問題提起(テーゼ)
2023〜2025年の3年間でS&P500は年初来ベースで二桁の上昇を記録してきました。2025年末時点で指数は6900ポイント前後まで上昇し、年初来で約18%高い水準にあります。一方、1950年以降を振り返ると二桁の上昇が3年以上続いたケースは五回しかなく、4年連続で続いたのは1990年代のドットコムバブルのみです。その後の年には往々にして株価が調整しています。さらに、失業率の3か月平均が過去12か月の最低値より0.5ポイント上昇すると景気後退入りする可能性が高いとする「サーム・ルール」も0.5ポイントに迫る水準で推移しており、労働市場の悪化と景気後退が視野に入っています。歴史的な経験則と景気先行指標を重視すれば、2026年に4年連続の二桁成長が続く可能性は低く、株価調整のリスクが高まっているという見方がテーゼです。
反対意見(アンチテーゼ)
しかし、現在の状況は過去のバブル崩壊と単純に比較できません。2023年以降の上昇はAI関連投資や企業の利益拡大に支えられており、企業業績は2025年後半も過去最高水準を更新しています。AIの普及に伴う生産性向上は徐々に収益に反映され始めており、2026年も企業利益が10%前後伸びるとの予測があります。インフレ率が落ち着けば米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げに転じる見通しであり、金融環境の緩和は株式に追い風です。また、2025年の上昇は「マグニフィセント7」のような一部の巨大企業だけでなく、金融やインダストリアルなど他のセクターにも物色が広がっているため、市場が一極集中していたドットコムバブル期よりも健全と見る向きもあります。このように、歴史的なパターンに反して株価上昇が持続する可能性を指摘するのがアンチテーゼです。
統合(ジンテーゼ)
テーゼとアンチテーゼの両方を考慮すると、2026年のS&P500をめぐる見通しは単純な強気・弱気の二元論では捉えられません。失業率が上昇してサーム・ルールが発動すれば景気後退が現実味を帯び、市場は調整するでしょう。一方で、AIを中心とした構造的な成長や企業利益の底堅さ、金利低下への期待が株価を下支えする可能性もあり、調整局面が浅く済むシナリオや、二桁に届かないものの緩やかな上昇が続くシナリオも想定できます。したがって、2026年はボラティリティの高い局面が予想されるものの、歴史的なデータに基づく悲観論だけでポジションを決めるべきではなく、マクロ指標と企業業績の両面を注視する必要があります。
まとめ
- 2023〜2025年のS&P500は3年連続で二桁の上昇を記録し、2025年末時点では年初来約18%の上昇となっている。
- 過去には4年連続で二桁成長したのはドットコムバブル期のみであり、その後はいずれも株価が下落している。失業率の3か月平均が0.5ポイント上昇すると景気後退が示唆される「サーム・ルール」も発動水準に近い。
- 一方、AI革命による生産性向上や企業業績の拡大、金融緩和の可能性などから、2026年も一定の株価上昇を期待する声がある。
- 2026年は景気指標の悪化と構造的な成長要因が綱引きする展開が予想され、二桁成長が続くかどうかは不透明である。投資家は歴史的パターンに警戒しつつ、ファンダメンタルズと政策動向を踏まえて慎重に判断する必要がある。

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