WGCのウィークリー・マーケット・モニター(2025年11月10日付)では、世界経済の停滞とドル高が金市場に逆風を与えている一方で、米連邦準備制度の流動性供給や米国政府閉鎖の解消が市場を支える可能性があると指摘された。ここでは、この「流動性の蛇口を開く」という主張を弁証法的に検討する。
テーゼ:流動性供給とドル安が金を支える
WGCは、先週の経済指標がモメンタムのばらつきを示す中、米国の消費者信頼感低下や欧州中銀の金利据え置き、中国の輸出減少などを挙げつつ、FRBが資金供給の緩和を開始している可能性や、米国政府閉鎖解消の兆しが「流動性の蛇口」を開く契機になると論じている。資金の流入が強まり、ドルが下落基調に戻れば、金には上昇圧力がかかると期待される。実際、政府閉鎖の解除後(11月13日)には投資家心理が改善し、10年物米国債利回りが4.07%に低下、ドル安が進んだことで金は1トロイオンス4,200ドル超まで急伸した。加えて、中央銀行による買いの継続や地政学リスクが残る中では安全資産としての需要も根強い。よって、流動性供給とドル安は年末に向けた金相場の上昇要因になり得る。
アンチテーゼ:ドル高・経済不安による逆風
これに対して、現状のドル高や世界的な経済減速が続けば、流動性供給の効果は限定的との見方もある。WGC自身も、米ドル高が資金調達市場の流動性タイト化と相まって金に逆風となっていることを認め、金は短期的に調整・保ち合い局面に入りうると分析している。また、民間調査によれば米国のサービス業PMIは52.4と強く、ADP雇用報告も42,000件増と改善傾向にあるため、労働市場が依然底堅い可能性がある。民間データでは政府閉鎖中でも米経済は堅調であり、利下げ観測が後退すればドル高が続き、金相場を抑制しかねない。テクニカル面でも、金価格は心理的節目の4,000ドル付近で中立状態となっており、14日RSIやMACDが横ばいを示すことから大きな調整局面に移行するリスクも指摘されている。
ジンテーゼ:短期的な反発と中期的な調整の共存
両者を総合すると、流動性供給や政府閉鎖の解消が短期的にリスク資産と金を押し上げたのは事実である。一方で、労働市場が完全に減速したわけではなく、世界各地の製造業や消費は依然として弱いままである。そのため、ドルは時折強含み、金も高値圏では利益確定の売りが出やすい。金相場は今後の米雇用統計やインフレ指標、中央銀行の政策変更に敏感に反応するだろう。流動性が改善しても実体経済が回復しなければリスク資産への資金シフトは限定的になり、金は安全資産として買われる場面も多い。したがって、年末にかけて金はレンジ相場の中で、ドル・金利動向と流動性の綱引きに左右されながら調整と反発を繰り返すというのが現実的な見方である。
要約
WGCの週次レポートは、流動性供給や米政府閉鎖の解除による市場活性化が金相場の追い風となると主張した。実際、閉鎖解除後にはドル安と利回り低下により金は一時4,200ドルを超える急騰を見せた。しかし、ドル高継続や米経済の底堅さが残る中で金は調整局面入りの可能性もあり、14日RSIやMACDはニュートラルを示している。結果として、流動性と安全資産需要のせめぎ合いにより、年末にかけて金はレンジでの推移が続く公算が大きい。

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