加入対象者
- 協会けんぽ:健康保険組合を持たない中小企業などの従業員が主な対象です。法人の経営者や常時5人以上の従業員を雇用する個人事業主も加入義務があります(社会保険の適用事業所)。公務員や大企業の独自保険組合加入者は含まれません。被保険者の配偶者や子ども・父母など一定範囲内の家族で、収入等の要件を満たす人は「被扶養者」として加入できます。
- 国民健康保険(国保):会社などの健康保険に入っていないすべての国民が対象です。自営業者、農業従事者、フリーランス、無職の人、パート・アルバイト(社会保険未加入者)、退職者(75歳未満)などが含まれます。一般に「社会保険に加入できない人」は国保に加入します。扶養という概念はなく、加入者本人だけでなく家族全員が被保険者となります(ただし世帯主がまとめて加入手続きを行います)。
加入方法
- 協会けんぽ:会社(事業所)単位で手続きします。会社を設立して常時5人以上の従業員を雇用すると強制適用事業所となり、法人は所轄の年金事務所に「新規適用届」を提出して従業員を登録します。以後、従業員は入社時に届け出ることで被保険者となり、扶養家族も申請により被扶養者として認定されます。個々の従業員が直接国に申し込む必要はありません。
- 国民健康保険(国保):市区町村の窓口で加入手続きをします。退職や資格喪失時、転入時など、社会保険から国保に切り替える場合は原則14日以内に申請し、世帯単位で保険証が発行されます。加入に際しては資格喪失証明書(退職証明書)や住民票、所得証明書などが必要です。手続き後は世帯主が保険料をまとめて納付します。
保険料の算定方法
- 協会けんぽ:被保険者本人の給与(月額標準報酬月額)やボーナス(標準賞与額)をもとに計算します。各都道府県ごとに定められた「健康保険料率」を掛けて算出し、40~64歳ではさらに「介護保険料率(2025年5月分から全国一律1.59%)」も加算されます。保険料は計算結果を事業主と従業員で半分ずつ負担します。料率は年度ごとに改定があり、おおむね給与の9~10%程度です。
- 国民健康保険(国保):自治体ごとの独自ルールで計算されます。一般的には前年の所得金額に一定の料率を掛けた「所得割」に、加入者1人あたりの定額分「均等割」や世帯ごとの定額分「平等割」などを合算します(自治体によっては資産割も)。例えば「所得割+均等割+平等割+介護分+後期高齢者支援分」のように構成され、年度ごとに料率や金額が変わります。同じ所得・家族構成でも市区町村によって保険料が大きく異なることがあります。
保険料の負担(家族がいる場合)
- 協会けんぽ:保険料は事業主と被保険者が折半して負担します。被保険者に配偶者や子ども、父母などで収入要件を満たす人(たとえば年収130万円未満)を被扶養者として届け出ると、その家族には保険料がかかりません。たとえば夫が協会けんぽに加入していれば、収入の少ない妻や未成年の子どもは追加負担なしで医療給付を受けられます。逆に扶養要件を満たさない収入がある場合や別世帯の場合は、扶養から外れた家族も各自で保険に加入し保険料を支払います。
- 国民健康保険(国保):扶養制度がないため、世帯の加入者全員が保険料の計算対象となります。一般に世帯主がまとめて納める仕組みで、家族が増えるほど「均等割」の人数分が増え、保険料総額が重くなります。たとえば収入の低い配偶者や子どももそれぞれ被保険者となり、所得割や均等割に含まれるため、協会けんぽに比べて家族の人数分だけ負担が増加します。(世帯主が社会保険加入者で他の家族が国保の場合、世帯主が納付義務を負う「擬制世帯主」の扱いになります。)
給付内容や保障範囲の違い
- 協会けんぽ:医療費の3割負担など基本的な医療給付に加え、労務者向けの各種手当が充実しています。具体的には、病気やケガで働けなくなった際に給付される傷病手当金、出産時に出産休業中の所得を補償する出産手当金、育児休業中の所得補償である育児休業給付(雇用保険)などがあります。また定期健康診断の補助や生活習慣改善指導などの保健事業、高額療養費制度、出産育児一時金の内払(限度額適用認定)なども利用できます。
- 国民健康保険(国保):医療給付(診療・治療費の給付)、高額療養費や出産育児一時金など基本的な公的医療制度は利用できますが、協会けんぽのような傷病手当金や出産手当金は原則ありません。自治体によっては子どもの医療費助成や独自の出産費助成制度があって給付を受けられる場合もありますが、会社員に対する休業補償的な給付は限定的です。
その他の特徴(任意継続制度、扶養制度など)
- 扶養制度:協会けんぽでは被保険者の収入で生計を維持している範囲内の家族(配偶者、子、父母、祖父母、孫、兄弟姉妹など)を「被扶養者」として認定でき、一定の要件(収入基準など)を満たせば扶養家族にかかる保険料は発生しません。国保にはこうした扶養の仕組みがないため、家族もそれぞれ被保険者となり保険料がかかります。
- 任意継続制度:協会けんぽを脱退(退職)した人は、要件を満たせば退職後も最長2年間、協会けんぽを継続して利用できます(退職日の翌日から20日以内に申請)。継続中も保険料は全額自己負担(事業主負担なし)ですが、同じ保険給付を受けられます。国保には相当する継続制度はなく、退職後は国保への加入か配偶者の扶養に入るか選択することになります。
- 保険料の徴収方法:協会けんぽの保険料は給与天引きで納付しますが、国保料は市区町村から納付通知書が送付され、口座振替やコンビニ・金融機関窓口で支払います。自治体によっては「国民健康保険税」として住民税と同じ仕組みで徴収されることもあります。
- 高齢者医療との連携:どちらも75歳以上は後期高齢者医療制度の対象となり、協会けんぽの被扶養者であった高齢者も同制度に移行します。いずれも65~74歳の介護保険第2号被保険者は別途介護保険料を負担します。
以上のように、協会けんぽは会社員とその家族のための被用者保険であり、扶養家族に保険料がかからない点や各種休業手当が特徴です。一方、国民健康保険は自営業者や非就労者などの地域保険で、扶養制度がなく家族全員が保険料負担する点や加入手続きが自治体窓口で行われる点などで異なります。家族(配偶者・子ども)が多い場合は、協会けんぽの方が保険料負担が軽くなる場合が多い点が大きな違いです。
要約
国民健康保険と協会けんぽの違い(要約)
- 加入対象
- 協会けんぽ:主に中小企業の従業員とその家族(被扶養者)。
- 国民健康保険:自営業者、フリーランス、無職者など社会保険未加入の人全般。
- 保険料負担(家族がいる場合)
- 協会けんぽ:家族が被扶養者として認定されれば、追加の保険料負担は不要(配偶者・子供の保険料は発生しない)。
- 国民健康保険:家族も一人ひとり被保険者となるため、人数が増えるほど保険料負担が増加。
- 給付内容
- 協会けんぽ:医療給付に加えて傷病手当金や出産手当金がある。
- 国民健康保険:医療給付や高額療養費はあるが、傷病手当金や出産手当金は原則なし。
- その他の特徴
- 協会けんぽ:扶養制度あり、退職後の任意継続制度あり。
- 国民健康保険:扶養制度なし、自治体ごとに保険料が異なる。
家族がいる場合、保険料負担の観点では協会けんぽの方が一般的に有利です。
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