国家レベル(中央銀行など)の保管コスト
国家レベルでは中央銀行や政府機関が数千トンもの金塊を地下の強固な金庫施設で厳重に保管しており、監視カメラや多重ロック、警備員配備などで万全の安全管理が行われている。金庫の建設・維持には巨額の費用がかかるものの、これは国家予算に含まれ、保管そのものに関する手数料はごくわずかである。
- 保管料: 米ニューヨーク連邦準備銀行は金の受渡し(売買・移動)時にのみ手数料を課し、保管そのものには料金を徴収しない。一方、イングランド銀行は金塊1本あたり1日3.5ペンス(年間換算で約0.03%)の保管料を設定している。いずれも金額比では極めて低率である。
- 保険: 国の金保有分は国庫資産とみなされ、市販の保険には一般的に加入しない(政府保証扱いとなり、別途保険料負担はほぼ発生しない)。
- 海外預託と返還: 歴史的に多くの中央銀行は保有金の一部をNY連銀や英仏中銀など海外に預託してきたが、近年は自国保管への回帰が進んでいる。例えばドイツ連邦銀行は2013~17年に米NY・英ロンドン・仏パリから合計216トン超を国内フランクフルト金庫に移管し、国内での信頼醸成と迅速な市場交換性確保を目的とした。
個人投資家にとっての保管コスト
- 家庭用金庫: 市販の金庫は数千~数万円程度で購入可能で、いつでも金を手元で管理できる。利便性は高いが、盗難や火災リスクも伴うため、十分な防犯対策と追加の保険加入(自宅保険の高額物品補償など)が必要となることが多い。
- 銀行貸金庫: 年間契約制で箱の大きさに応じて年間約1万円~数万円の利用料がかかる。銀行(信用金庫)の厳重な金庫に保管できるため安全性は高いが、営業時間内しか出し入れできず、銀行破綻時のリスクも考慮する必要がある。基本的に預金保険の対象外であり、内容物の保証は自己責任となる。
- 金地金業者の保管サービス: 三菱マテリアルや三井住友銀行などが提供する金預託サービスでは、業者専用金庫で金を管理してくれる。保管料は預託量に応じて年間数千g以上で0.05~0.1%程度に設定されることが多く(例:2,000g以上は年0.08%)、通常、保険料や監査費用も含まれる。大口保有の場合には自宅保管や貸金庫よりもコスト効率が高いが、業者の信用リスクや出し入れ手続きの手間も考慮すべきである。
間接的保有(ETFや信託)に伴う保管コスト
- 運用管理費(信託報酬): 金ETFや信託では金の保管・監査・保険などの諸経費が運用管理費にまとめて含まれる。代表的なSPDR「GLD」の年率経費率は約0.40%、iShares「IAU」は約0.25%。これらの手数料が実質的な保管コストとなる。
- 裏付資産と保管場所: いずれも物理的な金地金で裏付けされており、GLDはロンドン・ニューヨーク・チューリッヒの各金庫(HSBC・JPモルガン等が保管)に金塊が保管されている。IAUの金は主に米国内(JPモルガンの金庫)に保管されている。投資家は現物の手間を払わない代わりに、これらの費用を間接的に負担する形になる。
- その他のETF: SGOL(Aberdeen:保管地スイス/英国)やBAR(GraniteShares:米国)など、経費率0.17%台と低コストな金ETFも登場している。ただしこれらは資産規模がGLD/IAUより小さく、流動性や取引コストを考慮する必要がある。
要点のまとめ
- 国家・中央銀行レベル: 国家規模の金庫施設と警備体制を持つため、金自体の保管コスト(手数料)は金額比で極めて小さい(実質0~0.1%未満)。近年は信頼性向上・流動性確保の観点から、海外保管分を自国回帰させる動きが目立つ。
- 個人投資家: 家庭用金庫は手軽だが自己責任でセキュリティ・保険整備が必要。銀行貸金庫は年間1万~数万円の費用がかかるが安全性は高い。金地金業者の預託サービスは年間0.05~0.1%程度と低コストで、大量保有時には特に有利になる。
- ETF・信託: 現物の管理負担が不要になる代わりに、年間0.2~0.4%程度の運用管理費(GLD:0.40%、IAU:0.25%等)が必要となる。これらの費用に保管・保険コストが含まれるため、手間とコストを比較して選択されることになる。
コメント