「コペルニクス的転回(コペルニクス的転換)」とは、従来の考え方や視点を根本から覆し、まったく新しい視座を導入することで、物事の理解や体系が大きく変わることを意味する哲学的な概念です。
語源:
ポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスが提唱した地動説(地球が太陽の周りを回っている)に由来します。それまでの天動説(太陽が地球の周りを回る)とは真逆の発想であり、宇宙観を一変させました。
哲学的意味(カントによる使用):
ドイツの哲学者イマヌエル・カントがこの語を哲学において比喩的に用いました。
- カント以前:認識は対象(モノ)に従うと考えられていた。
- カント以後:対象が我々の認識に従うと考えることで、認識論を根本から転換(=コペルニクス的転回)しました。
つまり、我々の意識が受け身ではなく、積極的に対象を「構成する」能力を持っているとしたのです。
現代での用法:
哲学だけでなく、政治、経済、科学、思想などの分野でも、
- 「前提を根本的に見直す」
- 「視点を180度転換する」
という意味で広く用いられます。
例:
- 経済学:ケインズ理論は「需要が供給を生む」という点で、従来の「供給が需要を生む」という古典派の考えを覆した→コペルニクス的転回。
- 心理学:フロイトによる無意識の発見も、人間の理性中心の見方を転換させたという意味でコペルニクス的転回と呼ばれることがある。
🌍 分野別「コペルニクス的転回」の具体例
① 哲学:イマヌエル・カント
- 転回前(古典的認識論):人間の認識は、外界の事物(客体)に従う。
- 転回後(カント):外界の事物(客体)が、人間の認識能力(主観的構造)に従う。
- 👉人間の意識が「受け身」でなく、「能動的」に世界を捉えるものとした大転換。
② 天文学:ニコラウス・コペルニクス
- 転回前(プトレマイオス的宇宙観):天動説(地球中心)
- 転回後(コペルニクス):地動説(太陽中心)
- 👉宇宙の中心が地球から太陽に変わったことで、科学的観測や宗教観が大きく揺らぐ。
③ 心理学:ジークムント・フロイト
- 転回前:人間の行動は理性や意識によって説明可能と考えられていた。
- 転回後:人間の行動は、無意識や欲望といった非合理な領域によって動かされている。
- 👉自我中心主義を崩し、自己認識の枠組みを刷新した。
④ 経済学:ジョン・メイナード・ケインズ
- 転回前(古典派経済学):供給が需要を生む(セイの法則)。
- 転回後(ケインズ):需要が供給を決定する。
- 👉不況期における政府の積極的介入(公共投資、金融政策)を正当化。
⑤ 芸術:印象派の誕生(モネなど)
- 転回前(写実主義):現実を忠実に再現することが美術の目的。
- 転回後(印象派):主観的な「印象」や光・色彩の表現が重視される。
- 👉絵画の価値観が「客観性」から「主観性」へと劇的に移行。
⑥ 生物学:ダーウィンの進化論
- 転回前:神による創造説が支配的だった。
- 転回後:自然淘汰と進化によって生物が形成される。
- 👉人間中心主義を相対化した革命的理論。
⑦ 現代技術:AI・機械学習の登場
- 転回前:人間の知能が唯一の知的処理主体。
- 転回後:機械が自ら学び、判断する存在となる。
- 👉「知性」の定義そのものが再考を迫られる段階へ。
コメント