中国の“隠れた金戦略”:脱ドル化と世界金市場を揺るがす真の買い手


1. テーゼ(主張)

  1. 中国は公式統計以上の金を積極的に買い増している
    • 国際的な投資銀行や専門家の分析によれば、中国人民銀行(PBOC)の金購入は公式発表よりも大幅に多い可能性が高く、真の備蓄は公式発表の2倍以上(5,000トン超)との推計もある。例えば英政府機関のデータを基にした推計では、2022年半ば以降に1,080トン以上の金を蓄積しており、月平均約33トンペースで買い増ししている。
    • ロシアへの経済制裁で外貨準備が凍結された事例や、米ドル資産の没収リスクへの懸念が高まったことから、米ドル依存を減らし地政学的リスクに備える動きが世界中の中央銀行で強まった。中国も同様に外貨準備のポートフォリオを再構成し、金への投資を「安全資産」「制裁回避の手段」と位置付けている。
    • 世界の中央銀行が2025年に買い増した金量は公式ベースでも220トンに達し、中国は11カ月連続で金準備の増加を報告しており、399トンを積み増した。しかし、「公式」と付く数字は控えめに見えるため、実際の購入量はさらに多い可能性がある。
  2. 価格高騰の原因としての“隠れ買い”
    • 2025年の金相場は史上最高水準に達し、10月には4,380ドル/オンスまで上昇した。アナリストらは、この急騰の背景に中国などによる大量購入があり、市場に表れない需要が価格を押し上げていると指摘している。
    • 中国が公式統計を上回る量を長期的かつゆるやかなペースで買い増していることで、市場の過熱を防ぎつつ、米国に刺激を与えない慎重な戦略をとっているという見方もある。

2. アンチテーゼ(反論)

  1. 公式統計は小幅な増加にとどまり、最近は輸入量も減少
    • 2024~2025年にかけて、中国が報告した金購入量は21トン程度にすぎず、前年の44トンや2023年の225トンと比べて大幅に減速した。
    • Bloomberg や Glasp のハイライトによると、2025年には中国の金輸入量が急減し、前年同期比で60%減の58.9トンと約3分の1に落ち込んでいる。これは高騰する金価格や国内の不動産不況、消費減退が原因であり、金需要が本質的に弱まっている可能性を示す。
    • この輸入減は、金の“隠れ買い”が進んでいる証拠ではなく、むしろ金需要の減少と経済低迷を反映しているとみる向きもある。新興国が金を保有する理由は多様であり、輸入統計をもとに「10倍の隠れ買い」を断定するのは推測にすぎない。
  2. 保管コストや市場影響への懸念
    • 5,000トン以上の金を保有するには膨大な保管コストや輸送リスクが伴い、中国経済にとって効率が悪いとの指摘もある。
    • 金は無利息資産であり、過度に偏重するとポートフォリオ全体のリターンが低下する恐れがある。また、世界の金市場は脆弱で、数百トン単位の取引でも価格が急騰するため、中国が公表しないほど大量に買い進めているとすれば、市場に歪みを生じかねない。

3. ジンテーゼ(総合)

  • 複数の動機と不透明性
    • 中国の金戦略には、米ドル資産依存度を減らす“安全保障”の側面と、国内外へのメッセージとして金を“国家の信用”の象徴にする意図が含まれる。そのため、中国は公式データとは別に、政府系ファンドや軍関連機関などを通じて金を保有している可能性が高いと考えられる。
    • 一方で、金の急激な価格上昇や国内経済の減速が需要を抑える要因となっているため、中国の金購入が常に増加しているとは限らない。輸入統計の急減は、金価格の高騰や消費不況に敏感なジュエリー需要の低迷を反映している。
    • 中国は過去にも2003~2009年にかけて金保有量をこっそり増やしており、その後公式に発表して市場を驚かせた経緯がある。したがって、現在も公表されている数字以上の購入を進めていると考えるのは不自然ではないが、具体的な規模は推測の域を出ない
    • 最後に、世界の中央銀行が続々と金を買い増していることは事実であり、金市場の底堅さを支えている。しかし、中国の“秘密の金戦略”に過度に依存する情報は慎重に吟味すべきであり、公式データ、輸入統計、専門家分析を総合して判断する必要がある。

◆要約

  • 中国人民銀行が公式に公表する金購入量は数トン単位だが、海外のアナリストらは実際の購入がその10倍規模に達し、備蓄総量が5,000トン超に及ぶ可能性があると指摘している。
  • 秘密裏の積み増しは米ドル資産への依存を減らし、制裁や地政学的リスクに備える「脱ドル化」戦略の一部とされている。
  • 他方で、中国の公式統計では2025年の追加購入は21トン程度であり、同年の金輸入量は前年より60%も減少した。
  • 金価格の高騰と国内の不動産不況により、ジュエリー需要が落ち込み、金輸入量が減少していることも事実で、隠れ買いが実際にどの程度行われているかは不透明である。
  • 中央銀行の金保有率の世界平均が約22%に対し、中国は7~8%と少ないため、長期的にはさらなる積み増しが見込まれるものの、保有増が市場を過熱させないよう慎重に進めている。
  • 結論として、中国が公式統計以上の金を保有している可能性は高いが、具体的な規模は推測の域を出ず、金市場動向を見る際は公式データと輸入統計の双方を踏まえ、長期的なトレンドと短期的な需給の両面を考慮すべきである。

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