高騰する金価格と増えない供給:「ピークゴールド」再考

背景

世界の鉱山からの金供給は近年横ばいで推移している。2018年には年間約3,658トンと過去最高を記録したが、その後はほぼ横ばい状態が続き、2024年の生産量は3,645トンと依然として高い水準だった。2025年は第3四半期までの実績から新記録に達する可能性があると見込まれており、世界的な金価格の高騰にもかかわらず生産は緩やかな増加に留まっている。この状況は「ピークゴールド」という議論を呼び起こしている。

命題(ピーク説)

ピーク説の立場では、鉱山からの金生産がすでにピークに達している、あるいは近い将来にピークアウトすると主張する。主な根拠は以下の通りである。

  • 生産量の停滞:2018年以降、年間生産量はほぼ横ばいであり、2024年も2018年を僅かに下回る水準にとどまった。増加率が低い状態が長期化している。
  • 新規発見の減少:2000年代後半を境に大型鉱床の発見数が減少し、近年は世界的に大規模な新規発見がほとんどない。2020年以降では数件に過ぎず、埋蔵量の質も低下している。
  • 品位の低下とコスト増大:既存鉱山の品位(採鉱対象となる鉱石中の金濃度)は年々低下しており、採掘・精錬のコストが上昇している。新規プロジェクトは遠隔地や環境規制の厳しい地域に位置することが多く、開発のハードルが高い。
  • 資本支出の減退と規制圧力:環境・社会的な懸念から許認可に時間がかかり、鉱山会社の資本支出が抑制される傾向がある。鉱業に対する反発や規制強化も、開発や拡張を遅らせる要因となっている。
  • 古い鉱山の枯渇:既存の大規模鉱山は段階的に生産量を減らし閉山に向かっている。新しい鉱山がそれを補完しきれなければ、全体の供給は縮小していく。

こうした点から、「金は間もなく枯渇し、ピーク生産が過ぎれば減少局面に入る」とする見方が生まれている。

反対命題(増加余地説)

反対の立場では、鉱山の金生産は今後も増加または横ばいを保ち、急激な減少は起こらないと主張する。この立場の論拠は以下の通りである。

  • 新規プロジェクトと拡張:カナダや米州を中心に新しい金鉱山が開発中であり、既存鉱山の拡張計画も進んでいる。2025年には複数の新規鉱山が商業生産を開始し、生産量増加に寄与する見込みだ。
  • 価格上昇による投資意欲の向上:金価格の高騰は鉱山会社の利幅を押し上げ、再稼働や拡張への投資意欲を高めている。閉鎖していた鉱山が再開され、小規模採掘(ASGM)の増加も全体の供給を押し上げる要因となる。
  • 備蓄資源の豊富さ:世界全体で確認されている可採埋蔵量は現在の生産量を14年程度維持できる規模があり、未確認資源を加えると30年以上の潜在的な供給があるとされる。新規発見が限られていても既存資源の再評価や拡張により供給は維持可能である。
  • 技術革新の効果:自動化やAIによる探査技術、低品位鉱石の経済的採掘を可能にする選鉱技術の進歩、廃滓の再処理などにより、これまで採算が取れなかった鉱石や残渣から金を回収できるようになっている。これにより埋蔵量が実質的に拡大し、採掘コストも低下する可能性がある。
  • 供給の多様性:金はほぼ全大陸で産出されており、鉱山生産が停滞してもリサイクルや副産物としての供給が一定量存在する。そのため供給ショックが起こりにくく、ピーク後に急激な減少が発生する可能性は低い。

この立場からは、「ピークゴールド」という言葉は過度に悲観的であり、実際には生産が緩やかに増加または安定し続ける可能性が高いと考えられる。

弁証法的考察と統合

金生産に関する二つの立場はいずれも一定の妥当性を持つ。地質的・経済的制約や環境規制の強化が供給を圧迫する一方で、高価格や技術革新は新たな投資を呼び込み、新規供給の増加を促す。

短期的には生産量が過去最高を更新する可能性もあり、2025年は2018年を上回る記録が期待されている。しかし長期的には、容易に開発できる大型鉱床が枯渇しつつあり、新規プロジェクトは開発期間が長くコストも高い。生産の伸びは次第に鈍化し、今後数年間は緩やかな「高原状態」に移行する公算が大きい。持続的な金供給を確保するためには、探査投資の継続、責任ある採掘、リサイクル強化、環境規制への対応などが重要となる。

最後の要約

近年、鉱山からの金生産はほぼ横ばいで推移しており、2018年以来ほとんど増えていない。このため「ピークゴールド」が議論されている。ピーク説では新規鉱床の発見が減り既存鉱山の品位低下や環境規制が生産を制約すると指摘する。一方、増加余地説は、高価格による投資拡大や新技術の進歩、豊富な未利用資源により今後も生産が維持または増加する可能性があると主張する。弁証法的な考察の結果、金生産は今後数年は過去最高水準付近で横ばいを続け、長期的には緩やかな高原状態に移行する公算が大きいと考えられる。

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