三年連続の陶酔、その先に待つもの


1. 序論:S&P500の歴史的異例性

S&P500は2023~2025年にかけて3年連続で二桁成長(価格ベースで2023年+24.23%、2024年+23.31%、2025年+17.82%)を達成し、年初来では2025年11月末時点で17.8%の上昇となっています。過去には1950~1952年、1995~1999年、2012~2014年、2019~2021年に同様の現象が起きましたが、4年以上連続の二桁成長は1995~1999年(ドットコム期)の1回のみです。

2. 歴史的データの整理

連続二桁成長の期間背景年間価格リターン成長が途切れた翌年
1950–1952年朝鮮戦争による特需1950年+21.68%、51年+16.35%、52年+11.78%1953年−6.62%
1995–1999年ドットコムバブル95年+34.11%、96年+20.26%、97年+31.01%、98年+26.67%、99年+19.53%2000年−10.14%
2012–2014年金融危機後の反動2012年+13.41%、13年+29.60%、14年+11.39%2015年−0.73%
2019–2021年コロナ禍の金融緩和2019年+28.88%、2020年+16.26%、21年+26.89%2022年−19.44%
2023–2025年AIブーム期2023年+24.23%、24年+23.31%、25年+17.82%2026年:未定

この表から、3年連続以上の二桁成長は極めて稀であり、その後の年はマイナスに転じることが多い。

3. テーゼ:2026年は株価の調整局面か?

3.1 歴史的パターンに基づく警戒

前述の通り、1950~1952年や1995~1999年といった連続好調期の直後には、翌年にマイナスの価格変動が発生しました。2023~2025年の上昇率(+24%、+23%、+17%)も高水準であり、このまま4年連続で二桁成長となる可能性は低いと見る向きがあります。

3.2 景気後退のシグナル:サーム・ルール

元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が提唱した「サーム・ルール」では、直近3カ月の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると景気後退入りの可能性が高いとされます。FREDのデータによれば、2025年11月時点のサーム・ルール指標は0.43ポイントであり、Fortune誌も「11月時点で0.43ポイント、12月に4.6%が続けば閾値に到達する」と指摘しています。BLSの統計でも11月の失業率は4.6%となり前年同月より上昇していることから、労働市場はピークアウトしつつあります。

3.3 失業率の上昇は止まりにくい

YChartsの分析では、失業率は2024年1月の3.7%から2025年8月には4.3%へ上昇し、サーム・ルールが警戒水準に近づいていると記されています。失業率が上昇し始めると過去には横ばいに留まった例は少なく、FRBによる2026年末の失業率予想(4.4%)が楽観的すぎる可能性があると指摘する声もあります。

3.4 経済の引き金

米国では2025年末時点で労働市場が弱含み、連邦政府の長期シャットダウンによる経済指標の遅れや消費者マインド低下も見られます。景気後退が現実化すれば企業収益の減速を通じて株価調整を招きやすく、S&P500が4年連続で高成長を続ける可能性は歴史的に低いとするのがテーゼです。

4. アンチテーゼ:楽観論に立脚した反証

4.1 銀行・投資家の強気な見通し

Motley Foolの記事によると、ウォール街の主要銀行は2026年のS&P500に強気の見方を示しており、モルガン・スタンレーとウェルズ・ファーゴは指数が7,800ポイントに達すると予測し、ドイツ銀行は8,000ポイントまで上昇すると見ています。これらは約10%の上昇を想定しており、過去の高パフォーマンスが必ずしも翌年の下落につながるわけではないことを示唆します。

4.2 サーム・ルールの限界とソフトランディング

Fortune誌では、サーム・ルールが中途で閾値を超えた2024年も景気後退は回避されたと指摘し、Fedがソフトランディングを実現した例も紹介しています。失業率の上昇が労働供給の不足による可能性もあるため、単純にリセッションと結び付けるのは早計という見方もあります。

4.3 構造的な変化:AIや財政支援

YChartsは、AIの導入による生産性革命、積極的な財政政策、企業や家計の低金利ロックインなど、従来の景気循環と異なる構造要因を挙げています。これらの要因が経済を下支えし、伝統的な景気指標の意味合いを変える可能性があると指摘しています。

4.4 失業率予測の穏健さ

FOMC参加者の大半は、2026年の失業率予想を4.4%に据え置いており、大幅な悪化は見込んでいません。緩やかな労働市場の調整と金利低下が企業収益を下支えする可能性があるため、株価が二桁成長を続ける余地も否定できません。

5. シンテーシス:折衷的な見解と投資家への示唆

歴史的パターンやサーム・ルールに基づく警戒は無視できず、2026年に株式市場が一時的な調整局面に入るリスクは高いと考えられます。しかし、AIブームや財政支援などによる構造的変化や、ウォール街の強気予想が示すように、単純な景気後退・株安シナリオに決め打ちするのは早計です。以下のような折衷的な姿勢が現実的でしょう。

  1. リスク管理の徹底:過去の例では三年連続の後に調整が起きており、2026年もボラティリティ上昇が予想されます。ポートフォリオの過度な偏りを避け、バリュエーションを意識した銘柄分散が重要です。
  2. マクロ指標の継続観察:サーム・ルール指標、失業率、GDP成長率などを定期的に確認し、景気後退の兆しに迅速に対応する姿勢が求められます。
  3. 構造的追い風の活用:AIやグリーン投資など長期的なテーマは引き続き成長余地があります。単純にリスクオフに傾くのではなく、質の高い企業への投資を検討する価値があります。

最後に要約

S&P500は2023~2025年にかけて3年連続で二桁成長(価格ベースで+24.23%、+23.31%、+17.82%)を達成しており、歴史上まれな現象である。過去の連続二桁成長の後には翌年に株価が下落する例が多く、サーム・ルールの上昇や失業率の上昇が景気後退のリスクを示唆している。これがテーゼの根拠である。一方、ウォール街の主要銀行はS&P500が2026年も二桁程度上昇すると予測しており、サーム・ルールは過去に誤報を出したこともある。AIブームや積極的な財政支援といった構造的変化が経済を下支えする可能性もある。従って、2026年の株式市場は調整局面入りする可能性が高いものの、急激な暴落とは限らず、マクロ指標の動向を注視しながら分散投資とリスク管理を徹底することが重要である。

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