法人事業税は、事業所の所在する都道府県に課される地方税です。支店や工場などを複数の都道府県に設置している法人は、全社で計算した課税標準(所得金額や付加価値額など)を一定の基準に従って各都道府県に按分します。この基準を**「分割基準」**と呼びます。
法人事業税の分割基準は事業の種類で異なります。法人住民税(法人税割)の分割基準は従業者数のみですが、法人事業税では主な業種に応じて下表のとおり定められています。
主な分割基準(中小企業者を含む)
| 業種 | 分割基準の内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 非製造業(建設業・情報通信業・卸売業・小売業・金融業・サービス業等) | 課税標準額の2分の1を「事務所等の数」、残り2分の1を「従業者の数」で按分する。 | 支店など複数の拠点を持つ一般的な中小企業はここに該当。 |
| 製造業 | 従業者の数のみで按分する。資本金1億円以上の製造業者は工場従業者数を1.5倍して計算する特例がある。 | |
| 倉庫業・ガス供給業 | 事業年度末における事務所等の有形固定資産の価額で按分する。 | |
| 電気供給業 | 小売電気事業は非製造業と同じ(事務所数と従業者数を半々)。送配電・発電事業などは電線路の電力容量や発電施設の固定資産価額を用いる。 | |
| 鉄道・軌道事業 | 事業年度末の軌道の単線換算キロメートル数で按分する。 |
ポイント: 複数の事業を営む法人は、売上高が最も大きいものを「主たる事業」として、その事業の分割基準を全ての課税標準に適用します。
分割基準の具体的な中身
1. 事務所等の数(非製造業等)
「事務所等」とは、自己の所有かどうかを問わず 継続して事業を行う人的・物的設備で、そこで事業活動が行われている場所を指します。例えば営業所・支店・工場が該当し、宿泊施設や研修施設のような内部的施設は含まれません。
「数」は 事業年度の各月末日における事務所等の数を合計したもので、期中に新設・廃止した場合はその月数で按分します。例えばA県に1ヵ所、B県に1ヵ所の営業所を1年間継続して有していた場合、A県分は12、B県分は12となり、合計は24として計算します。
2. 従業者の数
従業者とは、 俸給・給与・賃金・賞与など給与を受けるべき人をいい、給与を受けていない経営者やその親族でも実際に従事していれば従業者に含めます。事業年度末に各事業所等に在籍する従業員の数を用います。
ただし、研修中の者や国外支店勤務者などは含めず、著しく変動した場合は月平均で計算します。製造業で資本金1億円以上の場合は、工場従業者数の2分の1を加算する特例があります。
3. 固定資産の価額
倉庫業・ガス供給業や電気供給業の一部では、 事業年度末の貸借対照表に記載された有形固定資産の価額で按分します。対象となる固定資産とは土地や建物・機械装置など減価償却可能な資産で、1,000円未満の端数は切り捨てて計算します。
4. 電線路の電力容量・軌道延長
電力会社の送配電事業は、 **発電所等に接続する高電圧電線路の電力容量(キロワット)**を基準に3/4を按分し、残り1/4を固定資産価額で按分します。
鉄道・軌道事業では、 事業年度末における軌道の単線換算キロメートル数で按分します。
中小企業者への影響と外形標準課税の関係
資本金が1億円を超える法人には、所得割に加えて付加価値割・資本割からなる 外形標準課税が適用されます。しかし、**中小企業者(資本金1億円以下の法人)**は原則として外形標準課税の対象外であり、従来どおり 所得割のみが課税されます。そのため大部分の中小企業は付加価値割・資本割を計算する必要はありません。
ただし、資本金が1億円以下でも大企業の100%子会社など一定の要件を満たす法人は外形標準課税の対象になる場合があります。
所得割のみの場合でも、事業所を複数の都道府県に持つ中小企業は 分割基準に基づいて課税標準を按分します。中小企業に対する税率は段階税率(年400万円以下、400万〜800万円、800万円超)の軽減措置があり、分割基準で按分した各ランクの課税標準額に税率を乗じて都道府県ごとに税額を算定します。
分割基準を用いた計算例(非製造業の中小企業)
例:資本金5,000万円のサービス業(中小企業)で、A・B県の2県に拠点を持ち、事業年度の所得金額の総額が12,345,678円、事務所数と従業者数が次のとおりとします。
| 基準 | 全社計 | A県 | B県 |
|---|---|---|---|
| 事務所等の数(各月末日の合計) | 72所 | 36所 | 36所 |
| 従業者数(事業年度末日) | 198人 | 97人 | 101人 |
計算手順は次のとおりです:
- **課税標準額を1/2に分ける。**12,345,678円を千円未満切捨て後2分の1し、6,172,000円とする。
- **事務所数で按分(半分)。**6,172,000円を全社の事務所数72で割り、1単位当たりの額を求めてA県の事務所数36を掛ける。A県分は約3,085,000円。
- **従業者数で按分(残り半分)。**同様に6,172,000円を従業者数198で割り、A県の従業者数97を掛ける。A県分は約3,023,000円。
- **分割課税標準額の合計。**A県の所得割課税標準額は3,085,000円+3,023,000円=6,108,000円。税率(軽減税率)を乗じて税額を計算する。
B県も同様に計算し、2県分を合計すると全社の課税標準額に一致します。
まとめ
- **分割基準は事業種目で異なる。**一般的な中小企業(非製造業)は「事務所等の数」と「従業者の数」を半分ずつ用います。
- **従業者数のみを用いるのは製造業(工場従業者1.5倍の特例あり)**や法人県民税(法人税割)の分割計算です。
- 倉庫業・ガス供給業は固定資産価額を基準にし、電気供給業・鉄道業には特殊な基準が適用されます。
- 中小企業者(資本金1億円以下)は外形標準課税の対象外で、所得割のみ課税されます。ただし複数県に事業所がある場合は分割基準に基づいた按分計算が必要です。
分割基準を正しく理解し、各拠点の事務所数や従業者数を把握しておくことが、法人事業税の適正な申告につながります。

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