全体状況
- ベッセント財務長官の立場 — 2024~25年にかけて、米国の金融政策は利上げから利下げ局面に転じた。ベッセント財務長官は市場番組で、パウエル議長の後任候補を5人に絞り込んだこと、感謝祭後に大統領へ提出し12月中に決まる見通しを明言した。彼自身は候補から外れており、補佐役として人選を主導している。またトランプ大統領は会合で「あなたが次期議長に良いのだが、やりたがらないらしい」と揶揄し、ベッセント氏も財務長官の方が良いと応じていると報じられている。
- 後任候補 — 候補者はミシェル・ボウマン(Fed副議長)、ケビン・ハセット(国家経済会議ディレクター)、リック・リーダー(ブラックロック債券最高投資責任者)、クリストファー・ウォラー(Fed理事)、ケビン・ウォーシュ(元理事)である。ベッセント氏はこれら候補者を「前向きで規制に固執しない人物」と評価している。
- 市場の織り込み — 政策金利は現在3.75~4.00%に低下しており、2年債利回りは11月21日時点で3.51%、市場参加者はさらに数回の利下げを見込んでいるが、RBCキャピタル・マーケッツによると来年末の政策金利予想は3.0%程度にとどまり、2026年末のコンセンサスレンジは2.25~4.00%と幅広い。モーニングスターが引用する先物市場では2026年に2.75%が示唆されているが予測の確度は低い。
1. テーゼ(ベッセント氏の主張)
- 迅速な利下げ要求 — ベッセント氏は番組で、Fedがデータ不足を理由に利下げを渋るなら「保険として利下げするべきだ」と述べ、12月FOMCでも利下げを祈っていると語った(元記事より)。
- 新議長による緩和的政策 — トランプ政権は現議長パウエル氏を「利下げに動かない」と批判し、後任候補にはボウマンやウォラーといった利下げ派を含めた。ベッセント氏は規制に積極的でなく、前向きな政策を重視する人物を探している。
- 市場の織り込みを先取り — 2年債利回り(約3.5%)は既に複数回の利下げを織り込み、先物市場は来年末に政策金利が2.75~3.0%へ下がると見込んでいる。ベッセント氏はこれを踏まえ、さらに緩和的な政策を志向する新議長が選ばれることを示唆する。
2. アンチテーゼ(反対意見や問題点)
- インフレとデータ不足への懸念 — パウエル議長は10月会見で「12月の追加利下げは決定事項ではない」と述べ、Fed内には利下げに慎重な「タカ派」が存在する。RBCによれば12月利下げの確率は70%未満に低下し、2026年以降の大幅な利下げを予想する向きは減っている。
- 候補者の多様なスタンス — ウォラーやボウマンは早期の利下げを求めるが、ウォーシュは過去の金融緩和策を激しく批判し、インフレ抑制を重視している。ハセットはインフレ減速を理由に慎重な姿勢であり、リーダーは債券市場の変調を意識しているなど、必ずしも全員が強力な緩和派ではない。
- 市場期待の限界 — FOMCメンバーや市場の予想では、政策金利は来年3%前後までしか下がらないとの見方が強く、2.75%への大幅な低下は確定的ではない。先物市場の予測も信頼性に限界があり、モーニングスター調査でも「先物市場は過去の緩和局面で利下げ幅を過小評価した」と警告している。
3. ジンテーゼ(統合的評価)
- 緩和志向と慎重姿勢の折衷 — ベッセント氏は急速な利下げを望むが、インフレや経済指標の不確実性を考慮する声も強い。新議長が就任する2026年5月までに、政策金利はおそらく3%付近まで下がるが、景気や物価次第でそれ以上の緩和は抑制される可能性が高い。
- 新議長の資質 — 候補者5人は異なるバックグラウンドを持ち、Fed出身のウォラーやボウマンは内外の信頼を保つ一方、リーダーやウォーシュのような金融業界出身者は金融市場へのパイプを強みとする。ベッセント氏は「規制にこだわらず前向きな人材」を求めており、最終的に採用される人物は利下げに柔軟でありつつ独立性を保てるバランス型になるだろう。
- 政策の帰結 — 2年債利回りや先物市場はすでに複数回の利下げを織り込んでいる。新議長が予想以上に緩和的なら金利はさらに低下し株価は上昇、ドルは下落しやすくなるが、インフレが再燃すれば利下げ余地は限定される。
候補者の位置づけ(簡易表)
| 候補者 | 現職・出身 | 主な立場/特徴 |
|---|---|---|
| ミシェル・ボウマン | Fed副議長・監督担当 | 早期利下げに賛成し、7月会合で最初に反対票を投じた |
| ケビン・ハセット | 国家経済会議(NEC)ディレクター | インフレ減速を理由に緩和余地を指摘するが慎重 |
| リック・リーダー | ブラックロック債券CIO | 緩和を人々に恩恵をもたらすとし候補指名を名誉と述べる |
| クリストファー・ウォラー | Fed理事 | 利下げ派だが独立性を重視し、自らが適任とアピール |
| ケビン・ウォーシュ | 元Fed理事 | Fedのインフレ予測失敗を批判し、規律ある政策を主張 |
要約
ベッセント財務長官は、来年5月に任期が切れるパウエル議長の後任を5人に絞り、12月中にトランプ大統領が最終決定すると明言した。自身は候補から外れたものの、Fedの利下げを「保険」として早期に実施すべきだと主張し、新議長にも緩和的スタンスを求めている。候補者にはボウマンやウォラーなどの現職理事と、ハセット、リーダー、ウォーシュといった外部出身者が含まれる。一方、パウエル議長やFed内のタカ派はインフレやデータ不足を理由に慎重で、12月以降の大幅な利下げには懐疑的である。市場では既に複数回の利下げが織り込まれているが、将来の政策は景気と物価の動向次第であり、次期議長には緩和と物価安定の両立が求められる。

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