2年で陳腐化、6年で償却?AI産業を揺るがす減価償却問題


1. テーゼ(問題提起:過少償却の疑惑)

  • 資産の償却期間延長による利益水増し
    投資家マイケル・バーリ氏は2025年11月のSNS投稿で、GPUの耐用年数を人為的に延長することで減価償却費を過少計上し、利益を嵩上げするのは「現代における最も一般的な不正行為の一つ」だと指摘しました。彼は、Nvidia製チップの製品サイクルが2~3年なのに企業が償却期間を延ばしているのはおかしいと主張しています。
  • データセンターの償却期間は急拡大
    巨大テック企業は2020年頃まで3~4年で減価償却していたGPUやネットワーク設備を、2023年以降は6年程度に延長している例が多い。Metaは2020年に3年だった減価償却期間を2025年には5.5年へと伸ばし、GoogleやMicrosoftは3年から6年へと倍増させた。
  • 急速な陳腐化との乖離
    Tom’s Hardwareは、AIファクトリーにおけるGPUの更新サイクルが年次になりつつあり、従来の3~5年では遅すぎると報じています。生成AI競争で次世代GPUが50%の性能向上や30%の効率改善をもたらすことから、1世代遅れただけで競争力を失い、旧世代GPUが売れなくなるリスクがある。バーリ氏も「最新世代のAIチップは12~18か月ごとに登場するため、5~6年で償却するのは現実的でない」と批判し、実際のサーバー寿命は2~3年だと推定しています。
  • 投資家とアナリストの警告
    フォーチュン誌によれば、こうした会計処理の変更がなければ企業の利益は劇的に低くなるという指摘があり、エコノミスト誌は減価償却期間が3年の場合は年間税引前利益が260億ドル減少する可能性があると試算しています。また、AIインフラに1兆ドル規模を投じる計画がある中で償却費の過少計上額は2026〜2028年に合計1760億ドル(約26兆円)に達するとの試算も紹介されています。

2. アンチテーゼ(反論:延長は合理的か?)

  • 古いGPUも稼働し続けている
    AIクラウド専業のCoreWeaveのマイケル・イントレイターCEOは、CNBCのインタビューで「2020年に発売されたA100チップは今でも予約で埋まっており、2022年発売のH100チップは賃貸価格が当初の95%水準を維持している」と述べ、6年の償却期間を擁護しています。この発言は、古いチップが想定より長く価値を保っていることを示す。
  • 技術とソフトウェアの価値
    NvidiaはCUDAなどのソフトウェアエコシステムを提供しており、これがハードウェア寿命を延ばす可能性があると経営陣は指摘します。テックバズの記事でも、ハードウェアの耐用年数が実際には企業ごとに2〜6年と幅広く、具体的な正解がないと述べられています。
    また、Amazonは技術進歩の速さを理由に2025年にサーバー寿命を6年から5年に短縮しましたが、Microsoftのサティア・ナデラCEOは「4~5年分の償却を背負わないようにチップ購入を分散している」と語っており、企業が柔軟に投資管理を行っていることが伺えます。
  • 市場の反論
    一部のアナリストは、AI銘柄の売りは減価償却問題よりもマクロ要因に起因するとし、半導体需要は依然として強いと指摘しています。CoreWeave CEOの発言も、現実には古いチップがまだ稼働し、収益を生んでいることを示し、償却期間延長が即座に不正とは言えないという反論材料になっています。

3. ジンテーゼ(統合的見解:問題の核心と展望)

  • 耐用年数の不確実性
    現在のAIブームは歴史が浅く、データセンター用GPUは2018年以降に本格的に普及し始めたばかりで、実際の寿命データが十分存在しない。そのため、各社の償却期間設定には幅があり、会計基準上許容されている。だが、Nvidiaが年次で新チップを投入し、旧世代の価値が急速に下がる状況では、会計上の耐用年数が実態と乖離するリスクは確かに存在する。
  • 会計透明性と投資リスク管理の必要性
    GPUの価値は単純な物理的寿命だけでなく、技術革新や用途転換(推論・開発向け等)、電力コスト、アルゴリズム進歩など多様な要素で決まる。企業は償却期間の設定根拠を明確にし、投資家も設備投資額だけでなくキャッシュフローや減損リスクを厳しく評価する必要がある。
    会計的には、過大な償却期間設定が将来の減損損失を生み「ドカン」と損益を悪化させるリスクを孕む一方、短く設定しすぎると過度な費用計上で競争力を削ぐ可能性もある。第三者機関による監査・開示や、投資家・規制当局の監視強化が重要となる。
  • バブル崩壊説への冷静な対処
    AIインフラ投資は電力インフラやサプライチェーン整備など社会的投資も含む大規模プロジェクトであり、短期の調整はあり得ても産業構造が崩壊するとは限らない。古いGPUの再利用(推論モデルへの転用など)や中古市場の形成、ハイブリッドクラウドによる需給調整などが行われれば、損失の大きさは緩和されうる。投資家は過度な楽観も悲観も避け、技術進化のスピードと会計処理の妥当性を注視しながら長期的な視点で判断すべきである。

主なハイパースケーラーのGPU減価償却期間(参考)

企業2020年2023年2025年情報源
Meta3年4.5年5.5年各社のSEC提出書類
Google3年6年6年同上
Microsoft3年6年6年同上
Amazon4年5年5〜6年同上
Oracle5年5年6年同上

要約

AIデータセンター企業がNvidiaのGPUを減価償却する期間を3〜4年から5〜6年に延ばし、利益を過大に見せているのではないかという疑惑が浮上している。投資家マイケル・バーリ氏は、GPUの実際の経済寿命は2〜3年であり、償却期間の延長は会計上の不正だと警告し、各社の償却期間が大幅に伸びたデータが示された。急速な技術進歩により旧世代GPUの競争力は早期に失われるとの指摘もある。一方で、CoreWeave CEOは古いA100チップが依然としてフル稼働しており、H100チップのレンタル価格も95%を維持していると述べ、6年償却を正当化した。実際の耐用年数に関するデータは乏しく、各社は2〜6年の間でバラついた償却期間を採用している。AIバブル崩壊論と会計疑惑の結論はまだ出ておらず、投資家は設備投資の規模、技術革新の速度、会計の透明性を総合的に評価する必要がある。

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