米国の日本占領計画とトランプ政権の政策


問題の所在

第二次世界大戦中、米国が真珠湾攻撃直後から日本の戦後統治を検討したという見方がある。これを踏まえ、2025年のトランプ政権が強硬な関税政策で市場に混乱をもたらしながらも、中東での人工知能(AI)を巡る巨額の取引によって株式市場を回復させる準備をしていたのではないか、とする仮説について考えたい。

正(命題)―早期計画が株価回復策を示唆するという主張

日本占領の早期計画

  • アドバイザリー委員会の設置
    国務省のレオ・パスヴォルスキーと評議会(CFR)のノーマン・デイヴィスは1941年9月12日のメモで戦後外交問題諮問委員会(Advisory Committee on Postwar Foreign Policy, ACPFP)を提案し、同日フランクリン・D・ルーズベルト大統領が14名で構成される委員会を承認した。メンバーの多くは国務省職員とCFR関係者であり、CFRの研究者が委員会のサブグループにも参加した。この委員会は1941〜42年に複数の小委員会を設置し、対日政策を含む戦後構想を検討した。
  • シンクタンクとの連携
    委員会は民間シンクタンクとの緊密な連携を重視し、CFR側の研究秘書が国務省の会議に出席する仕組みを設けた。この「政・研」連携により、政府と民間ネットワークが占領政策を練り上げる体制が整えられた。

以上から、米政府が真珠湾攻撃から間もない1941年末〜1942年初に日本の処遇を含む戦後計画に着手したことは確かである。しかし、これが「占領細部の全面設計」まで含むかは別問題であり、実際の占領政策は1945年に至るまで何度も修正された。

トランプ政権の政策と株式市場

  • 関税ショックと市場暴落
    2025年3月、トランプ政権がカナダ・メキシコ・中国に対して追加関税を課すと発表すると、投資家は景気後退を懸念して株を売り込み、米国株式市場は4兆ドルの価値を失った。
  • 関税緩和と市場急反発
    翌4月9日、トランプ大統領は多くの国に対して90日間の関税停止を発表した。この発表を受けてS&P500はほぼ10%上昇し、ナスダックは12%、ダウ工業株平均は約3,000ポイント上昇するなど、主要指数は史上最大級の値上がりとなった。
  • AI巨大契約と投資の呼び込み
    2025年5月にトランプ大統領はサウジアラビア、カタール、UAEを歴訪し、UAEでは計2000億ドル超の取引を発表した。米商務省は「米国・UAE AI加速パートナーシップ」を設け、5ギガワット規模のAIキャンパスを建設すると発表。これによりUAEは米国の高度AIチップの輸入拡大が認められ、米企業が管理するデータセンター整備など強力な安全対策が盛り込まれた。UAEは今後10年間で米国に1.4兆ドルを投資する意向を示し、ボーイング機やエネルギー投資など複数の契約が締結された。市場関係者はこの巨額投資が米国内景気を支えると見て株価上昇の一因と分析する。

こうした事実から、トランプ政権が強硬な関税で市場を揺さぶった後、湾岸諸国とのAI・エネルギー取引で米国への投資を呼び込み、市場心理を改善させたとの主張には一定の根拠があると言える。

反(反証)―状況の違いと単純な類比の危険性

計画の深度と目的の違い

  • 戦時の総力計画と現代の一時的取引
    1941〜42年に設置されたACPFPは世界秩序の再編を視野に入れた長期的な政策策定機関であり、日本の降伏後の支配構造や民主化方針を含む総合的な政策を検討した。一方、トランプ政権のAI取引は主として民間企業への投資とチップ輸出を拡大する経済取引であり、直近の株価浮揚を目的にしたと断定できる証拠はない。UAEとのAIキャンパス計画も、実際にはデータセンターの安全性や技術拡散をめぐる懸念から締結が遅れており、米国側は輸出管理や中国への技術流出を懸念して慎重な審査を続けている。
  • 政策決定過程の透明性と即興性
    ACPFPは官民の専門家が関与する公式委員会であり、その議論や文書は1940年代から現在まで公文書として残っている。対して、トランプ政権の関税方針やAI取引はしばしば側近の狭いグループ内で決定され、方針転換も唐突である。例えば3月の関税引き上げは事前の詳細な準備や連邦議会との調整が不足していたとの批判があり、株式市場の急落を招いた。
  • 経済効果と安全保障リスク
    U.S.-UAEのAIキャンパス計画は安全保障面で懸念が大きい。UAEが中国企業との関係を継続していることや、データセンターの管理に中国製5G機器が使用される恐れが米政府内で問題視されており、輸出許可の条件や中国人技術者の雇用制限などをめぐって合意が難航している。また、AIチップ輸出規制(AI拡散ルール)を緩和して中東諸国に大量のチップを供給する政策は米国の技術的優位を危険にさらす可能性があると警告されている。このような批判を踏まえると、AI取引が単純に株価対策として計画されたとは言いがたい。

市場動向は多因子的

株式市場の回復はAI取引だけでなく複数の要因が絡む。4月9日の株式急騰は関税停止のニュースに加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ示唆やインフレ率低下などのマクロ経済指標も寄与していると指摘される。為替や世界経済の回復期待もあり、政策発表が市場動向に与える影響を単独で特定するのは難しい。

合(総合)―長期的視野と短期的政治アクションの違いを踏まえた評価

以上の考察から、真珠湾直後の米国政府とトランプ政権の政策を単純に比較するのは適切ではない。戦後日本統治の計画は長期的な戦略に基づき、官民の専門家が体系的に策定した。一方で、トランプ政権の関税政策やAI取引は、短期的な政治的判断や国内外のパワーバランスを背景にしており、計画性の程度や目的も異なる。

とはいえ、市場に対する影響を考慮した「戦略的布石」という点では共通点がある。トランプ政権が関税政策のショックを緩和するためにUAEやサウジアラビアからの大規模投資を取り付け、AI・エネルギー分野の協力を通じて長期的な経済効果を狙った可能性は否定できない。これは外交と経済を組み合わせて自国の経済基盤を強化する「経済国家戦略」の一環とみることもできる。

要約

  • 米国は1941年9月に戦後外交問題諮問委員会(ACPFP)を設立し、1942年初頭から日本の処遇を含む戦後計画を検討した。この委員会にはCFRの研究者も参加し、官民のネットワークを通じて政策研究が行われた。
  • 2025年3月、トランプ政権は広範な関税引き上げを発表し、米国株式市場は4兆ドルの損失を出した。しかし4月9日に関税の90日停止を決めると、ダウ平均は約3,000ポイント、S&P500は約10%上昇するなど、株式市場は急反発した。
  • 5月に行われた中東歴訪では、トランプ大統領がUAEに対し2000億ドル超の取引をまとめ、AI加速パートナーシップや5GW規模のAIキャンパス建設、高度AIチップ輸入に関する合意を発表した。UAEは今後10年で米国に1.4兆ドルを投資する計画を示し、エネルギーや航空機購入など複数の案件が含まれている。
  • ただし、このAIキャンパス計画は安全保障上の懸念から合意が難航しており、輸出管理や中国への技術流出をめぐって米政府内で反対意見がある。米国がAIチップ拡散規制を緩和して中東に技術を提供する戦略についても、中国への流出リスクが指摘されている。
  • 以上を踏まえると、米国が真珠湾攻撃直後から日本の戦後統治を準備したことと、トランプ政権が関税ショック後にAI取引で株価浮揚を狙った可能性を直接比較するのは適切ではない。後者は政策決定の透明性や長期的視野が不足しており、AI計画にも安全保障上の課題が残る。しかし、経済・外交政策を連動させる点で一定の共通性があり、現代の政策分析ではこの相違点と類似点を両方考慮する必要がある。

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