テーゼ(命題)—「AIバブルは終わった」とする立場
- 投機熱の剥落と株価の急落
生成AIブームでエヌビディアやマグニフィセント7企業が急騰した後、2025年11月20日に米国株式市場が急反落し、ナスダック総合指数は乱高下しました。エヌビディア株も一時5%高から終値では−3.2%と下げに転じ、他の半導体株も軒並み下落。この急落を、バブル崩壊のシグナルと見る投資家がいます。 - 循環取引と顧客集中への懸念
エヌビディアの売上の約61%がわずか4社に依存し、自社チップをクラウド事業者からレンタルする「循環取引」を拡大しているとの指摘があります。アナリストは、赤字スタートアップ同士で売り上げを膨らませる循環取引が途切れれば大きな損失を被ると警告しています。ピーター・ティールや孫正義らもAI関連株の売却を進めていると報じられており、バブル懸念が高まりました。 - 著名投資家の悲観
映画『マネー・ショート』のモデルであるマイケル・バリーは、AI株に対する空売りを仕掛け「AIバブル崩壊」を予言しました。彼はデータセンター投資が利益を伴わないまま続き、循環取引で売上が水増しされている点をドットコム期と類似していると指摘しました。 - 好決算でも株価上昇せず
エヌビディアは第3四半期で前年同期比約2.5倍の570億ドルの売上を報告し、次期も600億ドル超を見込んでいましたが、決算発表翌日に株価は下落しました。好材料でも株価が上がらない状態は、バブルのピークを過ぎた証拠だという見方が生まれています。
アンチテーゼ(反命題)—「AIバブルは終わっていない」とする立場
- インフラ革命としてのAIブーム
フォーブスの寄稿者は、AIブームを「最大のエネルギー主導型インフラ拡張」と位置づけ、「これはバブルではない」と論じています。AIは電力と半導体供給能力に依存し、ソフトウェアのように簡単にスケールしません。政府や大企業との長期契約によって需要が支えられており、投機ではなく実需に基づいていると説明しています。 - CEOの見解:バブルではなく転換点
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは決算説明会で、「AIはバブルではなく歴史的な転換点だ」と強調しました。非AI領域の計算負荷がGPUに移行し、コード生成やロボット市場など新たな需要が広がっている点を挙げ、データセンター用の土地や電力の問題も解決していくと述べています。 - ドットコム期との比較
フォーブスの記事は、ドットコム期に多くの企業が淘汰された一方で、AmazonやGoogleなどの巨大企業が台頭し、整備されたインフラがその後の経済基盤となったと指摘しています。AIでも投資過剰に見える時期を経て基盤が整い、一部の勝者が長期的な利益をもたらす可能性が高いとしています。 - 実需に裏付けられた長期契約と健全な調整
生成AIの用途はすでに企業や政府の業務に組み込まれ、エンタープライズ向けの長期契約が締結されているため需要は保証されています。オックスフォード・エコノミクスのエコノミストは、株価の急落を「健全な調整」と見て、エヌビディアの堅調な決算が減速懸念を和らげるだろうと述べています。
ジンテーゼ(総合)—バブル終焉かどうかを超えた視点
両者の議論を統合すると、AI相場は単純に「バブルが終わった」か「続いているか」という二項対立では捉え切れません。
- 短期的には過剰な期待の修正が進行中
エヌビディア株の乱高下や循環取引への懸念、著名投資家の空売りなどは、投機的な熱狂が剥落し、期待が現実に近づいていることを示しています。これまで高すぎたバリュエーションは調整局面に入りました。 - 中長期的には構造的成長が持続
一方で、AI関連投資は電力・半導体・データセンターといったインフラ領域に根ざしており、政府・企業による長期契約が実需を保証しています。AI技術の進歩と社会への組み込みは今後も続くため、ドットコム期のように“全てが泡と消える”との予言は過度に悲観的です。 - 投資家への示唆
投資家は短期的な価格変動に振り回されるのではなく、個々の企業の競争優位性やキャッシュフロー、循環取引リスクなどを精査しつつ、中長期的なインフラ需要の恩恵を享受する企業を選別する必要があります。
要約
エヌビディアの株価急落をきっかけに「AIバブル終焉」が語られていますが、短期的な投機熱の剥落をもってバブル崩壊と断定するのは早計です。確かに循環取引や顧客集中などのリスクが浮上しており、過熱修正が進んでいます。しかし一方で、AI需要はエネルギー主導型インフラ革命に支えられ、政府や企業の長期契約による実需が保証されているとの見方が強く、CEOも「転換点」であると述べています。結論として、AI相場は短期的調整と中長期的成長の二層構造にあり、単純にバブル終焉と片付けるのではなく、構造変化と投機の両面を意識した慎重な姿勢が必要です。

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