VATの定義
付加価値税(VAT)は、製品やサービスの供給チェーンにおいて各段階で付加された価値に対して課税される消費税である。売上高ではなく粗利益に課税され、製造・流通・再販売の各段階で徴収されるため、販売価格にVATが加算され、最終的には消費者が負担する。
テーゼ:VAT改革と経済不安が投資志向を強め、ジュエリーからバー・コインへシフトが進んでいる
中国は2025年11月に金市場のVAT制度を改正し、上海黄金取引所(SGE)や上海期貨交易所から引き出される非投資目的の金について、従来13%のVAT全額控除を6%に引き下げた。投資用金(バーやコイン、ETFなど)は免税のままであり、SGE会員が直接販売する場合は税負担が変わらないため、ジュエリー加工業者の税負担は上昇し、消費者価格は約4%上昇すると分析されている。会員でない業者も特別VAT発行ができず、同様に控除率が6%に制限されることから、ジュエリー価格はさらに上昇する。
地政学的リスクや金利低下期待、人民元安などを背景に金が安全資産として注目されるなか、この税制変更と経済の不透明感が重なり投資需要が急増している。メタルズ・フォーカスの調査では、2024年に小口投資家が購入した金バー・コインの量が前年より20%増え336トンとなり、ジュエリー需要は24%減少してパンデミック以降で最も低い水準に落ち込んだ。2025年1〜9月も同様の傾向が続き、ジュエリー消費は前年同期比25%減、バー・コイン投資は24%増となっている。SGE会員から直接投資商品を購入することで税負担を抑えられる一方、ジュエリーは価格差が大きくなるため、WGCは一部の消費者がジュエリーから投資商品に乗り換える可能性を指摘している。
アンチテーゼ:文化的価値や市場構造により、ジュエリー需要は簡単には消失しない
ジュエリー需要を押し潰すとの見方には反論もある。金のジュエリーは中国文化で富や吉祥の象徴であり、婚礼や贈答用として重要な役割を担うため、増税や価格上昇にもかかわらず一定量の購買が続くとの意見がある。SGEから引き出した金にのみ改革が適用されることや、独自の流通網を持つ加工業者が価格を抑えられる場合もあり、税制変更による価格上昇(約4%)は金価格の変動幅に比べれば小さい。さらに、WGCは金価格1%上昇に対してジュエリー需要が0.7%減少するとしながらも、価格が高騰する局面では需要の弾力性が低下する可能性を示している。バーやコインは価格の透明性と流動性の高さが利点だが、保管や盗難リスク、贈答用途の欠如といった課題もあり、ジュエリーを完全に代替するものではない。メーカーや小売業者は旧ジュエリーの下取りキャンペーンや高付加価値商品の開発など、税負担を回避しつつ需要を喚起する工夫も進めている。
シンセーシス:投資需要の拡大とジュエリー需要の維持による二極化
中国のVAT改革と経済不安は金投資需要を刺激し、バーやコインへのシフトを加速させている。特にSGE会員経由で購入する投資商品は税負担が軽く、安全資産を求める投資家や家計の需要を満たしている。実際、投資用バー・コイン需要は急増し、金市場における投資セグメントの比重が高まっている。一方で、ジュエリー需要は文化的価値や贈答需要によって根強く残っており、高価格や増税で量は減るものの、価値ベースでは高付加価値品へのシフトやリサイクル促進策が進んでいる。税制変更はジュエリー産業の再編とイノベーションを促し、軽量・高品質化した商品の開発を後押ししている。結果として、金市場は投資セグメントと消費セグメントが二極化し、投資用バー・コイン需要の拡大とジュエリー需要の質的変化が同時進行すると予想される。政策当局と業界関係者は、ジュエリー産業の持続可能性に配慮しつつ、投資商品の透明性や流動性を確保することが重要となるだろう。

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