読む・書く・所有する:Web1からWeb3への進化

はじめに

World Wide Web の 30 年余りの歴史は、情報の共有からユーザー参加、そして所有へと変遷してきました。Web1 は1990年代の静的な閲覧サイトに代表される「読み取りのみ」の世界でした。その後、ブログやソーシャルメディアが登場して「読み書き可能」な Web2 が生まれましたが、大手プラットフォームがデータとインフラを支配する中央集権的構造になりました。その反動として登場したのが「Web3」で、ブロックチェーン技術を用いて分散化とデジタル資産の所有を実現しようとしています。本稿では世代ごとの特徴を整理し、Web3 の登場をテーゼ(命題)と反テーゼ(対立命題)の対立として捉え、課題と展望を弁証法的に論じます。


Web1:静的で中央集権的な初期インターネット

特徴

  • 静的ページ – Web1 のサイトは HTML ファイルで構成され、動的なデータベース連携がほとんどありません。利用者は他人が作成したページを閲覧するだけで、コメントや共有といったインタラクションはほぼ存在しませんでした。1990年代前半の CERN や大学サイト、初期の Yahoo! や個人ホームページが代表例です。
  • 読み取りのみ (read‑only) – Web1 は「読み取り専用」と呼ばれ、ユーザーは情報を閲覧するだけで書き込むことができませんでした。個人ブログやオンライン百科事典(初期の Wikipedia など)がこれに当たります。
  • 中央集権的管理 – コンテンツはサイト運営者が管理し、利用者による編集や共有はほぼ不可能でした。企業や大学が自分のサーバーにコンテンツをアップロードするモデルです。

課題と評価

Web1 の魅力は静的でシンプルな設計にあり、サーバーの負荷が少なく閲覧体験が一定に保たれました。しかし情報発信の自由度が低く、双方向性がないため、情報は一方向に流れ、ユーザー参加の余地は小さく、中央集権的な構造でした。


Web2:ダイナミックで社会的だがプラットフォーム支配が進む

特徴

  • 双方向性・ユーザー生成コンテンツ – Web2 ではブログや SNS の登場によって利用者がコメントや評価を行い、コンテンツを自ら作成・共有できるようになりました。Facebook、YouTube、Amazon のレビュー機能などが例です。
  • 動的サイト – HTML と JavaScript の発展によりページは動的になり、データベースと連携して瞬時にコンテンツを生成・更新できるようになりました。SNS、ブログサービス、動画配信サービスなどが含まれます。
  • ソーシャル・ウェブ (read‑write) – 多数のユーザーが参加し相互にリンクし合う「社会的な Web」となり、Web2 は「読めて書ける Web」とも呼ばれます。SNS全般やオンラインフォーラムが代表例です。
  • 中央集権的プラットフォーム – Web2 のプラットフォームは広告モデルに基づき、利用者のデータを収集・分析することで利益を得ます。このため利用者はデータを提供してサービスを利用し、プラットフォームにデータを奪われるという批判が強まりました。
  • プライバシー問題と中央権威への依存 – ユーザー行動を追跡するクッキーやトラッカーによりプライバシー侵害が発生し、データ漏えいのリスクが高まりました。オンライン取引や認証は銀行や政府など中央権威を通じて行われるため、利用者は管理者に依存せざるを得ません。

評価と限界

Web2 は双方向性とコミュニティ形成を促進し、コラボレーションや創造性を飛躍的に高めました。しかし、巨大企業がプラットフォームとユーザーデータを掌握する中央集権的構造が強化され、利用者はプラットフォームのサービスと引き換えに個人情報を提供しなければなりませんでした。こうした状況が分散化を志向する Web3 の動機となっています。


Web3:分散化と所有を目指す新世代

特徴

  • 分散化されたインフラ (read‑write‑own) – Web3 はブロックチェーンやノードを基盤とする分散型ネットワークで、ユーザーがデータや資産を自己管理することを目指します。Gavin Wood が「Web3」と命名し、データの所有・制御を利用者に返す「read‑write‑own」モデルを提唱しました。Ethereum や Polkadot 上で動作する dApp、NFT プラットフォームなどが代表例です。
  • スマートコントラクトと dApps – Ethereum に代表されるブロックチェーン上で自律的に動作するスマートコントラクトが Web3 アプリケーションの基盤となります。ユーザーはウォレットで直接アプリにアクセスし、コードにより取引が自動実行されます。分散型金融 (DeFi)、NFT マーケット、DAO などが含まれます。
  • ブロックチェーンによる透明性と信頼性 – トランザクション記録が公開台帳に保存されるため、不正の難易度が高く、データの改ざんが困難です。
  • ユーザーによるデータ所有 – Web3 の目標はデータ所有権を利用者に戻し、個人が自分のデータや資産を管理できるようにすることです。デジタルウォレットを通じて資産を保有し、プラットフォームに依存せずに取引します。
  • 分散型ガバナンス – DAO によって参加者全員がプロジェクトの意思決定に関与できます。従来の企業のようなトップダウンではなく、参加者が投票を通じて運営方針を決めます。

長所と可能性

  • プライバシー保護:データをユーザーが保持するため、中央プラットフォームによる無断収集や広告ターゲティングを抑制できます。
  • 検閲耐性:分散化により単一の権威がサービスを止めたりデータを削除したりすることが難しくなります。
  • 新しい経済モデル:NFT や DeFi によって、コンテンツや資産の所有・取引が直接行えます。これによりクリエイターや参加者はプラットフォームを介さずに収益を得られます。

課題と批判

  • 使い勝手の難しさ – ウォレット管理や鍵管理が一般ユーザーには複雑であり、インターフェースが Web2 より不便です。
  • スケーラビリティ – ブロックチェーンは取引処理能力が低く、処理速度や手数料の高さが問題となっています。
  • 規制と法的枠組み – 暗号資産やスマートコントラクトに関する法整備は進行中で、各国で規制の不確実性が高い状態です。
  • コミュニケーションと理解の難しさ – ブロックチェーンや DAO など専門用語が多く、一般市民への説明や教育が課題です。
  • 倫理・AI による悪用 – Web3 上で偽情報やディープフェイクなど新しいリスクがあり、モデレーションの欠如が問題になり得ます。
  • 相互運用性の欠如 – ブロックチェーン間の互換性が低く、資産やデータを安全かつ便利に移動させる標準が整っていません。
  • 再中央集権化の危険 – 分散化を謳いながら、実際には暗号資産の大部分を少数のアカウントが保有し、プラットフォームも一部の企業に集中していると批判されています。多くの dApp が Infura や Alchemy などのノード運用サービスに依存しており、利用者が自分でサーバーを運用しないため再び中心化が進む危険があります。
  • 詐欺・ハッキングリスク – Web3 の匿名性や規制の不備を悪用した詐欺や盗難が多発しており、大きな損失事例も報告されています。

弁証法的分析:Web2 と Web3 の緊張と統合

テーゼ:Web2 の繁栄と中央集権

Web2 はユーザー生成コンテンツとアルゴリズムによるパーソナライズを実現し、多くのサービスが無料で使える利便性を提供しました。しかし大手企業がデータとインフラを独占し、利用者はプライバシーを失うことになり、この中央集権的な支配がテーゼとなります。

反テーゼ:Web3 の分散化と自己所有

Web3 は Web2 の中央集権に対する反発として登場しました。ブロックチェーンによりデータの所有と透明性を個人に取り戻し、「read‑write‑own」モデルを掲げ、DAO やスマートコントラクトによってガバナンスを分散しようとします。これが反テーゼです。

テーゼと反テーゼの矛盾

  • アクセス性 vs. 分散化の複雑さ:Web2 は利用が簡便で、初心者でも SNS に参加できますが、Web3 は鍵管理やウォレット操作など習熟が必要で一般ユーザーには敷居が高い。
  • スケーラビリティ:Web2 の集中型インフラは高速な処理を実現しているのに対し、Web3 のブロックチェーンは処理速度とコストが課題です。
  • 中央権威の必要性:完全に分散したネットワークには規制や仲裁者が存在せず、詐欺やハッキングに対応しにくい。取引の容易さを求める利用者は Infura や Coinbase など中央サービスに依存するようになり、再中央集権が進みます。
  • 富と権力の集中:理想とは逆に、暗号資産や NFT の価値が一部の大口投資家に集中しており、中央集権的な格差が再現されていると批判されます。

合理的総合(ジンテーゼ)の模索

  1. ハイブリッドモデル – 完全な分散化と完全な中央集権の間でバランスを取るモデルが提案されています。分散台帳を基盤としつつ、ユーザーインターフェースや安全性を向上させるために中央サービスを補完的に利用し、規制当局による監督を導入することで信頼性を高めます。
  2. 分散化の程度と種類の議論 – 分散化の度合いを増やすのではなく、どの部分を分散し、どの部分を中央管理に残すかを議論する必要があります。公共財としての基盤層は分散化し、ユーザーインターフェースやカスタマーサポートなど効率が求められる部分は中央化する折衷案が考えられます。
  3. 相互運用性と標準化 – 複数のブロックチェーンが互換性を持ち、資産やデータを安全に移動できる共通基盤を整備することで、分散化の利点を保持しつつ利便性を高めます。オープンソースコミュニティや標準化団体が中心となり、プラットフォームのロックインを防ぐべきです。
  4. ユーザー教育と支援 – ウォレット管理や暗号のリスクを理解するための教育が不可欠であり、より直感的な UI/UX の設計が求められます。地方自治体や教育機関がデジタルリテラシー向上に取り組むことで、新技術の普及を支えます。
  5. 規制の整備 – 分散型金融や暗号資産の利用に対する明確な法的枠組みを提供し、悪質なプロジェクトや詐欺から利用者を保護します。透明性ある規制はイノベーションを阻害するのではなく、健全な市場を生み出す鍵となります。

結論

Web1 から Web3 への進化は、情報共有の方式を「読む」から「書く」、そして「所有する」へと広げました。しかし、Web3 が掲げる分散化と自己所有の理念は、実装の複雑さやスケーラビリティ、規制の未整備、富の集中などの課題に直面しています。弁証法的に見ると、Web2 の中央集権と Web3 の分散化は対立する概念ですが、この矛盾を乗り越えるためには両者の長所を取り入れたハイブリッドモデルや新しい規制・標準化が必要です。ユーザー体験と社会的信頼を両立させることで、初めて Web3 は理想と現実の間のギャップを埋め、次の段階へと進化できるでしょう。


要約

  • Web1 は静的なコンテンツで構成された「読み取り専用の Web」で、ユーザーは情報を閲覧するだけでした。コンテンツは運営者が中央集権的に管理していました。
  • Web2 はブログや SNS によって利用者同士が情報を共有し、ユーザー生成コンテンツが主流となる「読んで書ける Web」です。データとインフラが大手プラットフォームに集中し、プライバシー侵害や中央権威への依存が問題となりました。
  • Web3 はブロックチェーンやスマートコントラクトにより分散化とデータの自己所有を目指す「読んで書いて所有する Web」です。DAO を通じた分散型ガバナンスやデジタル資産の取引を可能にしますが、利用の難しさ・スケーラビリティの問題・規制の不確実性・再中央集権化・詐欺リスクなど多くの課題があります。
  • 弁証法的視点では、Web2 の中央集権モデル(テーゼ)と Web3 の分散化(反テーゼ)が対立しており、その矛盾を克服するためにハイブリッドモデルや標準化、教育、規制の整備といった「総合」が求められています。ユーザー利便性と個人の権利のバランスを模索することで、Web3 は次の段階へ進化できると考えられます。

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