米連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)は2025年11月25日、米国のグローバル・システム上重要な銀行持ち株会社(GSIB)とその子銀行に適用する「補完的レバレッジ比率(SLR)」および「強化補完的レバレッジ比率(eSLR)」の計算方法を見直す最終規則を発表した。背景には、国債の清算仲介や保有といった低リスク資産を銀行が敬遠すると市場流動性が細り、短期的な資金繰りが難しくなるとの懸念があった。FRBは従来の一律2%のeSLRバッファを廃し、各銀行のリスクベース・サーチャージの半分(Method 1)を反映した個別の水準へ切り替え、子銀行に対しても従来6%だった水準を3.5〜4.5%程度まで引き下げる。
テーゼ(規制緩和の意義)
規制当局は、eSLRは本来リスクベース資本規制の「安全網」として機能すべきであり、銀行経営の制約となるべきではないと説明する。国債など低リスク資産の保有・仲介が不足すると、3月のシリコンバレー銀行破綻のようなストレス局面で市場流動性が枯渇し、国債利回りの急上昇や金融システム不安につながる。必要な資本水準をリスクに応じて引き下げれば、銀行は長期国債やレポ取引への参加を増やし、FRBや財務省の市場介入が不要になると期待される。FRBはまた、子銀行のレバレッジ規制を緩めても持ち株会社にはリスクベースの規制やストレス資本バッファが残っており、総資本の減少は2%未満にとどまると試算している。したがって、自由度が高まっても配当や自社株買いに振り向ける余地はほとんどなく、目的は専ら市場機能の改善にあると強調している。
アンチテーゼ(規制緩和への批判)
一方、内部でも反対票を投じた理事や議員は、緩和が銀行の資本クッションを大幅に削り、金融安定に新たなリスクをもたらすと批判している。今回の見直しにより、GSIBの子銀行のティア1資本要件は平均27%減り、全体で2,100億ドル超の資本が不要になるとの試算もある。規制当局は配当増は制約されると説明するが、銀行はリスク加重資産を圧縮することで実質的な資本余力を配当や買い戻しに使う可能性がある。また、国債取引の多くは証券会社部門で行われるため、銀行部門の資本を減らしても流動性の改善は限定的という指摘もある。シリコンバレー銀行のように親会社から十分な支援を受けられず破綻した例もあり、「持ち株会社が資本不足の子銀行を支える」という前提自体が疑問視される。さらに、この緩和はトランプ政権による規制緩和路線の一環と受け止められ、世界金融危機後に築いた防波堤を削るべきではないとの声が多い。
総合(バランスの取れた見方)
弁証法的に見ると、eSLR緩和には長所と短所が共存する。低リスク資産の仲介を促し、市場の流動性を高めるという目的は合理的であり、パンデミック時に国債市場が機能不全に陥ったことを踏まえれば、規制の見直しは必要だろう。しかし、過剰な緩和は銀行経営者に資本規律を緩めるシグナルを送りかねず、金融システムの脆弱性を高める危険性も否定できない。リスクベース資本規制と補完的レバレッジ規制を総合的に再設計し、銀行が低リスク活動に必要な資本を確保しつつ、配当やリスクテイクを適切に抑制する枠組みを構築することが求められる。ベースルール(バーゼルIII最終案)の完全実施と連動した慎重な調整や、ストレステスト結果の透明化によるモニタリング強化も不可欠である。
要約
米規制当局は2025年11月25日に発表した最終規則で、巨大銀行に適用する強化補完的レバレッジ比率(eSLR)を緩和し、国債市場の流動性を改善することを目指している。これにより持ち株会社のレバレッジ比率は3.5〜4.5%程度に引き下げられ、子銀行の資本要件も緩和される。規制当局は市場安定のための措置であり、全体資本の減少は軽微と説明するが、批判者は資本削減によるリスク増大や配当拡大を懸念し、効果にも疑問を呈している。安全性と市場機能のバランスを取った規制の再設計が今後の課題となる。

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