テーゼ:危機演出と反転シナリオ
2018年の中間選挙後、米国株式市場は米中貿易摩擦の激化やFRBの利上げ懸念で一時急落した。しかし翌年、FRBが利上げを停止してバランスシート縮小を終了する姿勢を示し、米中交渉が前進したことなどから株価は急反発し、2019年を通じて過去最高を更新した。2020年春には新型コロナ禍による景気急落で主要株価指数が30%以上下落したが、FRBが政策金利をゼロ近辺まで引き下げ、大規模な資産買い入れや信用供与プログラムを開始し、議会が前例のない財政支援を実施した結果、株価は数ヶ月で元の水準に戻った。こうした経緯から、第二次トランプ政権が2026年の中間選挙後に中国との対立を先鋭化させ一時的に市場を暴落させ、その後AI関連の大型契約や景気対策を発表して株価をV字回復させるというシナリオが語られる。歴史的に米国株は中間選挙の翌年に大きく上昇する傾向があり、1932年以降の平均で16%超の上昇を記録している。この「ポスト・ミッドターム・ラリー」アノマリーは、政権が次の大統領選を見据えて景気支援策を打ち出すために生じるという見方もある。
アンチテーゼ:市場回復は独立した金融・財政政策の成果であり、政治的思惑の再現ではない
2019年の市場回復は、FRBが独立して利上げを停止し、利下げに転じたことと、米中貿易交渉の進展が主因であり、政権が意図的に暴落を演出して回復を狙った証拠はない。2020年のV字回復も、連邦準備制度による積極的な流動性供給と議会の大型景気対策が中心であって、大統領個人の裁量で市場が動いたわけではない。FRB議長の任命権は大統領にあるが、議長人事は上院の承認を必要とし、政策はFOMCの合議制で決定される。さらに、1930年代以降のデータでは中間選挙前に市場が弱含み、翌年に高いリターンを示す傾向があるが、これは政治家が市場を操作しているのではなく、選挙前の不透明感が解消されることや、歳出拡大・規制凍結といった政策サイクルの影響が背景にある。過去の平均では翌年に大きく上昇しても、景気後退やインフレ高進などが重なると上昇幅は大きくばらつく。したがって、2026年に同様のV字回復が必ず起こると断定するのは根拠に乏しい。
ジンテーゼ:歴史的パターンと政策環境を総合的に評価すべき
政治イベントは短期的な市場ボラティリティを高めるが、株価の大局を決めるのは金融政策、企業収益、消費動向、地政学リスクなど複数の要因である。中間選挙後の翌年に株式市場が堅調な「アノマリー」は、選挙前の不確実性が解消され、政権や議会が景気を支える施策を打ち出しやすいことから生じてきた。第二次トランプ政権でも、中国との関係悪化が一時的な売り要因となり得る一方、対立が和らいだり大型投資協定が結ばれれば反騰する可能性はある。しかし、そのような動きは世界経済や金融環境全体と連動しており、特定の政治指導者が意図的に暴落と回復を演出するとの陰謀論で説明するのは適切でない。長期的には、投資家は政策サイクルや歴史的傾向を参考にしつつ、分散投資やリスク管理といった基本的な戦略を重視することが重要である。
要約
米国株は歴史的に中間選挙後の翌年に強いリターンを示す傾向があり、1930年代以降平均で16%超の上昇を記録している。2018年後の急落と2019年の急反発、2020年のコロナ禍後のV字回復は、主にFRBの金融緩和と議会の財政支援、米中交渉の進展によるもので、特定の政治家が意図的に市場を操作した証拠はない。2026年の中間選挙後に同様のシナリオが再現されるかどうかは不確定であり、政治イベントを含む多様な経済要因を踏まえた冷静な分析が必要である。

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