2025年6月米国暴動に関する報告書

背景と発端

  • 2025年1月に第47代米国大統領に就任したトランプ氏は就任演説で移民取り締まりを主要政策に掲げた。特にカリフォルニア州やニューヨーク市などのサンクチュアリ・シティ(移民保護都市)との対立が深まっていた。
  • 2025年6月6日、ロサンゼルス近郊で移民・関税執行局(ICE)による大規模な不法移民摘発が実施された。この摘発ではホームセンターなどで多数の不法移民が逮捕され、家族分断への懸念から地元住民の怒りが爆発した。
  • 移民コミュニティや支持者らは「人間に不法はない(No human is illegal)」などのスローガンを掲げて抗議行動に発展し、トランプ政権の強硬姿勢への反発が一挙に噴出した。

発生した主な都市と期間

  • ロサンゼルス(カリフォルニア州) – 抗議の発端地。6月6日のICE摘発以降、市内でデモが連日発生し、特に6月7~11日にかけて激化した。ダウンタウンでは夜間外出禁止令(カーフュー)が断続的に敷かれた。
  • サンフランシスコ、ニューヨーク、フィラデルフィア、オースティン(テキサス州) – LAに続き連帯デモが拡大。少数百人規模で平和的な集会が行われたが、サンフランシスコでは警官隊との小競り合いや逮捕者も報告された。
  • アトランタ、シカゴ、ワシントンDC、サンアントニオ、フェニックスなど – 全国数十都市に波及。各地で「ICE撤退」などを訴える抗議活動が広がり、同時期に全国で計10都市前後に及ぶ動きとなった。
  • 期間 – 概ね6月上旬から中旬(6月6日~11日頃)が中心。LAでは6日目に当たる6月11日までデモや衝突が継続し、一部地域では夜間外出禁止が維持された。

暴動の内容

  • デモ活動 – 主に移民権利擁護団体や労働組合、市民団体が参加し、「ICE out of L.A.(ICEはLAから出ていけ)」「家族を分断するな」などのプラカードを掲げて市街地を行進した。参加者の多くは中南米系移民やその家族、支援者であった。
  • 警察との衝突 – LAPD(ロサンゼルス市警)や州兵が「違法集会」と見なして催涙ガスやゴム弾、非致死性兵器を投入し、デモ隊を散会させた。6月9日以降、特に連邦ビル前やパラマウント地区で衝突が激化し、デモ参加者数十人の逮捕と数人の負傷者が出た。
  • 物的被害・略奪 – 一部で商店の窓ガラス割りや車両放火などの軽微な破壊行為があったが、大規模な略奪は報告されていない。路上には燃えるごみ箱や散乱物が見られたものの、広範囲な暴徒化には至っていない。
  • 全国展開 – NYやフィラデルフィアでは連邦裁判所前、サンフランシスコではミッション地区や24番街で数百人が集会。アトランタ、シカゴ、ワシントンでは規模は小さいものの、横断幕や国旗を掲げるデモが行われ、警官隊が介入した例もある。

政府および警察・州兵の対応

  • トランプ政権(連邦政府) – ロサンゼルスへの対応として6月7日には2,000人の州兵(ナショナルガード)を派遣し、9日には海兵隊員700人の追加派遣を命じた。ホワイトハウスは抗議を「無法行為」と断じ、強硬姿勢を維持。国務長官Noemは抗議者を「暴徒」扱いし、臨時のテロ対策集団とみなす発言も行った。大統領自身は「暴動が起きれば反乱法を発動する」と示唆し、連邦軍の国内動員まで言及した。中部各州もパトリオット法を背景に州兵増員の検討を表明するなど、連邦・州とも非常事態宣言に近い措置を取った。
  • 州・地方政府 – カリフォルニア州のニューサム知事は連邦の介入を「州権侵害」「実験台にされている」と批判し、海兵隊・州兵派遣を訴訟で争う方針を示した。ロサンゼルス市長バスも「平和的デモに弾圧は不要」と述べ、抗議者の権利擁護に立った。市議会や周辺自治体の中にはICEとの協力協定を解除する動きもあった。これに対しトランプ政権は州知事の逮捕を示唆する発言を行い、緊張が一段と高まった。
  • 警察・治安部隊 – LAPDおよびカリフォルニア州兵はダウンタウン周辺にバリケードを築き、抗議者を囲い込む形で制圧を試みた。ダウンタウン一帯で違法集会区域指定や夜間外出禁止令を発令し、深夜帯には武器を携行した警察部隊が催涙ガスで群衆を排除した。南西部テキサス州オースティンやサンフランシスコでも同様に地元警官がデモ隊を散会させ、少数名を逮捕した。
  • 国防当局 – 国防長官ヒグセットは「暴動が続けば現役部隊投入も辞さない」と述べ、カリフォルニア州近郊のキャンプ・ペンドルトンに待機する海兵隊員の「出動準備」を宣言した。共和党系の一部議員や退役軍人団体からは「国内への軍隊派遣は憲法違反」という声も上がった。最終的に反乱法の正式発動は避けられたものの、現場では人道支援ではなく治安維持を目的とした大規模部隊配置となった。

市民やビジネスへの影響

  • 一般市民: 抗議地域周辺では通勤・外出が困難となり、学校や職場に行けないケースも見られた。特にロサンゼルスの中南米系住民や弁護士などからは「いつどこで摘発されるか分からない」という強い不安感が広がった。現地紙やSNSには、デモ参加者が身の回り品を奪われたとの情報も流れた。報道写真には子ども連れの家族がデモに参加し、親が手錠をかけられ涙ぐむ場面も映り、コミュニティに大きな動揺が走った。夜間外出禁止令下では通行人が警官隊に制止される例があり、市民の自由な行動が抑制された。
  • 小売・飲食業: デモ地域の店舗ではシャッターを下ろす動きや早期閉店が相次ぎ、足元の売上が減少した。繁華街のレストランや雑貨店では売上が数割落ち込む例が報告された。観光・ホテル業界ではキャンセルが増え、不安定な情勢が「LAブランド」へのマイナス印象を生むことを懸念する声がある(ホテル協会)。一方、広域の消費マインドには今のところ大きな変化はなく、全国チェーン店舗では通常営業が続いている。
  • 物流・交通: ロサンゼルス港や空港はデモ直前から貿易摩擦による貨物減少に見舞われていたが、今回の抗議で目立った停止はない。とはいえダウンタウンの主要道路でデモ隊が道路を遮断したため、迂回ルートでの配送遅延やラッシュ時の渋滞増加が生じた。都市高速では通行止め措置が断続的に取られ、地元物流企業からは「配達時間が延び、コスト上昇が懸念される」との声が出た。
  • 雇用・労働市場: 短期的には飲食店や交通業で従業員の勤務キャンセルが発生し、売上減による勤務時間カットも始まっている。中長期的には、仮に不法移民摘発が続くと建設業や農業、縫製業など移民労働者依存の業種で人手不足・人件費高騰が予想され、これらの影響が経済指標に表れる可能性があるという分析がある。

米国経済に与える短期的および中期的影響

  • 小売市場: 局地的には売上減少が顕著だが、全米規模では限定的とみられる。大手チェーン店やオンライン購買への影響は小さく、市場全体の動向はインフレ・金利政策・貿易摩擦など他要因に左右されている。6月上旬の株式市場は、労働統計やFRBの金融政策発表といった要素に注目が集まり、暴落するような直接的反応は見られなかった。
  • 株式市場: 一部ヘッドラインで動揺はあったものの、総じて大幅調整には至っていない。米国企業の業績や世界経済の見通しが株価形成に重きを置き、国内暴動のみで市場全体が持続的に下振れする可能性は低いとみられている。ただし社会不安が激化すると消費者・投資家心理が冷え込み、中長期では株価上昇の重しとなるリスクも指摘されている。
  • 物流・サプライチェーン: LA港を始めとする西海岸の物流網は現在、貿易摩擦の影響で既に稼働率が低下している。デモによる追加的な遅延は軽微だが、抗議が長引けば港湾労働者の不安や物流企業の運航変更リスクが高まる可能性がある。将来的には、主要都市での治安悪化が輸送経路の再編やコスト増を招く恐れもある。
  • 雇用: 短期的にはホテル・飲食・小売で一時的な雇用調整が行われているが、6月雇用統計に明確な変化は出ていない。中期的には、移民取り締まりの強化に伴い就業者数が減少し、特に低賃金労働市場での賃金上昇圧力が高まるとの見方がある。連邦準備制度はこれをインフレ上昇要因と分析しており、労働市場のひっ迫感が続く可能性に警戒を強めている。

全体の要約

6月初旬、トランプ新政権の不法移民取り締まり強化が引き金となり、ロサンゼルスを中心に全米で大規模な抗議・衝突が発生した。連邦政府は州兵・海兵隊を動員して治安強化に乗り出し、州政府側は憲法訴訟で対抗するなど政治的対立が鮮明となった。市民生活や企業活動は一時的に混乱し、特に移民依存度の高い業種や観光・小売りには悪影響が出ている。経済全体への影響は現状では局地的だが、社会不安の長期化が労働力需給や消費者心理に負の影響を及ぼせば、中期的に経済成長にもマイナスとなる可能性がある。政府・企業とも今後の動向を注視しつつ対策を迫られる局面となっている。

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