2025年時点における外貨準備に占める金の割合

**本レポートでは、**2025年時点における世界各国の外貨準備に占める金(ゴールド)の比率について、最新のデータと共に解説します。まず世界全体の状況を概観し、次に主要国(アメリカ、ドイツ、中国、ロシア、日本など)の金保有量とその比率を示します。また、金の比率が特に高い国々とその背景について触れ、外貨準備における金の役割・重要性を説明します。最後に、近年(過去5年程度)の動向やトレンドをまとめ、全体の結論を簡潔に要約します。

世界全体の外貨準備に占める金の比率

世界の中央銀行が保有する金の総量は約36,000トンにも達しており、その市場価格ベースの評価額はおよそ2~3兆ドル規模に上ります。これは世界全体の外貨準備高に占める金の割合に換算すると約20%前後に達し、金は今や世界で米ドルに次ぐ第2位の準備資産となっています。実際、2024年末時点で金の比率は約20%と推計されており、従来第2位だったユーロ資産(約16%)を上回りました。これは中央銀行による記録的な金購入と金価格の上昇が背景にあり、金の国際準備資産としての地位が近年高まっていることを示しています。米ドル資産は依然として世界全体の外貨準備の約45~50%を占め最大ですが、その比率は長期的に緩やかに低下傾向にあります。一方で金は各国の通貨準備の中で存在感を強めており、公式機関の金保有量は1970年代以来の高水準に回復しています。

主要国の金保有量と外貨準備比率

主要国の中央銀行・政府が保有する金の量(公式金準備)と、それが各国の外貨準備に占める割合は以下の通りです(数値はいずれも概算):

  • アメリカ合衆国: 約8,100トン前後の金を保有しており、金保有量は世界最大です。この金の評価額は数千億ドル規模に達し、アメリカの外貨準備に占める金の割合はおよそ70~75%にもなります。米国は基軸通貨ドルを発行する立場上、自国通貨以外の外貨を大量に保有する必要性が低く、結果として外貨準備の大部分が金で構成される形になっています。
  • ドイツ: 金保有量は約3,300~3,400トンで、アメリカに次ぐ世界第2位の規模です。ドイツの外貨準備に占める金の割合は**およそ70~75%と非常に高く、主要国の中でも群を抜いています。ドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)は自国の通貨安定や金融危機への備えとしてこの巨額の金を長年維持しており、近年は一部の金準備を海外(ニューヨークやロンドン)から国内に積極的に移管(リパトリ)**する動きも見せました。
  • イタリア: 約2,450トンの金を保有しており、**外貨準備に占める金の比率は約70%弱(約65~70%)**と推定されます。イタリア銀行が管理する金準備は国内経済の信用維持に重要な役割を果たし、ユーロ圏内でもドイツに次ぐ高水準の金保有比率です。これはイタリアが歴史的に金準備を重視し、国際的な通貨不安定時にも金を手放さなかったことによります。
  • フランス: 保有する金は約2,430トンとイタリアと同規模で、外貨準備に占める金の割合はほぼ70%近く(約65~70%)に及びます。フランスもまた長い歴史の中で金準備を築き、フランス銀行が管理する莫大な金保有は金融上の安全網と位置付けられています。ドイツ・イタリア・フランスはいずれもユーロ導入前からの金本位制時代の名残として大量の金を蓄積しており、その比率は現在も高水準です。
  • ロシア: ロシア中央銀行は約2,300トン前後の金を保有しており、ここ10年余りで金保有量を急増させてきました。ロシアの外貨準備に占める金の割合は約25~30%と見積もられます。ロシアは世界有数の金生産国であり、特に2014年以降(クリミア情勢以降)に外貨準備のドル資産削減と金への転換を戦略的に進めました。この結果、金準備はロシアの国際準備資産の中核となり、制裁リスクへの対抗策やルーブル通貨価値の信認維持の支えとなっています。
  • 中国: 中国人民銀行による公式金保有量は約2,000トン強(2,000~2,200トン程度)と推定されます。ただし中国の総外貨準備高は世界最大級(3兆ドル超)と桁違いに大きいため、金の割合は約3~5%程度に留まります。中国は経済規模に対して金比率が低めですが、近年その割合を徐々に高める動きを見せています。特に2018年以降や2022年後半から、中国は定期的に金準備の積み増しを公表しており、外貨準備の分散(米ドルへの過度な依存軽減)と安全資産確保の一環として金の役割を意識して強化しています。
  • 日本: 日本銀行(および財務省)は約846トンの金を保有しています。日本の外貨準備高(約1.2兆ドル)の規模に対し、この金の比率はおよそ4~5%程度と推計されます。比率としては主要国の中では低い部類ですが、これは日本が巨額の外貨(主に米ドル建て資産)を保有しているためです。しかし、日本にとっても金準備は有事の際の**価値保蔵資産(インフレヘッジや非常時の資金源)**として位置付けられており、一定量を維持しています。
  • インド: インド準備銀行は約760~800トン規模の金を保有しており、その外貨準備(約5,000~6,000億ドル)の中で**金が占める割合は約7~10%**程度と推定されます。インドは伝統的に金に対する文化的需要が高い国であり、政府・中央銀行も外貨準備の一部として金を蓄えています。インドの金比率は中国や日本より高く、近年は国内金融政策の柔軟性確保やルピー安防止策の一環としても金準備の強化が図られています。

(※上記の数値は概算であり、金価格や各国の外貨準備総額の変動によって割合は変化します。欧米主要国は金の評価額上昇に伴い2025年前後には金比率がさらに上振れしている可能性があります。)

金の割合が高い国々とその背景

外貨準備に占める金の割合が特に高い国としては、上述のアメリカやドイツ・フランス・イタリアといった先進主要国のほか、ポルトガルスイス、そして一部の新興国が挙げられます。それぞれ高比率となっている背景には異なる要因があります。

  • アメリカ・西欧主要国: アメリカは先述の通り、自国通貨ドルが国際基軸通貨であるため、他国通貨(外貨)の保有ニーズが小さく**「外貨準備=ほぼ金」という構造になりました。欧州の主要国(ドイツ・フランス・イタリア・オランダ・ポルトガルなど)は、第二次世界大戦までの金本位制の歴史的遺産として大量の公式金準備を蓄積し、その後も大部分を維持してきました。特にドイツ・フランス・イタリア・ポルトガルなどは二度の大戦やハイパーインフレで自国通貨が紙くず同然となった過去の経験から、「いざという時に価値がゼロにならない資産」として金への信頼が根強いとされています。結果として、これらの国々では外貨準備の60~80%前後**を金が占める状態が続いています。例えばポルトガルは約380トンの金を保有し、その比率は概ね80%近い水準に達しており、世界でも屈指の高さです。スイスも約1,000トン超の金を持つ大国ですが、スイス国立銀行は為替介入で巨額の外貨資産を積み上げたため金比率はむしろ低下し現在は数%台に過ぎません(かつてはスイスフランを金と連動させていた時代もありましたが、現在は多額の米国債などを保有しています)。
  • 金比率が高い新興国: 一部の新興国・資源国でも金の割合が高いケースがあります。例えばウズベキスタンカザフスタンは、それぞれ自国産出の金を積極的に外貨準備に組み入れた結果、外貨準備の50~70%近くが金になっています。ウズベキスタン中央銀行は自国通貨ソムの安定策として金準備を厚く保有しており、その金比率は70%超とも報じられます。同様にカザフスタンもエネルギー・資源国として稼いだ外貨の一部を金購入に充て、準備高全体に占める金の構成比を高めました。またロシアトルコのように地政学リスクに晒されている国も、安全策として金比率を引き上げています。ロシアは対外制裁への備え、トルコは通貨リラの信認維持や民間保有金の集約策などで中央銀行が金を増やしてきました。ベネズエラのように経済危機で外貨資産が枯渇し、結果的に残る金準備の比率が極端に高くなった例もあります(ベネズエラは公式に約160トン前後の金を保有し、外貨準備の大半が金という状況になっています)。このように、各国の事情に応じて金比率が高い背景は様々ですが、共通するのは「他の準備資産への信頼低下や自国通貨防衛のため、究極の価値保蔵手段である金に頼る割合が高まっている」という点です。

外貨準備における金の役割と重要性

金(ゴールド)は通貨当局にとって古くから最も重要な準備資産の一つです。その役割と重要性は現代においても色あせておらず、以下のような点が挙げられます。

  • 最終的な価値保蔵資産: 金はいかなる国の信用にも依存しない資産であり、紙幣や国債とは異なり発行体のデフォルトリスクがありません。通貨価値が急落したり、保有する外国債券が信用不安に陥ったりした場合でも、金そのものは世界的に普遍的な価値を持ち続けます。そのため中央銀行は**「最後の拠り所」**として金を保有し、自国通貨の価値維持や非常時の資金繰りに備えています。
  • 安全資産・リスクヘッジ: 金は**典型的な安全資産(セーフヘブン)**とされ、市場の不確実性が高まると価格が上昇する傾向があります。外貨準備に金を組み入れることで、為替相場や外国債券価格の変動リスクを一定程度ヘッジできます。特にインフレ局面では法定通貨の購買力が低下しますが、金価格は歴史的にインフレとともに上昇する傾向があり、インフレヘッジとして中央銀行のバランスシートを守る役割を果たします。
  • 流動性と普遍性: 金は国際市場で24時間取引されるため、高い流動性を持つ資産です。大量に保有していても市場で現金化(売却)しやすく、他国との間で直接金のまま取引・決済に使われることもあります。極端な場合には、外交交渉で金の供与をテコに信用枠を引き出したり、緊急支払いに充当した例もあります。こうした普遍的受容性と流動性の高さから、金は有事の際の国際支払い手段・担保としても重宝されます。
  • 通貨発行と信用の裏付け: 歴史的に各国通貨は金との交換を約束することで信用を得てきました(いわゆる金本位制)。現在は管理通貨制度で直接の兌換は行われませんが、なお各国は金準備を持つことで通貨発行への信認を暗に支えています。特に基軸通貨国のアメリカが世界最大の金準備を維持していることは、ドルへの信用維持策の一つとも言われます。小国でも金準備を持つことは自国の金融信用力を補完し、国債の対外信用度や通貨の信頼性にプラスに働くと考えられています。
  • 政治的中立資産: 外貨準備を構成する資産の中で、金は政治的リスクから最も自由な資産です。外国通貨や国債は発行国の政策や国際関係に影響され、極端な場合には凍結・没収されるリスクもあります。実際、ロシアは2022年のウクライナ侵攻に伴い保有していた外貨資産の一部を凍結されましたが、金準備はそうした制裁の直接対象になりにくい側面があります(ただし保管場所などによっては制約を受ける可能性はあります)。いずれにせよ、金はどの国にも属さない価値であるため、地政学リスクの高い時代に相対的な安心材料となっています。

以上のように、金は**「究極の準備資産」**として、各国の金融当局から戦略的に保有される理由があります。外貨準備における金の役割は、単なる投資収益狙いではなく、国家の金融安全保障を支える存在として極めて重要なのです。

近年の動向(過去5年程度)

この5年ほどの間に、中央銀行による金の購入が顕著に増加し、外貨準備に占める金の比率は世界的に上昇傾向を示しています。2010年代前半までは先進国の中央銀行が金準備を売却する動き(いわゆる「ワシントン協定」に基づく計画売却など)が見られましたが、2010年代後半から流れが転換しました。特に2018年以降、各国中銀はネットで毎年数百トン規模の金を純購入するようになり、2022年には年間で1,000トンを超える史上最大の購入量を記録しました(これは1971年の金本位制終了以降で最大)。その後も2023年・2024年と3年連続で年間1,000トン前後の高水準な純購入が続いており、中央銀行は明確に金を積み増す傾向を強めています。

こうした購入の中心となっているのは、新興国や資源国の中央銀行です。例えば中国は2015年以降断続的に金準備を増やし、特に2022年末から2023年にかけて公表ベースで100トン以上の購入を行いました。ロシアも2010年代に大規模購入を行い、ウクライナ紛争前夜までに外貨準備内での金比率を大きく引き上げました(現在は制裁下で公表を停止)。トルコも近年金準備を積み上げ、一時は年間買い越し量で世界最大になるほどでした(国内経済の不安から2023年には一部売却に転じたものの、長期トレンドとして金保有量は増加傾向)。その他、インド、サウジアラビア、エジプト、ブラジル、タイ、ポーランド、ハンガリーなど、多くの新興国が外貨準備における金の割合を高める行動を取っています。これらの国々はそれぞれ、自国通貨の信認向上、米ドル資産への過度な依存リスクの軽減、制裁リスクへの備え、あるいは国内の伝統的な金需要との整合など、様々な戦略的理由で金を選好しています。

一方、先進国の中央銀行は概ね保有金を維持しており、新規の大規模売却は行っていません。欧州の主要国(ドイツ、フランス、イタリア等)は依然として巨額の金を保有し続け、売却ではなく安定保有のスタンスです。むしろポーランドやハンガリー(欧州新興国)のように、先進国側でも金を買い増す例が出ています。また日本はここ数年公式には大きな変動がないものの、必要に応じて一部の金を売却し国内財政に充当したことが過去にあるなど(金市場での売買というより政府会計上の評価替えですが)、金準備の活用策にも関心が集まっています。

総じて、2010年代後半から2020年代にかけて金の中央銀行需要が増大し、それに伴って「外貨準備に占める金の割合」は世界全体で上昇傾向にあります。背景には、米ドル中心の国際金融体制への警戒感(ドルの価値低下リスクや特定通貨への過度な偏重への懸念)、地政学的リスクの高まり(制裁や対立による資産凍結リスクなど)、そしてパンデミック以降の各国による金融緩和と財政拡大でインフレ圧力が高まったことへのヘッジ欲求が挙げられます。つまり、中央銀行にとって金は改めて「安全かつ信用できる価値の保管先」として見直され、その結果が統計上の金保有量増加と比率上昇のトレンドに表れているのです。

まとめ(要約)

近年、金は外貨準備において極めて重要な位置を占めるようになっています。世界全体では外貨準備の約5分の1を金が占め、その比率は上昇傾向にあります。特にアメリカやドイツ、フランス、イタリアなどの主要国では金の比率が60~70%以上と突出して高く、歴史的背景や通貨政策上の理由から大量の金を蓄えてきました。一方で中国や日本の金比率は数%台と低めですが、これは保有外貨総額が非常に大きいためであり、近年はこうした国々も金の積み増しに動いています。金を多く保有する国では、それぞれ**「最終的な価値保蔵」「安全資産による分散」「信用の裏付け」といった目的で金を外貨準備に組み入れており、地政学リスクや経済不確実性の高まる状況下でその重要性は一段と増しています。過去5年ほどの動きを見ると、中央銀行の金購入は記録的な水準に達し、金の準備資産としての地位は強化される傾向にあります。総じて金は外貨準備における不可欠な柱**であり、その保有比率や役割は今後も各国の経済安全保障戦略の中で注目され続けるでしょう。

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