VAT改革と価格高騰の狭間で揺れる中国の金需要


テーゼ(肯定命題):季節外れの強さが示す強固な需要

  • 2025年10月、ロンドン金価格(LBMA Gold Price PM)は前月比約4.9%、上海基準価格(SHAUPM)は5.5%上昇し、年初来でもそれぞれ40%以上の伸びを示しました。通常は需要が落ち込む時期にもかかわらず価格が堅調に上昇したことは、「金」への関心が非常に強いことを示しています。
  • 上海黄金取引所(SGE)からの金払い出し量は124トンに達し、前月比・前年同月比ともに増加しました。十年平均とほぼ同水準で、金価格の高騰や株式市場の軟調が投資需要を押し上げたと考えられます。
  • 中国の金ETFは10月に人民元建てで約320億元(約4.5億米ドル)増加し、保有量も月末に227トンのピークとなりました。安全資産への逃避需要と価格上昇が相乗効果を生み、ETFや先物取引への資金流入が顕著です。
  • 中国人民銀行は12か月連続で金準備を増加させ、10月には0.9トンを追加し、公的保有量は2,304トンを超えました。外貨準備に占める金の割合も8%まで上昇し、国家レベルで金の戦略的価値が高まっています。

これらの点から、地政学リスクの高まりや株式市場の不安定さが「安全資産としての金」の需要を押し上げ、季節性を上回る強さを生み出したと肯定的に評価できます。

アンチテーゼ(反命題):一時的な要因と構造的な制約

  • 10月中旬以降は中東などの地政学リスクがやや落ち着き、利益確定売りが入ったことで金価格は上昇幅を縮小しました。ETFの需要も月後半には弱含みとなり、投資家心理の変動の影響を受けやすいことが示されました。
  • 中国では最近の付加価値税(VAT)制度改革により、ジュエリー用金製品に対する税負担が重くなりました。価格に敏感な消費者は購入を控え、ジュエリー部門の需要には逆風となる可能性があります。小売業者は金価格の急騰に伴う在庫リスクを懸念し、補充に慎重となっています。
  • 金価格の急速な上昇は短期的な投機を誘発し、ボラティリティも大きくなっています。上海先物取引所の金先物取引量は10月に一日平均647トンと急増しましたが、これは価格変動の高さを反映しており、過度な投機が相場急落を招く可能性も考えられます。
  • 中国の金輸入は9月時点で93トンにとどまり、前年同月比では増加したものの歴史的には平均水準をやや下回ります。国内需給を補う輸入が本格的に回復しているわけではなく、一部の需要は価格上昇を背景に抑制されていると見ることもできます。

これらの点から、季節外れの強さは一時的な要因に支えられた可能性があり、税制変更や価格急騰による需要減退などの構造的な制約が今後の下押し圧力となる懸念があります。

ジンテーゼ(統合命題):短期のボラティリティと長期の構造的支援の共存

  • 短期的には地政学リスクや金融市場の不安定さによって金価格が急激に動き、ETFや先物などの投資需要が上下することが予想されます。また、中国の消費者はVAT負担増や高価格に対し敏感であり、ジュエリー需要はしばらく弱含むかもしれません。
  • 一方で、中央銀行の継続的な買い増しや金を準備資産として重視する動きは、長期的な下支え要因です。特に中国人民銀行が12か月連続で購入している点は、準備資産の多様化が進む兆候といえます。
  • 高価格にもかかわらず投資家の金保有意欲が衰えない背景には、インフレヘッジおよびリスク分散の必要性があります。中国本土でも金融商品の多様化が進んでおり、金ETFや金積立プラン(GAP)はVATの影響を受けず成長余地が残っています。
  • 今回の「季節外れの強さ」は単なる一過性ではなく、世界的な不確実性と構造的な需要が結びついた現象と捉えるのが妥当でしょう。ただし価格変動が大きい局面では利益確定や需要減少も起こりうるため、投資家は短期的な値動きと長期的なファンダメンタルズの両方を注視する必要があります。

要約

2025年10月の中国金市場は、通常は需要が落ち込む時期にもかかわらず金価格が約5%上昇し、卸需要・ETF流入ともに増加しました。これは米中対立や国内株式市場の弱さが安全資産としての金需要を押し上げたためで、中国人民銀行も12か月連続で金準備を増やし、外貨準備に占める金の比率を8%まで高めました。一方、VAT改革によるジュエリー需要の減退や価格急騰による利益確定売りもあり、10月後半には投資需要が鈍化しました。今後は短期的なボラティリティと長期的な構造要因(中央銀行の買い増し、インフレヘッジ需要)がせめぎ合う展開が予想され、投資家はそれぞれの要因を総合的に考慮する必要があります。

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