背景とデータ
2025年9月の米国雇用統計は、政府機関の一時閉鎖の影響で公表が11月20日にずれ込みました。非農業部門雇用者数(NFP)は前月比で11.9万人増加し、市場予想(約5万人前後)を大きく上回りました。一方、家計調査に基づく失業率は4.4%へと上昇し、前月の4.3%から0.1ポイント悪化。平均時給の伸びは前月比0.2%(前年比3.8%)と、市場予想の0.3%を下回り、前月の伸び(0.4%)から鈍化しました。
9月の失業者数は21.9万人増の760.3万人、雇用者数は25.1万人増の1億6364.5万人、労働力参加率は0.1ポイント上昇して62.4%となりました。U‑6失業率(不本意なパートタイム就業者等を含む広義の失業率)は8.0%と、前月の8.1%から低下しました。
主要指標(9月の米国雇用統計)
| 指標 | 結果 | 市場予想 | 前月/前回 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 非農業部門雇用者数(前月比) | +11.9万人 | 約5.1–5.5万人 | 前月2.2万人(改定値‐0.4万人) | 予想を大幅に上回る |
| 失業率 | 4.4% | 4.3% | 4.3% | 2021年10月以来の高水準 |
| 平均時給(前月比) | +0.2% | +0.3% | +0.4%(改定) | 賃金の伸び鈍化 |
| 平均時給(前年比) | +3.8% | +3.6–3.7% | +3.7%(改定3.8%) | 横ばい |
| 労働力参加率 | 62.4% | – | 62.3% | 0.1ポイント上昇 |
| U‑6失業率 | 8.0% | – | 8.1% | 前月比で低下 |
弁証法的分析
テーゼ(命題):労働市場は依然として堅調
- 雇用増加が予想を大幅に上回る。 非農業部門雇用者数は11.9万人増と市場予想を大きく上回り、政府の部分閉鎖による一時的な減速後に企業の採用意欲が戻ったとみられます。
- 労働力参加率の上昇。 労働力は9月に47万人増加し、参加率は62.4%へ改善。供給制約が緩和すれば雇用増加が失業率上昇につながりにくく、経済成長の持続に寄与します。
- 広義の失業率の低下。 U‑6失業率は8.1%から8.0%に低下し、不本意なパートタイム就業者の比率が減少。労働条件の改善を示すものです。
アンチテーゼ(反対命題):労働市場は弱含み、景気減速を示唆
- 失業率の上昇。 9月の失業率は4.4%と3カ月連続で上昇し、失業者数は21.9万人増加。人員削減や労働需要の減退が進んでいる可能性があります。
- 賃金の伸びが減速。 平均時給の前月比増加率は0.2%と前月の0.4%から半減し、市場予想も下回りました。賃金上昇の鈍化は労働需要の軟化を示すとともに、消費者の購買力にブレーキをかけます。
- 求人減少や企業の慎重姿勢。 別統計では求人件数や採用計画がピークから減少傾向にあり、堅調な雇用増加が一時的な要因による可能性があるとされています。
ジンテーゼ(総合):強さと弱さが同居した調整局面
両面からの分析を踏まえると、9月の雇用統計は「労働市場の調整局面」にあることを示しています。雇用者数は予想を上回ったものの、増加幅は過去数年の平均(20万人超)を下回ります。失業率の上昇は労働力参加率の改善による部分もありますが、求人減少や企業の慎重な採用姿勢が続けば失業率はさらに上昇し得ます。賃金の伸び鈍化はインフレ抑制に寄与する一方、消費の下押し要因ともなります。
こうした状況下で米連邦準備制度理事会(FRB)は、利上げ停止の継続や利下げ時期の検討に慎重な姿勢を取るとみられます。市場では12月の利下げ見送り観測が高まる一方、経済の過度な減速を避けるため、データに依存した政策運営が強調されるでしょう。
考察とまとめ
2025年9月の米国雇用統計は、非農業部門雇用者数が11.9万人増と予想を大きく上回ったものの、失業率が4.4%に上昇し賃金上昇が鈍化したという二面性を持つ結果となりました。労働力参加率の上昇やU‑6失業率の低下は労働市場の底堅さを示唆する一方、失業者数の増加や賃金の鈍化は景気減速の兆候でもあります。こうした矛盾した動向を通じて、米国経済は過熱から調整へと移行しており、持続可能な成長に向けた転換点にあると読み取れます。

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