テーゼ:2018年中間選挙後の市場回復とトランプ政権の pro‑business 政策
2018年11月の中間選挙では民主党が下院多数を奪還し「ねじれ議会」となったものの、トランプ政権は引き続き法人税減税や規制緩和を推進した。減税が企業利益を押し上げるとの期待や、議会が分裂したことで新たな増税や規制法案が成立しにくいとの思惑が広がり、投資家は長期的に株式市場が上昇基調を維持するとみていた。歴史的に見ても大統領任期4年サイクルの中で中間選挙の翌年は株価が最も強いとされ、2018年の中間選挙後に起こった株価下落は短期的な調整に過ぎないとの楽観論があった。また、米国経済は失業率が3%台半ばまで低下し、消費や住宅投資が堅調であり、こうした経済の底堅さが市場を支えた。
アンチテーゼ:貿易戦争と金融引き締めによる急落
しかし実際には、選挙直後の2018年末にかけて米国株は急落した。トランプ大統領は中国への大規模関税をはじめとする貿易戦争を激化させ、企業のコスト上昇とサプライチェーン混乱への懸念から投資家心理が悪化した。12月には大統領が米企業に「中国から撤退せよ」と発言したことを受け、ダウ平均は一日で600ポイント超下落するなど、政策の予見性の低さが株価の重しとなった。また、2018年に米連邦準備制度理事会(FRB)が4回の利上げを行ったことで長期金利が上昇し、資金調達コストの上昇を嫌気した株式市場は12月にかけて急落、S&P500は第4四半期に約14%下落する歴史的な調整に見舞われた。12月22日から35日間続いた政府閉鎖も政治リスクを象徴し、短期的なボラティリティを高めた。税制改革による企業収益増や株式自社買いがあっても、貿易政策と金融引き締めが与える不確実性の方が大きく、市場は中間選挙後の数カ月間低迷した。
ジンテーゼ:政策の二面性と金融政策の主導
2019年に入ると状況は一変する。FRBは1月に追加利上げ停止を示唆し、その後7月・9月・10月に0.25%ずつ利下げを実施、9月以降は国債買い入れを再開した。こうした金融緩和への転換が市場心理を大きく好転させ、株価は急反発した。S&P500は2019年に29%、ナスダックは35%上昇し、ダウ平均も22%上昇して過去最高値を更新した。企業の利益成長は2018年より鈍化し、GDPも2%前後に減速したが、低金利と豊富な流動性がリスク資産に資金を呼び込み、ITやコミュニケーションサービスといったセクターが牽引役となった。同時期に北米自由貿易協定(NAFTA)を改めた新USMCA協定や、2019年10月に合意した米中「第一段階」合意など、トランプ政権が対外経済摩擦の緩和に動いたことも市場の安心感につながった。投資家は政権の交渉術による合意形成を評価したが、同時に貿易戦争が再燃するリスクを意識し続けた。
この流れは、トランプ政権の経済政策が市場に与えた影響が一面的ではないことを示す。法人税減税や規制緩和は企業収益と株価を支えたものの、貿易戦争や中央銀行への圧力発言は不確実性を高め、市場を急落させた。中間選挙後の市場動向は、FRBの金融政策と対外交渉の進展が株価変動を左右したことを示し、財政政策だけで説明できない。結果的に2019年の株価上昇はトランプ政権の政策というより、金融緩和と政治的不確実性の後退に支えられた面が大きい。市場は政府の政策刺激を歓迎する一方、予見性の低い貿易政策には敏感に反応し、金融政策の方向性に依存するという弁証法的な関係が浮き彫りとなった。
要約
2018年の米中間選挙後、トランプ政権下の米株式市場は短期的には貿易戦争や度重なる利上げへの懸念から急落した。法人税減税などの pro‑business 政策の効果は、関税や政府閉鎖といった不確実性要因によって相殺され、S&P500は2018年末に急落した。その後、2019年にはFRBが利下げへと方針を転換し、米中が貿易交渉で第一段階合意に達するなど摩擦が緩和したことで市場は急反発し、主要株価指数は軒並み過去最高値を更新した。トランプ政権の経済政策は市場に二面性をもたらし、減税や規制緩和が好材料となる一方、保護主義や政治的対立はボラティリティを高めた。最終的には金融政策と国際交渉の行方が株価動向を左右する中心的要因となり、政策が市場に与える影響が矛盾を内包するものであることが示された。

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