの農家支援を実施しましたが、CEPRの分析によれば補助金の効果は限定的で、議席喪失を防ぐほどではありませんでした。

反:影響は限定的で、他の要因が選挙結果を左右したという反論

  • 研究によれば、トランプが課した高関税自体は共和党の得票率に統計的に有意な効果を及ぼしておらず、むしろ雇用の保護や国内産業への利益として歓迎する有権者もいました。報復関税の影響は一部の農業郡に集中しており、全国規模では平均効果が小さいという見方もあります。
  • 多くの分析では2018年の中間選挙を左右した主因として医療制度改革(オバマケア)の廃止・置換計画への反発を指摘しており、健康保険への懸念が8議席の喪失に相当すると推定されています。また、政治的「揺り戻し」(2014年・2016年に共和党に大きく振れた郡が、2018年には民主党に戻る現象)など、貿易戦争とは関係ない要因も作用しています。
  • 報復関税は中国自身にも損害を与えたとする反論もあります。CEPRの別研究は、中国とメキシコの報復措置が大豆と豚肉を標的にし、アイオワ州などを狙ったことを認めつつ、同時に中国が自国の輸入依存度が高い品目(大豆)を対象にしたため、自国経済への損失も抱えたと示しています。
  • また、貿易戦争によってトランプ支持層が結束した側面もあるとの見方もあります。保護主義が産業再生や米中競争に対抗する政策として評価された地域では、経済的コストを我慢できるとの声も報じられました。ただし、こうした報告は定量的な裏付けが乏しい点に注意が必要です。

合:経済と政治の複合的な相互作用を踏まえた教訓

  • 2018年の貿易戦争では、中国などが政治的意図を持って農業州に報復関税をかけたこと、そしてその結果として特定の郡で共和党支持が低下したことはデータから明らかです。しかし、報復関税の効果は限定的であり、医療保険や政治的揺り戻しなど他の要因と組み合わさって共和党の敗北が決定づけられたことも確かです。
  • 貿易政策の政治的コストは局所的に現れます。報復関税をかけられた農産物の生産者は損失を直接感じますが、製造業や工業州の一部は高関税による保護を享受します。こうしたコストと恩恵の地域差が、選挙における支持率の変動を生み出しました。
  • 将来の政策立案者にとっての教訓は、貿易戦争が単なる外交・通商手段にとどまらず、国内政治に実質的な影響を与えることです。外国は相手国の政治地理を理解し、報復措置を支持基盤に向けて設計することがあり、その結果として選挙結果が左右されることがある。
  • 2018年の経験を踏まえると、現政権や今後の政権は、中間選挙前に景気や株価を悪化させる政策を避け、必要な強硬策は選挙後に打ち出すなど、経済政策のタイミングに留意する可能性が高いでしょう。また、医療や雇用など他の重要争点とのバランスも慎重に考える必要があります。

要約

2018年、トランプ政権が対中関税を強化すると、中国や他国は大豆や豚肉など米国の農産物に報復関税を課し、アイオワやイリノイなどの農業州—すなわちトランプ支持基盤—に打撃が集中した。研究によれば、報復関税への曝露が大きい郡ほど共和党候補の得票率が低下し、貿易戦争だけで5議席程度を失ったと推定され、医療保険問題と合わせると最大15議席が影響を受けた。ただし、健康保険の廃止計画や政治的揺り戻しなど他の要因も大きく作用し、高関税の効果自体は統計的に小さいという反論もある。全体として、貿易戦争は外交だけでなく国内政治に明確なコストを伴うことが示され、政策立案には地域経済と選挙への影響を慎重に考慮する必要がある。

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