はじめに

私たちは学習や日常生活の中で常に「問題」に直面する。問題とは、現時点の知識や理解ではすぐに解決できない疑問や課題のことを指す。その性質について「問題は理解を問うている。よって、問題は理解を促進する触媒である」という主張がある。すなわち問題はただの障害ではなく、深い理解を生み出す契機だという見方である。この主張を検討するために、弁証法的な枠組み（テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ）に沿って論じる。まず「問題は理解を試すもの」という肯定的な立場（定立）を述べ、その後「問題は混乱を招く阻害要因」という否定的な立場（反定立）を考察し、最後に両者を統合する視点（総合）を示す。これにより、問題と理解の関係を多角的に探る。

定立（テーゼ）：問題は理解を試すもの

テーゼの立場では、問題は理解の正確さや深さを検証する試金石と捉えられる。具体的には、次のような点が指摘できる。

• 現在の知識や理解で説明できない課題に直面したとき、自らの知識や認識の限界が明らかになる。
• 問題を解決する過程で、既存の理論や仮説が適切かどうかを検証し、誤りや不足を見つけることができる。
• 問題を解くことができれば、自分の理解が正確であったことが確認でき、解けなければ理解を見直す必要が示される。
  これらを総合すると、問題に取り組むことは理解を評価・検証する機会となると言える。たとえば難しい課題に対して既存の知識を総動員して挑むことで、自らの理解度が試される。このようにテーゼの視点からは、問題は学びのプロセスにおいて理解を試す原動力とも位置づけられる。

反定立（アンチテーゼ）：問題は混乱を生む阻害要因

一方、アンチテーゼの立場では、問題は学習や理解を妨げる要因とみなされる。問題に直面すると、多くの場合、次のような困難が生じる。

• 解決が容易でない問題は混乱や不安、挫折感を生み、学習意欲を低下させる。
• 問題が複雑すぎると、どのように考え始めればよいか分からず、思考が堂々巡りになってしまう。
• 十分な前提知識がないまま問題に取り組むと、誤った解釈や迷いが深まり、理解の混乱を招く。
  以上のように、問題は一時的に思考を停滞させたり、学習への意欲を失わせたりする可能性がある。特に困難な問題ほど自己効力感を失わせ、理解への障害と感じられる。このため反定立の視点では、問題は理解における妨げや混乱の原因になると考えられる。

総合（ジンテーゼ）：問題は混乱を乗り越えた先で理解を深める触媒

総合の立場では、前述の二つの見方を統合し、問題の二面性を肯定的に捉える。問題は確かに一時的な混乱や挫折をもたらすが、それらを乗り越える過程で理解が深化すると考えるのである。具体的には次の通りである。

• 初めは混乱して手探りになるものの、試行錯誤を続けるうちに新たな視点やアプローチが見えてくる。
• 難問を粘り強く解決した経験は、知識を体系化し理解を強固にする。成功も失敗も含めた学びが蓄積され、次に似た問題に応用できる力となる。
• こうして、一時的な混乱や挫折を乗り越えた先で、問題は学びを深める「触媒」としての役割を果たす。
  このように、問題によって引き起こされる混乱は、むしろ理解を更新・拡張するための契機となる。アンチテーゼで指摘された混乱は不可避であるが、それを克服するプロセスで自分の考え方が進化し、より広い視野が得られる。よって、テーゼとアンチテーゼの対立的な視点を統合すると、問題は一時的に阻害要因でありつつも、最終的には理解を促進する触媒であるというジンテーゼに至る。

要約

本論では、問題と理解の関係について弁証法的に考察した。まずテーゼの立場では、問題は理解の正確さを試す機会と位置づけられた。次にアンチテーゼでは、問題は混乱や挫折を生み出す妨げと捉えた。最後に総合の視点から、問題は初めに混乱をもたらすものの、その困難を乗り越える過程で理解が深まる触媒的役割を持つと結論づけた。すなわち、問題は表面的には障害のように見えるが、結果的に学習と成長を促す存在であるという結論に達した。