金価格が1トロイオンス当たり5,500ドル台に乗せた背景には、市場が米連邦準備制度理事会(FRB)議長人事や米国の金融政策を巡る思惑を強く意識していることがある。ブルームバーグによると、1月28日の取引で金は1オンス当たり5,500ドルを超え、前日比3.2%上昇し、前日の4.6%高に続く急伸を演じた。ドル安や安全資産への逃避に加え、流動性の低さが9日連続の上昇を加速させ、銀も過去最高値を更新した。
テーゼ(主張) – ハト派議長への期待と金市場の熱狂
市場の見方の中心には、ドナルド・トランプ大統領(当時)がジェローム・パウエル議長に代わる「ハト派」の新議長を指名するのではないかという観測がある。トランプ氏はパウエル議長の利上げ姿勢をたびたび批判し、金利引き下げを求めていた。後継者候補としては、ブラックロックの債券部門責任者リック・リーダー氏、元議長ケビン・ワルシュ氏、ホワイトハウス経済顧問ケビン・ハセット氏、現職のクリストファー・ウォラー理事などの名前が挙がっている。フォーブスは予測市場でリーダー氏の人気が急上昇していることを報じ、こうした人選が市場の安心材料になり得ると指摘している。
金融政策の軌道が緩和方向に向かえば、無利子資産である金の魅力が高まる。Gotradeの解説は、トランプ氏がドル安を容認する発言をしたことでドル指数が1.1%下落し、金が5,300ドル超の史上最高値を更新したと伝えている。同記事は、リーダー氏の指名観測が金市場の熱狂を煽っており、ドイツ銀行は金が年内に6,000ドルに達する可能性もあると指摘している。ナスダック系サイトも、トランプ氏がドル弱含みを歓迎したことや米政府の政策不確実性が投資家の金・銀需要を押し上げたと報じ、トランプ政権がハト派議長を任命するとの観測や新たな流動性供給策が金需要を後押ししていると説明している。金市場の上昇は、地政学リスクの高まりや中央銀行の金買い、金連動ETFへの資金流入などと相まって、金に対する需要をさらに強化している。
アンチテーゼ(反証) – 人事観測だけでは説明できないリスク
一方、金価格の急騰を単純に「ハト派議長観測」だけで説明するのは危険だという指摘もある。まず、FRB議長はFOMC12人のうち1票しか持たず、政策は委員会全体で決定される。フォーブスも、この人事が金融政策を即座に動かすわけではなく、今後も利上げ/据え置きは経済データ次第だと強調している。第二に、金相場の急上昇にはドル安や実質金利の低下、米国の巨額財政赤字への不安、イランやウクライナ情勢など地政学リスクが絡んでおり、投機的な買いが過熱した可能性もある。金は2025年に64%上昇し、2026年はすでに18%高と過去にないペースで買われている。高値では利益確定売りや急速な反落も起こり得る。Bloombergは流動性の低さが9日連続の上昇を加速させたと報じており、薄商いの中でボラティリティが高まっていることを示唆する。また、会合直前のFRBは政策金利の据え置きを予想されており、思惑と現実のギャップが相場を揺さぶる要因になり得る。
ジンテーゼ(止揚) – 多面的要因を踏まえた金相場の見通し
以上のように、金価格の記録的上昇は、①トランプ政権が利下げ志向の強い新議長を指名するのではないかという観測、②ドル安や流動性供給、地政学リスクなど複数の要因が絡み合っている。市場は人事や発言に敏感に反応するが、FOMCは委員会運営であるため、議長交代が即座に政策変更を招くわけではなく、過度の期待はリスクを孕む。長期的には中央銀行の需要増、世界的なインフレ懸念、米国の財政悪化などが金価格の土台を支えている。投資家は短期的な思惑による急騰・急落に注意しつつ、金を資産分散の一部として位置づける姿勢が求められる。
要約
2026年1月28日、金価格は1オンス当たり5,500ドルを超え過去最高値を更新した。薄商いの中で9日連続の上昇となり、前日比3.2%、前日の4.6%高に続く大幅高だった。ドル安や国債・通貨からの資金逃避に加え、トランプ大統領が利下げ志向の強い新FRB議長を指名するのではないかとの観測が、金市場への資金流入に拍車を掛けた。米国の政治・地政学リスクや中央銀行の金買い需要も影響し、銀も同日過去最高値を付けた。

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