AI相場と流動性の罠


テーゼ:米国株はバブルであり、含み益は虚構である

  • 価値の根拠があいまい
    株式の時価総額は「最新の取引価格 × 発行株数」で計算される。この価格はごく少量の取引を基準にしているため、すべての株主が同じ価格で保有株式を売却できるわけではない。時価総額は企業の本当の資産価値を示すものではなく、株価が上がるにつれて「紙の富」が膨らんでいるだけである。
  • 資産価格を押し上げる環境
    レイ・ダリオ氏は2025年11月に、現在の金融環境について「資産価格は高値を更新し、クレジットや流動性は潤沢で、クレジットスプレッドは記録的な低水準だ」と述べた。金融緩和が続く中、中央銀行の債券買い入れが実質金利を押し下げ、余剰流動性が金融資産に向かうことで“金融資産のインフレ”が進んでいる。
  • バブルは一部の取引に支えられた幻想
    未公開企業の資金調達例に見られるように、わずか数%の株式が高値で取引されただけで時価総額が膨らみ、創業者が「億万長者」になったように見える。公開株も同じで、少数の取引価格を基準に株価が決まるため、実際には存在しない富が生み出される。市場全体がこのような含み益で膨らんでいる場合、投資家が現金化に動くと価格は急落する可能性が高い。

アンチテーゼ:高値は投資家の期待を反映しており、すぐに崩壊するとは限らない

  • 市場は期待を織り込む
    時価総額は企業の本質的価値を直接示さないが、投資家が将来の成長や利益をどう評価しているかを反映している。AI関連企業のように、革新的な技術が将来の収益を大きく押し上げると予想される場合、現在の高いバリュエーションは期待に基づいた評価とも言える。
  • 流動性の高さがパニックを防ぐ
    米国株式市場は規模が大きく、市場参加者も多い。ダリオ氏自身、CNBCのインタビューで「バブルがあるからといってすぐに売る必要はない」と述べ、バブルが崩壊するには引き金となるイベントが必要だと指摘している。彼は利上げよりも増税などの政策が引き金になる可能性を挙げ、投資家には金など安全資産を含む分散投資を勧めている。これは、現在の高値でも流動性が続く限り直ちに崩壊するとは限らないことを示唆している。
  • 政策がリスクプレミアムを抑制
    ダリオ氏は、中央銀行の量的緩和が債券買い入れを通じて実質金利を下げ、リスクプレミアムを圧縮し、株価収益率(P/E)を押し上げていると指摘する。これにより長期資産(AI関連株や成長株)やインフレヘッジ資産(ゴールドなど)のバリュエーションが高くなる。つまり現在の高値は政策や流動性による合理的帰結とも捉えられ、必ずしも“虚構”とは言えない。

ジンテーゼ:バブル論の両面を理解し、リスクを管理する

  • 市場価格と実体価値のギャップを認識する
    株価が少数の取引で決まり、多数の投資家が同じ価格で売却できないという点は、バブルの危うさを示している。一方で、市場は将来の成長を織り込むため、ある程度の高値は合理的な評価でもある。投資家は、時価総額が企業の実質価値と一致しないことや、株価が流動性や政策に影響されやすいことを理解する必要がある。
  • 政策と引き金を注視しながら分散とヘッジを
    ダリオ氏が述べるように、政策の緩和が続く限りバブルは膨張する可能性があるが、引き締めや増税などの引き金によって含み益が消えるリスクもある。したがって、投資家はリターンの低下に備えてポートフォリオを分散し、金などの安全資産を組み合わせてバブル崩壊時の損失を抑えることが重要である。

要約

  • 市場の時価総額は最新の取引価格を基準に算出されるが、これは企業の本当の価値を示すものではなく、少数の取引に基づいた紙の富にすぎない。
  • レイ・ダリオ氏は、資産価格が高騰し流動性が豊富な環境での量的緩和は“景気後退ではなくバブルへの刺激策”だと警告した。
  • しかし氏は、バブルが存在しても引き金がなければすぐに崩壊するとは限らず、投資家に対しパニック売りではなく分散投資とヘッジを勧めている。
  • 投資家は、バブルの脆弱性と市場の期待や政策による高値の両方を理解し、リスク管理を徹底する必要がある。

コメント

タイトルとURLをコピーしました