利払い1兆ドル時代のアメリカ:債務危機は現実か、それとも管理可能か


序論

米国の財政状況は、連邦政府の累積赤字と債務が過去に例を見ない規模へ膨れ上がり、利払い費用が急増していることから「債務危機」と呼ばれることが多い。2025年第3四半期の政府全体(連邦・州・地方)の利払い支出は年率換算で1兆4700億ドルに達し、GDPの約4.7%に相当する。これは1990年代後半以来の高水準で、過去4年で倍増した。この考察では、危機を強調するテーゼとそれに対する反論(アンチテーゼ)を提示し、最終的に現実的な解決策を模索する(ジンテーゼ)。

テーゼ:利払い急増と債務膨張がもたらす危機

  1. 利払いの記録的増加
    • 連邦利払い費用の急騰:2025年の利払いは年率1兆1991億ドルで、前年同期比5%増加し、4年でほぼ倍増した。
    • 州・地方の利払い:州・地方政府の利払いは年率約2656億ドルと前年から約3%減少したものの、2007年比では約800億ドル高い。
    • GDP比での高水準:連邦・州・地方を合計した利払い支出はGDP比4.7%となり、27年ぶりの高水準に近づいている。国民1人あたりに換算すると9,200ドル前後で、今後さらに増える見通しである。
  2. 財政赤字と債務の拡大
    • 累積債務の急増:2025年末時点の連邦債務残高は38.4兆ドルに達し、1年で2.23兆ドル増加。GDPの約100%に相当し、第二次世界大戦直後以来の水準である。
    • 財政赤字の拡大:2025会計年度の赤字は1兆8,000億ドル(GDP比5.9%)。現在の政策が続けば、2034年までに56兆ドルまで債務が増えるとの予測もある。
    • 金利上昇の影響:2024年末の国債平均利率は3.28%で、2020年の約2倍。高金利下で既発債の償還と再発行が続けば利払いはさらに増える。アメリカン・アクション・フォーラムは、債務が2035年までにGDPの119%に達するとの試算を示し、利払いの増大が経済成長や金利リスクを高めると警告している。
  3. 財政の柔軟性の低下
    利払いの高騰は教育やインフラ、社会保障への投資を圧迫し、税収に占める利払いの比率は2024年度に18%に達した。歴史的には14%を超えた段階で政府が歳出削減や増税を実施した例があり、現在は財政政策の自由度が著しく低下している。

アンチテーゼ:危機ではなく管理可能な課題という見方

  1. 即座の危機ではないとの専門家見解
    • 大手資産運用会社ベセマー・トラストは、債務の増加は持続可能ではないものの、市場がすぐに危機に直面するとは考えていないと指摘。経済成長や生産性向上、税制改革など多くの要因で債務の軌道は変わり得るとしている。
    • U.S.バンクの市場分析責任者ビル・メルツも、政府の債務は現時点では管理可能だが長期的な持続性が懸念材料と述べ、早期対応の重要性を強調している。
  2. 成長が利払いを上回る限り債務は維持可能
    • 投資会社リース・ウィーラーは「米国の債務はGDP成長が借入コストを上回る限り持続可能」とし、労働生産性の向上を鍵とする。彼らは2009年から2024年にかけ、連邦債務はGDP比54%から106%に増えた一方で家計債務は98%から71%に減り、経済全体の債務比率は概ね横ばいだったと指摘。政府は家計より大きな債務を維持できる能力があるとする。
    • 名目GDP成長率が10年国債利回りを上回る期間が長く続き、税収増が利払いの上昇を吸収してきたこと、実質金利が1%前後に留まる一方で実質GDP成長率はそれを上回ることから、債務は持続可能だという。
  3. 米ドルと米国債への需要の強さ
    • 財務省の借入諮問委員会(TBAC)は国債入札への需要が堅調で、応札倍率も通常の範囲内と報告。また、ステーブルコインの裏付け資産として短期国債を保有する仕組みが導入され、新たな需要も生まれている。
    • 2024年時点で各国中央銀行の外貨準備の58%が米ドル建てであり、米ドルは依然として基軸通貨である。2025年第1四半期には外国人投資家が米国債の約32%を保有し、残りは国内民間投資家と連邦準備制度が保有している。
    • リース・ウィーラーは、米国の税収対GDP比率はOECD平均より低く増税余地が大きいこと、ドルが世界貿易や外貨準備の主要通貨であることから国債への需要が継続すると指摘。増税や通貨供給により債務を管理でき、急激な財政破綻のリスクは抑えられるとする。
  4. 財政改革の可能性
    高齢化による社会保障費や医療費の増加が大きな負担になるが、改革が行われれば債務の持続性は高まる。U.S.バンクのエコノミストは、社会保障やメディケアの財源不足は「管理可能な予算問題」であり、議会が真剣に取り組めば解決できると述べている。

ジンテーゼ:バランスの取れた分析と提言

  • 危機感と冷静な分析の両立:利払いが1兆ドルを超え、GDP比でも戦後最高に迫ることは事実である。財政収支の改善がなければ利払いは雪だるま式に増加し、経済成長を阻害する。
  • 即時の破綻ではない:米国は世界最大の経済規模と基軸通貨ドルを持ち、名目GDP成長率が長期金利を上回る状態が続いてきた。税収対GDP比率が低く、増税や歳出削減で財政を改善する余地があり、急激な財政破綻の可能性は低い。
  • 政策提案
    1. 歳出の優先順位付けと抑制:インフラ投資や教育など成長促進的な支出を維持しつつ、不要な補助金や過剰な防衛費を見直す。
    2. 歳入拡大:消費税や法人税の増税、富裕層・企業への課税強化などで税収を増やす。
    3. 社会保障制度の改革:年金支給年齢の段階的引き上げや医療費抑制策を導入し、長期的な支出増を抑える。
    4. 経済成長の促進:生産性向上や労働参加率向上のため、技術革新や移民政策を推進する。
    5. 債務管理の強化:国債の償還期間を長期化し、金利変動リスクを抑える。財政ルールや支出上限を導入し、政府支出の拡大を自動的に抑制する仕組みを整備する。

まとめ

2025年の利払い費用は1兆4700億ドル(GDP比4.7%)に達し、過去27年で最高水準である。膨張する債務と高金利が財政を圧迫し、将来の成長余地を削っている。しかし、米国は世界最大の経済とドルの基軸通貨という強みを持ち、名目GDP成長率が借入コストを上回る限り急激な破綻には至らないとの見方も根強い。国債需要は堅調で、政府には歳出削減や増税で財政健全化を図る余地も残されているため、状況を“危機”と見ながらも適切な政策対応と経済成長の維持により長期的な持続性を確保できる余地は存在する.

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