賃貸経営における消費税



個人向けにアパートや戸建てを貸している場合、課税事業者の届出を出して消費税の還付を受けた方が得ですか?


賃貸住宅の家賃や共益費、礼金・敷金は消費税が非課税なので、入居者から消費税を預かることはありません。一方で建物の建築費や修繕費、管理委託料には消費税を払っています。消費税は「預かった消費税−支払った消費税」で精算する仕組みですが、還付は課税売上があることが前提で、非課税売上しかない場合は支払消費税の控除や還付が難しいです。2020年10月の税制改正で居住用建物の取得に係る消費税還付が原則できなくなったことも踏まえ、課税事業者になるメリットとデメリットを整理しましょう。


課税事業者になった方が得という立場


どういう場合に課税事業者になると有利ですか?

  • 過去には還付スキームがあった
     以前は自動販売機を置いて課税売上割合を引き上げるなどの方法(一括比例配分方式)で建物取得時の消費税還付を受けられた事例がありました。課税事業者になれば建物の建築費や購入費の消費税を支払消費税として計上し、課税売上が少なくても還付されるケースがあったのです。
  • 課税売上がある場合は還付・控除の可能性
     アパート経営と併せてオフィスや店舗、駐車場、コインランドリー、ウィークリーマンションなど課税売上を行っている場合は、課税売上に対応した経費の消費税を控除できます。課税売上と非課税売上の比率で按分する方法や個別対応方式を用いることで建物取得以外の経費に含まれる消費税を控除でき、損失が出た年や輸出免税取引がある場合には還付も受けられます。
  • 小規模な居住用建物では控除余地が残る
     2020年の改正では取得価額が税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物の消費税控除が否定されました。裏を返せば1,000万円未満の中古区分マンション等や仲介手数料、修繕費に含まれる消費税は課税仕入れとして控除対象となります。また取得後3年以内に店舗へ用途変更したり、建物を譲渡したりする場合は調整計算により控除を受けられる場合もあり、こうしたケースでは事前に課税事業者でなければなりません。
  • インボイス制度への対応
     2023年10月から適格請求書(インボイス)制度が始まり、課税事業者しかインボイスを発行できません。将来短期賃貸や店舗賃貸など課税売上を行う可能性があるなら、早めに課税事業者として登録しておくことで取引先への対応がスムーズになる利点があります。

課税事業者になる必要はないという立場


逆に、課税事業者になると不利な点は何ですか?

  • 家賃収入が非課税である限り還付は原則不可能
     消費税は課税売上に対応した仕入れ等にかかる税額のみ控除できます。居住用家賃や礼金・敷金は非課税売上のため、受け取る消費税がなく支払消費税を差し引ける対象も存在しません。課税事業者になっても預かり消費税が発生しないので還付額はゼロです。
  • 2020年改正で居住用建物の還付が封じられた
     2020年10月以降、税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物の取得に係る消費税は仕入税額控除の対象外と明確にされました。居住用マンションや住宅の建物部分に関する消費税は控除できないため、過去に存在した還付スキームは封じ込められています。
  • 課税事業者になると負担やリスクが増える
     課税事業者には毎年の消費税申告義務があり、課税売上がほとんどなくても駐車場収入や将来の事業用賃貸など予期せぬ課税取引が生じれば10%分の納税義務が発生します。簡易課税制度を選択しても還付は受けられません。また帳簿や請求書の管理、インボイス対応のシステム改修などの負担が増えます。
  • 控除対象の経費は限定的
     建物本体の消費税は控除不可ですが、仲介手数料や修繕費など付随費用に含まれる消費税は控除対象です。しかし課税売上がない場合は控除しても還付は発生せず翌期へ繰り越されるだけで、修繕費が税抜1,000万円以上となる資本的支出の場合にはそもそも控除できません。このため課税事業者になるメリットはごくわずか、あるいは実質的に無い場合が多いです。

合(総合的な考察)


総合的にはどのように判断すれば良いでしょうか?


弁証法的に正反両面を踏まえ、次のポイントを総合的に検討することが重要です。

  1. 賃貸収入の性質
     借主が個人で居住用として借りている場合、賃料は非課税売上であり、課税事業者になっても建物本体の消費税還付は受けられません。反対に、オフィスや店舗、駐車場、コインランドリー、ウィークリーマンションなど課税売上がある場合は、その部分に対応する経費の消費税を控除できます。複合用途の物件では課税売上割合を計算して按分控除することが可能です。
  2. 取得する不動産の規模・用途
     居住用賃貸建物の取得価額が税抜1,000万円未満であれば建物部分の消費税も控除対象となるケースがありますが、中古区分マンションなど限られた例に過ぎません。将来的に店舗に用途変更する予定があるなら、調整計算により控除を受けられる可能性があります。
  3. 他の事業の有無
     所有者が別に課税売上(輸出、物販、駐車場経営等)を行っている場合、課税事業者となることで全体の消費税計算上メリットが出ることがあります。しかし賃貸業のみで非課税売上しかない場合は、課税事業者への変更による恩恵はほぼありません。
  4. 経理負担とリスク
     課税事業者はインボイス発行や消費税申告の手間が増え、高額設備を取得した際に免税点制度が適用されず納税義務が生じるリスクもあります。将来物件の用途を変更したり売却する予定がない限り、免税事業者のままの方が手間やリスクは少ないでしょう。
  5. インボイス制度への対応
     今後短期賃貸や事務所貸しなど課税売上を行う予定があるなら、取引先からインボイスを要求されるため課税事業者として登録するメリットがあります。現状の収入が住宅家賃だけであれば急いで登録する必要はありません。

まとめと結論

居住用の家賃収入は消費税が非課税で、賃料を受け取っても消費税を預からないため、課税事業者になっても支払った消費税の還付は原則できません。2020年10月以降、税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物の取得に係る消費税は制度上控除・還付が封じられています。仲介手数料や修繕費などに含まれる消費税は控除対象ですが、課税売上が無い場合は還付されません。

したがって、家賃収入しかない個人オーナーが課税事業者になるメリットは乏しく、免税事業者のままとするのが合理的です。一方、他に課税売上がある場合や、規模の小さい不動産取得、将来用途変更を予定している場合には課税事業者選択のメリットが出ることもあります。このような特殊ケースでは税理士に相談し、課税事業者選択のタイミングを検討するのが望ましいでしょう。

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