安全資産ゴールドを軸にした香港の地政学的賭け

香港が世界的な金取引の中心地になろうとしている背景には、史上最高値を更新する金価格とアジアの需要の高まりがあります。金は安全資産としての需要が高まり、米国の利下げ期待や地政学的緊張が金相場を押し上げています。香港政府は上海黄金交易所と協力し、2026年にも「金取引中央清算システム」を試験運用する予定です。これは国家出資の新会社が担い、香港国際空港や北部都会区に数千トン規模の保管庫を建設し、越境決済や保管を強化する計画です。金のトークン化や実物資産を裏付けとするETFなどの新商品開発、投資ファンド・ファミリーオフィスへの税制優遇といった金融イノベーションも計画されており、中国本土と国際市場を橋渡しする存在になり得ます。

肯定的な見方では、香港は「一国二制度」下で自由港の地位を維持し、中国最大の金消費と世界の資本の交点に位置しています。上海との連携により越境清算の効率を高め、従来5〜20%とされる取引コストを大幅に削減し、流動性を向上させることができます。APAC地域が世界の金需要の7割近くを占める現在、香港は高度な倉庫網と現物・デジタルの両面で新しい商品を提供することで、投資家層を広げ、人民元国際化を後押しする可能性があります。金市場のインフラ整備は、米ドル中心の金融システムからの分散を目指すアジア諸国や中東・ロシア等の需要を取り込む戦略でもあります。

他方で、否定的な立場からは多くの課題が指摘されています。米中対立の激化や香港への制裁懸念は、国際金融機関や西側投資家の参加を妨げかねません。ドルペッグを維持する香港ドルや人民元の相場変動は、金価格の変動を増幅し、国際基準への規制対応が遅れれば信認が揺らぎます。既にロンドンやニューヨーク、スイス、ドバイには長い歴史を持つ金市場があり、競争は激しくなります。金価格が急騰する局面でインフラ投資を行っても、価格が反落すれば需要が萎み収益性が低下するリスクもあります。香港の政治的自由や法治の弱体化も、世界の投資家が長期的な拠点として選ぶ際のハードルとなります。

こうした両面から考えると、香港の金ハブ構想は大きな機会とリスクが同居する賭けだといえます。上海との協調によってアジアの取引インフラを整備し、金を裏付けとするデジタル商品で市場参加者を増やすことは魅力的ですが、国際的な信頼を確保するためには透明性の高い規制やガバナンス、市場への公平なアクセスが不可欠です。また、金価格のサイクルに左右されにくいビジネスモデルや、多角的な商品ラインナップも必要でしょう。米中関係や為替変動など外部要因に振り回されず、香港が法治と自由な資本流動の環境を維持できるかが、計画の成否を左右します。

要約
香港は史上最高値を更新する金相場を追い風に、上海黄金交易所と連携した中央清算システムや巨大な保管施設の建設、トークン化商品などを通じて金取引のハブになろうとしています。これにより取引コスト削減、流動性向上、人民元国際化などの恩恵が期待されますが、米中対立による制裁リスクや既存市場との競争、政治的信頼の問題、金価格の変動など多くの課題も存在します。機会とリスクのバランスを取り、透明性と国際基準に合致した運営を実現できるかが鍵となります。

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