金は安全資産、金鉱株は株式:利上げ局面における評価分裂

テーゼ:利上げは金・金鉱株に逆風

一般的な解釈では、金は利子を生まない資産であり、金利が上昇すると現金や債券の魅力が高まるため、金価格は下押し圧力を受けると考えられています。また、金鉱株は資本集約型ビジネスであるため、利上げによって鉱山会社の借入コストが増加し、事業の採算性が悪化します。2022年3月以降、FRBはインフレ抑制のために短期間で500ベーシスポイントもの利上げを実施し、これは1980年代以来最速のペースでした。金融市場では「政策金利の急上昇が続く限り、金価格は頭打ちになり、金鉱株はさらに悪影響を受ける」という見方が優勢になりました。

理論面でも、高金利環境では金鉱株の現在価値を計算する際の割引率が高まり、株式バリュエーションは押し下げられます。金鉱山会社は巨額の設備投資や探鉱を行うため、金利上昇は資本コストを引き上げます。金鉱株は金そのものの価格だけでなく金利変動や為替動向の影響も受け、利上げ局面では借入コストの上昇とドル高が利益を圧迫されます。利上げがドルを強含みにし、ドル建ての金価格を抑制する効果もあるため、金鉱株には多重の逆風が働きます。

アンチテーゼ:それでも金価格は上昇し、金鉱株は理論上レバレッジ効果がある

しかし現実には、2022年以降にFRBが大幅利上げを行ったにもかかわらず、金価格は下落するどころか2024〜2025年にかけて過去最高値を更新しました。要因はインフレへの懸念、ロシア–ウクライナ戦争や中東情勢など地政学リスク、中央銀行の金買い増し、米ドルへの信認低下などであり、投資家は金を「安全資産」として再評価したのです。利上げにより株式市場が不安定になると、投資家はポートフォリオの一部を金に移しリスクヘッジを行う傾向があります。FREDのブログでも、FRBが2022年3月に利上げを開始した直後に金融市場が将来の利上げを織り込み、借入コストの上昇を予想していたことが示されています。しかし、その後の実体経済が底堅く推移したことが金需要を支えました。

金鉱株には金価格に対するレバレッジ効果があるとされます。鉱山会社は固定費が高く、金価格が上昇すると利益が急増するため、金の上昇局面では鉱山株が金価格をアウトパフォームすることが多いのです。長期的なデータでも、2015年からの金の強気相場では金鉱株指数が金価格の伸びを上回っていることが示されています。このため「利上げがあっても金価格が上昇するなら、金鉱株もいずれ追随するはずだ」という反論が成り立ちます。

ジンテーゼ:利上げがもたらす複合的な影響と金鉱株の遅れ

テーゼとアンチテーゼを統合すると、FRBの利上げは金鉱株に直接的・間接的な影響を与えているものの、金価格そのものは他の要因に支えられて上昇しているため、金と金鉱株のパフォーマンス乖離が生じたことが分かります。主な要素を整理すると次の通りです。

  1. **金利上昇とドル高が割引率を押し上げ、株式バリュエーションに悪影響を与える。**利上げにより金鉱会社の借入コストが増大し、割引率上昇がバリュエーションを圧縮するため、金が高値を付けていても鉱山株は評価されにくくなる。同記事では、利上げは株式全般の評価を圧迫するため、金鉱株も影響を受けることが強調されています。
  2. **金鉱会社のコスト増加。**金鉱株が金価格の調整局面で大きく下落しやすい理由として、採掘コスト(AISC)が金価格とともに上昇することが挙げられます。金価格が上昇すると鉱山会社は低品位鉱石の採掘を増やしたり、ロイヤルティが増えたりするためコストが上昇し、利益が金価格ほど伸びません。さらにインフレによるエネルギーや人件費の上昇もコストを押し上げました。
  3. **投資家のリスク回避と資金フローの違い。**金鉱株は株式市場に上場する企業であり、広義の株価指数と同じようにリスクプレミアムの影響を受けます。利上げ局面では株式全般に対する投資家のリスク許容度が低下し、バリュエーションが圧縮されます。金はETF等で簡単に保有できる一方で、金鉱株には企業固有の運営リスクがあるため、投資家は金そのものを直接保有する選好を強めました。
  4. **利上げと実質金利の関係。**金鉱株は実質金利やインフレ期待の動向に敏感であり、名目金利の上昇だけで単純に方向づけられるわけではありません。2022〜2023年にかけてインフレ率が高止まりする中で名目金利が急上昇したため、実質金利は一時的に大きく上昇し、金鉱株にとって不利な状況となりました。
  5. **期待の変化。**2024年以降、市場はFRBがいずれ利下げに転じるとの期待を強め、実質金利も低下に向かいました。このため金価格は一段と上昇しましたが、金鉱株は過去の利上げ局面で傷付いた投資家の警戒感から資金流入が遅れました。結果として、図に示されるように金鉱株の上昇は金価格に比べて出遅れたままです。

結論と展望

FRBの急激な利上げは、金鉱株に対して複合的な逆風をもたらしました。金そのものはインフレや地政学リスクの高まりを背景に高値を維持しましたが、金鉱株は

  • 利上げによる割引率上昇とドル高によるバリュエーションの圧縮、
  • 採掘コストの上昇や運営リスク
  • 株式市場全体のリスクプレミアム上昇

という要因で出遅れています。この乖離は金鉱株が単なる金価格のレバレッジではなく、株式であることやコスト構造を持つ事業体であることを示しています。将来、FRBが利下げに転じ、実質金利が低下し、エネルギーコストが落ち着けば、金鉱株は金価格に対して追随・アウトパフォームする可能性があります。ただし、金鉱株を評価する際には、金利動向だけでなく企業のコスト管理や資本配分、政治リスク等も総合的に考慮することが重要です。


要約

2022年3月以降、FRBは短期間で累計500bpの利上げを実施し、政策金利は2023年半ばに5%超へ到達しました。高金利環境は金鉱株の借入コストを押し上げ、株式の割引率を高めたため、金の価格上昇にもかかわらず金鉱株は出遅れました。金鉱株は利上げによるドル高や借入コスト増の影響を受けやすく、金利上昇によりバリュエーションが圧縮される。さらに、金鉱株が金価格をアウトパフォームしない理由として、金価格上昇が採掘コストやロイヤルティを押し上げ、インフレによる燃料・賃金の上昇も加わって利益が伸びにくい点を指摘しています。一方で、インフレや地政学リスクに対するヘッジ需要、中央銀行の金買い増しなどの要因で金そのものは堅調に推移し、金と金鉱株のパフォーマンス乖離が生じました。今後利下げが進み、実質金利やコストが低下すれば金鉱株が追随する余地もありますが、投資判断にはコスト構造や企業リスクも織り込む必要があります。

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