序論
本投資戦略は、上級者向けと中級者・初心者向けの2つのプランについて、いま(2025年後半)から2026年11月の米国中間選挙、さらにその後までの期間で、1,000万円のポートフォリオ運用を概説するものです。マクロ経済の前提や市場トリガーに基づき、金鉱株(レバレッジETF)・現物連動の金ETF・広範な株式指数ETFの間で機動的に配分を切り替えます。以下では、前提の妥当性、ETFの選択、タイミングのトリガー、リスク・リターン特性を含め、戦略の論理的一貫性と投資としての合理性を評価します。また、代替案や注意点も示します。
(注:iDeCo/NISAの積立は除外=課税口座での運用を想定。通貨は円で、米ドル建てETFへの投資を前提とするため為替リスクは存在しますが、本評価の主眼ではありません。評価は2025年後半から2026年中間選挙後の期間を対象とします。)
前提とマクロ経済的仮定
この戦略はいくつかの重要なマクロ前提に基づきます。
米国の政治的影響力(選挙後の“アメリカ・ファースト”)
2026年の中間選挙後、米政権が大胆な保護主義・景気刺激策(関税など)を打ち出し、市場に影響を与える可能性があります。政府政策は特定セクターに大きく作用し得ます(輸入依存産業に対する関税はコスト増=インフレ要因)。よりナショナリスティックな政策への転換が起きれば、ボラティリティ上昇やセクターローテーションが生じ得ます。歴史的にも、積極的関税政策や先行き不透明な決定が市場を揺らした局面がありました。2025年の事例では、地政学的緊張の中で金が最高値圏まで上昇し、「関税政策の継続」が不確実性を増幅させるとの見方もあります。中間選挙は大統領を交代させませんが、議会勢力図を変え、政策方向に影響します。選挙後の政策変化が相場を撹乱するとの仮定は、特定政党が大きく議席を伸ばす場合にとくに妥当と言えます。なお、中間選挙年は選挙前後の数カ月で平均以上のボラティリティになりやすく、一方で**選挙後1年のS&P500は1950年以降すべてプラス、平均+15%**という統計もあります。これは「選挙関連の下落後に買う」という本戦略の発想を下支えします。
米国の財政悪化とドル/国債リスク
財政赤字・利払いの急増がドルと米国債の信認を損ない得る、という前提です。実際、米国の利払いは近年急増し、防衛費を上回る規模との試算もあります。こうした巨額の金利負担と赤字は、将来のドル希薄化(インフレ)への懸念を強め、米国債の長期的価値に疑義を生みます。格付機関による米国格下げ(債務・利払い負担増への懸念)もあり、**「財政見通しの悪化」**は超安全資産としての米国債の見方を蝕みます。結果として、ハードアセット(ゴールド)への逃避が強まるとの戦略の前提は、現状のマクロ環境に一定の根拠があります。
安全資産志向としての金、中央銀行による金買い
財政・地政学的な不確実性が高まる局面では金が選好される傾向があります。足元では、中央銀行の金買いが記録的ペースで続いており、2024年の公的部門純購入は1,086トン(過去最高)、2025年も年1,000トン規模が続く見込みとの推計もあります。背景には脱ドル化(準備の多様化)、米政策の不確実性、インフレ・地政学リスクなどが挙げられます。公的需要は価格の下支え要因です。中央銀行は金“現物”を買い増しており、金鉱株(株式)を直接は買わないため、公的需要の恩恵は金価格>金鉱株の順で先に表れがちです。
金鉱株は“金価格に出遅れ”
上記を受け、金現物の上昇に対し金鉱株が大きく出遅れているという仮説です。2023~2025年の金史上高値圏でも、多くの鉱山株はバリュエーションが相対的に低く、一部のアナリストは「鉱山株の株価は、暗に金$2,500/oz程度を織り込むにすぎず、現実の金価格を十分反映していない」と指摘しました。金→鉱山株の見直しは歴史的に起こり得るパターンで、金が堅調なら鉱山株の収益はレバレッジ的に伸びやすいため、キャッチアップ上昇が起きる可能性はあります。他方、鉱山株には事業固有リスク(コスト、操業、法規制・国リスク)があり、金価格と完全には連動しない点は留意が必要です。
小括
以上より、財政不安・インフレ懸念→金需要増、鉱山株の相対割安感、中間選挙後の変動性上昇など、戦略の基礎は概ね妥当性があります。ただし、政策の極端化が必ず起きる保証はない、ドルや米国債の信認は当面維持され得る、といった不確実性も認識が必要です。総じて、戦略の根拠は現在の経済シグナルと歴史的パターンに一定の論理的裏付けがあります。
上級者プランの分析
上級者プランは、想定マクロを最大限に活用して高リターンを狙う攻撃的・戦術的アプローチです。
1)いま~2026年中間選挙:NUGT(金鉱株2倍)に100%
狙い:金価格上昇→金鉱株のキャッチアップ上昇を2倍レバで取りにいく。鉱山株が20%上がれば、理論上NUGTは~40%(手数料・複利効果控除前)上昇といった具合。
リスク:集中&レバレッジの二重リスク。NUGTは日次2倍連動のため長期保有で指数×2と乖離しやすく、ボラが高いと減価が進みます。鉱山株は株式ゆえ地合い悪化で金が上がっても売られることがあり、コスト上昇や操業リスクも加わります。日次で±5–10%動くことも珍しくなく、全額投下は投機的。
評価:仮説に強い確信がある上級者なら成立し得るが、アクティブに監視・管理できることが前提。代案としてGDX(1倍)+GLDMの組合せ、あるいはGDXコール等で下限リスクを限定する手法も検討余地。
2)中間選挙直後:GLDM(現物金)に100%へ乗換
狙い:選挙後の政策不確実性・混乱に備え、ボラの低い金現物に退避。NUGTのレバ・セクターリスクを外し、利益を防衛。
留意:選挙後に株高・ドル高・実質金利上昇の組合せになれば金は逆風。機会損失の可能性はあるが、守りを固めるリスク管理としては筋が通る。
3)S&P500が直近高値から-20%超:SPXL(S&P3倍)に100%
狙い:弱気相場入り=割安のサインで最大レバで反発を取りに行く。-20%後に高値回帰(+25%)なら、理論上SPXLは~+75%(諸要因控除前)。
リスク:-20%が底とは限らない。-30%~-50%もあり得て、その場合3倍は壊滅的なドローダウン。日次レバゆえ底這い・乱高下でリターンが目減り。段階的エントリーや損失許容のルールなど厳格なリスク管理が不可欠。
評価:歴史的には妥当な逆張り発想だが、シーケンスリスクが大きい。-20%を**“目安”**と捉え、15~25%で段階投入する柔軟性も考えたい。
4)S&P500が過去高値更新:GLDM/VT 50:50へ
狙い:レバは長居無用。目標達成で利益確定→防御的な長期配分へ。
配分の妥当性:金50%は伝統的配分より重いが、通貨劣化リスクを強く意識する前提では合理的。世界株(VT)で成長を取り、金でボラと尾部リスクを抑える。
評価:上昇余地を残す局面でも保守的に降りるため機会損失はあり得るが、大局で勝って守るという一貫した方針。
総括(上級者)
金鉱株→金→株3倍→金/世界株50:50という明快な物語線で一貫。ハマれば大きな超過リターンも、タイミング外れや深押しでの損失は甚大。全額・単一テーマ・レバの三拍子で再現性は低い。現実の運用では分割投入・ヘッジ・ストップなどのリスク管理が鍵。
中級者・初心者プランの分析
上級者版の思想を保ちつつ、分散と低レバで実行容易性と堅牢性を高めた設計。
1)いま~中間選挙:VT/GLDMを50:50
狙い:世界株の上昇にも、下落時の金のクッションにも同時に備える。単純・理解しやすい初期配分。
評価:ボラは1資産集中より大幅低下。ただし**金50%**は一般的には高め(本戦略のインフレ・通貨観を反映)。債券の代替として金を用いる思想。
2)選挙後にS&Pが-20%超:GLDMを売り、SPUU(2倍)に
狙い:守り(GLDM)で凌いだ後に割安局面で攻めへ。3倍でなく2倍で減価とボラを抑制。結果としてVT(1倍)+SPUU(2倍)=実効エクスポージャー~1.5倍に。
評価:心理的には難しいが、ルール化で実行しやすい。-20%が底でないリスクはあるが、上級者の3倍よりマイルド。一括ではなく段階的乗換がなお良い。
3)S&Pが過去高値更新:SPUUを利確→VT/GLDMの50:50へ
狙い:レバは回復取り切りで終了、再び安定配分へ。金は安値で買い戻せる可能性も。
評価:良い習慣(利確・原点回帰)をルール化。強気継続での取り逃しはあるが、次の下落に備える安全運転。
総括(中級者・初心者)
上級者案の精神を低レバ+常時分散で実装。過度な逆風でも致命傷を避けやすく、それでいて下落後の回復はしっかり取りに行く。過度な取引を避ける条件付きルールで、現実的で合理的。
タイミング・トリガーと整合性
- 中間選挙(時間トリガー):上級者は選挙で金へ退避、初心者は条件発動まで据え置き。想定イベントを先回りする上級者案は機動的だが、好反応相場の取り逃しリスク。初心者案は事実(下落)に反応する保守的な設計。
- S&P -20%(条件トリガー):弱気相場基準での逆張りエントリーは歴史的にも概ね妥当。ただし底とは限らず、分割投入や保有方針の明確化が必要。
- 過去高値更新(条件トリガー):レバ解消&分散回帰の明確な出口。やや保守的だが、規律維持に有効。
- レバETFの保有期間:長期保有の乖離・減価に注意。回復が長引くと期待通りに効きづらい。状況に応じ見直し・ロールを検討。
- 税・コスト:頻繁な売買は譲渡益課税・手数料で複利を削る。実効リターンは理論値より低下。初心者には税後リターンの意識づけが必要。
リスク/リターン評価
上級者案:
- 成功時の爆発的リターン(NUGT→SPXL)が魅力。一方でボラ極大、全額・単一・レバで失敗時の損失も極大。
- **再現性は低く、鍛えた規律・迅速な判断・代替手段(ヘッジ/段階投入)**が不可欠。
- 多くの投資家には過度に危険。裁量の柔軟性も要る。
中級者・初心者案:
- 中位のリスクで中~高めの期待リターン。50/50で下押し耐性を確保し、下落時のみ限定レバで回復の取りこぼしを抑える。
- 上級者の7~8割の上振れを、下振れはおよそ半分に抑えるイメージ。現実的・継続しやすい。
代替案・注意喚起
- オールインではなく部分配分:-20%で半分、-25%で残りなどの段階投入。
- レバ低減またはヘッジ併用:NUGTの代わりにGDX+コール、SPXLの代わりにSPUUなどで減価・ドローダウンを緩和。
- 事前のリスク管理ルール:最大損失閾値や資金追加/撤退条件を明文化。
- ETFのメカニクス理解:日次レバは長期で乖離。停滞相場では劣化に注意、定期点検を。
- 最終配分の多様化:金50%は思想として妥当だが、債券/TIPS/REIT/コモディティ指数等を少量組み入れて収益源の多様化も選択肢。
- メンタル面:ルールからの逸脱(恐怖・強欲)に注意。シンプルなルールは継続の味方。
- マクロ不確実性:インフレ再燃、デフレ不況、穏健な政治結果など、筋書き通りに進まない前提を常に意識し、適応する。
結語
上級者・中級者プランはいずれも説得力あるマクロ観に基づき、前提→行動(ETF)→出口が一貫しています。
- 上級者案は高リスク・高リターンで、訓練された裁量と厳格なリスク管理が前提。
- 中級者案は分散+限定レバで、平均的投資家にとってより合理的。
共通して、レバレッジETFは短期戦術ツールであり、放置せず能動的に管理すべきです。手数料・税・減価を織り込み、前提の検証(財政・中央銀行の金買い・政治動向)を継続することが、2026年へ向けた運用成功の鍵となります。リスクが重いと感じるなら、レバを薄め、分散を厚く、それでも規律を守る——これが実務上の最適解に近づく近道です。
コメント