安全神話と価格変動のあいだで:金の戦略的価値を再検証する

提示される肯定的論点(正)

長期リターンの源泉

  • 1971年の金本位制崩壊以降、米ドル建て金価格は年率約9%の上昇を続けており、株式とほぼ同水準のパフォーマンスを示してきました。金需要は投資、宝飾品、技術用途、中央銀行保有など複数の要因に支えられており、それぞれが異なる経済局面で支え合うため、長期的に安定したリターンをもたらすとされています。
  • 経済不安定期には安全資産として買われ、好況期には宝飾品需要が増えるという二面性があり、景気循環に左右されにくいと考えられています。

分散効果とヘッジ機能

  • 株式や他のリスク資産と比較して相関が低く、市場が急落するとむしろ負の相関が強まる点が強調されています。2000年代のITバブル崩壊やリーマン危機、2022年の株価急落時などに金価格が上昇した事例が挙げられ、ポートフォリオの損失抑制に寄与したとされています。
  • 上昇局面では株価と正の相関に変わる場合があり、インフレ懸念が高まる場面では金需要が増えるため、リカバリー期でも一定の役割を果たします。

流動性の高さと市場規模

  • 世界の投資家と中央銀行の保有する現物金は約10.9兆ドルに上ると推定され、2025年の1日平均取引量は3,600億ドル超と、多くの金融資産より高い流動性が示されています。店頭取引や先物、金ETFが整備されており、ストレス時でも売買が困難になりにくい点が利点とされています。
  • こうした規模と深さは大型機関投資家の運用にも適応し、株式や債券の流動性が枯渇する局面でも換金手段として機能するとの主張があります。

ポートフォリオへの影響

  • ワールド・ゴールド・カウンシルの分析では、株式50%、債券40%、オルタナティブ資産10%の代表的ポートフォリオに金を2.5〜10%程度組み込むと、3〜20年のいずれの期間でもリスク調整後リターンが向上し、最大ドローダウン(最大損失)が低下すると報告されています。

ESG(環境・社会・ガバナンス)貢献

  • 金鉱業は採掘産業であるものの、近年は国際的な環境・社会基準に沿って運営される企業が増え、産出国や地域に賃金・税収・インフラ整備などの経済的恩恵をもたらしていると述べられています。国連の持続可能な開発目標(SDGs)への貢献も強調されています。
  • 金は下流工程での排出量が少ないため、ポートフォリオ全体の炭素強度を下げ、脱炭素移行への耐性を持つ資産として位置づけることも可能だとされています。

提示される否定的論点(反)

キャッシュフローの欠如

  • 金は配当や利息を生まない非生産的資産であり、価格上昇に依存しなければ投資収益を得られません。債券や不動産とは異なり、定期的なインカムを求める投資家にとって魅力が薄い点が批判されます。
  • ゴールドマン・サックスなど一部の運用会社は、金のドローダウンが大きく(70%を経験したことがある)、20年ローリング期間でインフレヘッジとして機能したのは半分程度であるとして、金より米国株の方がインフレ耐性が高いと指摘しています。

価格変動と安全資産神話への疑念

  • 金は長期的には価値を保つとされながらも、単年ベースでは30%近い上昇・下落を繰り返すことがあり、短期的には高いボラティリティを伴います。リーマン危機のような危機では安全資産として機能しましたが、すべてのショック局面で常に避難先となるとは限りません。
  • 金の安全資産としての役割は投資家の心理に左右される面が大きく、「安全神話」が過度に信じられているとの批判もあります。特に金価格が急騰した年には翌年に反落する傾向があり、投機的な資金流入が逆風になる可能性があります。

機会費用と保管コスト

  • 金を保有することで他の投資機会を逃す可能性があります。利率が上昇する局面では債券や定期預金の利回りが魅力的になり、金に対する機会費用が増大します。
  • 現物金には保管・保険コストがかかり、ETFやデリバティブは管理費用やロールオーバー費用がかさむ場合があります。こうしたコストは実質リターンを圧迫します。

新興資産との競合

  • デジタル金や暗号資産(ビットコインなど)が「デジタルゴールド」として注目され、若年投資家の間で金への関心が相対的に低下しています。暗号資産はボラティリティが高く安全資産とは言い難いものの、分散手段として競合する側面があります。
  • 金鉱業自体は環境・社会面で課題を抱えており、 ESG観点から金投資を敬遠する投資家も存在します。

統合的な考察(合)

  • 金は長期にわたり価値保存資産としての役割を果たし、危機時には保険として機能することが多い一方、配当を生まずボラティリティも高いという矛盾した性質を持ちます。このため、金を「絶対的な安全資産」と見なすのではなく、多様なリスク要因に対するヘッジ手段の一つとして位置づけるのが適切でしょう。
  • ポートフォリオへの組み入れ比率は投資目的やリスク許容度によって調整する必要があります。ワールド・ゴールド・カウンシルは2.5〜10%を推奨していますが、これはインカム目的の投資家には過大である可能性もあり、他のインフレ連動資産や短期国債と組み合わせて管理すべきです。
  • ESG観点では、金の採掘に伴う環境負荷や社会的リスクを軽減する動きが進んでいるものの、完全には解消されていません。投資家は金鉱会社の持続可能性基準を確認し、責任あるサプライチェーンを選ぶ姿勢が求められます。
  • 暗号資産やその他のオルタナティブ資産が台頭するなか、金の役割は変化しつつあります。デジタル金や小口取引のプラットフォームの登場によりアクセスは容易になりましたが、金自体は有形資産としての強みを保ち続けるでしょう。長期的な価値保存手段としては依然として有効であり、適切な分散のもとで活用する価値があります。

要約

  • 金は過去50年以上にわたり株式に匹敵する年率約9%の上昇を記録し、多様な需要源に支えられているため長期的な保有資産となり得る。
  • 株式や債券と低い相関を持ち、市場急落時には逆相関が強まる傾向があり、ポートフォリオのリスク分散に寄与する。約2.5〜10%の組み入れでリスク調整後リターンが向上するという分析がある。
  • 市場規模は大きく流動性が高いため、ストレス時でも換金しやすい。金ETFや先物など多様な投資手段も整備されている。
  • 一方で、金は利息や配当を生まない非生産的資産であり、価格変動が大きく、常に安全資産として機能するわけではない。保管コストや機会費用も無視できない。
  • ESG面では採掘業の社会・環境貢献が強調される一方、環境負荷や労働問題などの課題も残る。暗号資産やデジタル金など新興競合資産が台頭している。
  • 以上を踏まえると、金は万能の安全資産ではないが、適切な割合でポートフォリオに組み入れることで長期的リスク管理に役立つ戦略資産である。

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