ロシアの貿易事情は、ウクライナ侵攻後に欧米がロシアの主要銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除し、外貨資産を凍結したことから大きく変化した。2022年2月にルーブルが急落し、2022〜2024年の2年半で資本逃避による資本流出額は約3,400億ドルに達した。金融制裁によって輸入は急減し、決済の遅延により輸出入の両面で支障が出た結果、2024年末にはロシアの経常収支が赤字に転落した。エネルギー輸出への依存が高いため、輸出額が減ると国家財政が直ちに圧迫される。実際、2025年上半期の中国からのロシア原油購入量は前年同期比11%減となり、石油・ガス収入が予算想定を24%下回る見込みとなっている。
制裁によりルーブルは一時暴落したが、ロシア政府は厳格な資本規制と高金利政策で通貨防衛を行い、2025年には対ドルで45%上昇した。この政策は輸入品の価格抑制につながる一方、ドル建てエネルギー収入のルーブル換算額を減らし、国家財政には逆作用を及ぼしている。
ロシアは西側市場からの締め出しに対抗して、中国やインドをはじめとするアジア・中東・アフリカ諸国への輸出に急速に舵を切った。とりわけ中国との貿易は2024年に過去最高を記録し、2025年にはやや減速したものの依然として主要な資金源である。また、欧米制裁によるSWIFTからの排除を受けて、ロシアは国内の金融メッセージシステム(SPFS)や中国の人民元決済システム(CIPS)を活用し、貿易決済通貨をドルから元やルーブルへ切り替えた。2024年時点でロシア金融機関の約200行はSWIFTを利用できるものの、対西側取引以外ではSPFSやCIPSが中心であり、ロイターによればロシアと中国の貿易決済の95%がルーブルと元で行われ、モスクワ取引所では元との取引量がドルを上回っている。
制裁を回避するため、ロシアは暗号資産や金による支払い、貿易差額を相殺するネッティングなど新たな決済手段も模索している。RAND研究所は、ロシアがSWIFTの代替として暗号通貨や金を積極的に利用し、複数の支払いを統合することで取引回数を減らしていると指摘し、2024年7月にロシアが国際取引で暗号通貨利用を合法化したことも紹介している。
デジタル通貨の導入も進められている。ロシア中央銀行は2023年にデジタルルーブルのパイロット運用を開始し、2025年には大手銀行を接続する予定である。同銀行はデジタルルーブルが複数の仲介を排除し、国際送金を数日から数分に短縮して手数料を削減できると説明している。しかし、実用化には他国のCBDCや法制度との整合が必要であり、アトランティック・カウンシルは中国やインドなど主要国が当面参加しないと指摘している。
SWIFT排除に適応するなかでロシア経済は新たな矛盾も抱える。ルーブル建て決済の増加は外貨流入を減少させ、強いルーブルも輸出収入を削減するため財政収支が悪化している。中国との貿易は生命線となっており、ロシアは人民元建て収入に依存しているが、人民元は国際的な流通量が限られているため、中国の金融システムへの依存度が高まっている。西側の軍民両用製品や高度技術の輸出禁止の影響で、ロシアは中国や第三国経由で部材を調達しているものの遅延やコスト増が生じ、産業の近代化や民生部門の発展が妨げられている。デジタルルーブルは国際送金の潜在力を持つが、国際的な合意がないため当面は試験段階にとどまり、ロシアは引き続き元や暗号資産に依存すると見込まれる。
総じて、ロシアはSWIFT排除による貿易制約に適応し、新たな決済手段や貿易パートナーを開拓した。正(制裁による混乱)と反(適応・新秩序)のせめぎ合いの結果、西側と非西側の二極化した貿易秩序が形成されつつある。しかし、ルーブル高による輸出不振や外貨不足、元決済による中国依存といった長期的リスクが残り、デジタルルーブルや暗号資産は国際的な信認やパートナー国の協力がなければ限定的な効果にとどまると予想される。ロシア経済の行方は、エネルギー需要、金融制裁の強化・緩和、そして中国との関係に大きく左右されるだろう。

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